新帝国の奴隷 第2話
グリーンツー・高杉真吾は物凄い勢いで車を飛ばしていた。
(…新帝国のヤツらめ…!!)
ハンドルを握る手がブルブルと震える。
(…許さんッ!!)
真吾は思い切りアクセルを踏んだ。
『バイオマン!いや、グリーンツー・高杉真吾!』
秀一を送って1時間も経たないうちに、新帝国ギアのジューノイド・メッツラーからバイオベースへ通信が入った。その後ろには、同じジューノイド・サイゴーンが立ち、秀一を捕らえていた。
『高杉真吾!蔭山秀一は我らの手中にある!助けたければ、お前一人で街外れにある廃工場へ来るがいい!』
メッツラーが勝ち誇ったように声高に叫ぶ。
『だッ、ダメだぁッ!!来ちゃダメだぁッ!!高杉さぁんッ!!』
秀一がサイゴーンの束縛から離れようと、懸命に体を動かす。
『黙れ!くそガキが!』
サイゴーンが秀一の頬を平手打ちする。
「…あいつらぁ…ッ!!」
一言呟くと、真吾は仲間の制止も振り切り、一人飛び出していた。
(…あそこだな…!)
真吾は、街外れの廃工場へ近付いていた。廃工場だけあり、周りはしんと静まり返っている。
(秀一君ッ!待ってろよッ!今すぐ、助けてやるからなッ!)
ハンドルを握る真吾の手に力が入った。と、その時だった。
「…ッ!?…なッ、何だッ!?」
真吾の運転する車が、急に意思を持ったかのように、突如として制御が利かなくなったのだ。
「…くッ!!」
真吾がハンドルを回したり、ブレーキペダルを踏んだりするが、一向に制御が利かない。
「くっそぉッ!!どうなってんだぁッ!!」
そのうち、目の前に工場の壁が見えて来た。
「やばいッ!!」
真吾がブレーキペダルを最大まで踏み付けるが、車はなおも前進する。
「うわあああッッッ!!」
止むなしと見た真吾は車のロックを外し、思い切り車外へ飛び出した。そして、ゴロゴロと転がった。車は大きな音を立てて工場の壁にぶつかり、そして止まった。
「ハーッハッハッハ…!!」
大きな笑い声がしたかと思うと、工場の屋根の上にサイゴーンがスゥッと姿を現した。
「サッ、サイゴーンッ!!」
真吾は立ち上がると、さっとファイティングポーズを取った。
「いかがだったかな、私のホラーキネシスは?」
ロボット然の風貌のサイゴーン。そのニヤリとした顔付きが、更にニヤリとしたように真吾は思えた。
「秀一君を、どこへやったッ!?」
真吾がサイゴーンを睨み付ける。するとサイゴーンは、
「慌てるな。ちゃんと丁重におもてなししているよ」
と真吾を半分小馬鹿にしたように言った。
「だったら、今すぐ、秀一君を解放しろ!」
真吾がそう言うと、サイゴーンは、
「いいだろう」
と言った。
「ただしッ!お前を処刑してからな!」
その途端、サイゴーンの顔がクルリと変わり、真っ赤な細長い目付きの顔が正面に現れた。
「サイゴーン、フレアーッ!!」
その口がマネキンのようにカタンと開き、そこから円筒が現れた。そして、その円筒から巨大な火の玉が吐き出されたのである。そして、それは真吾の目の前で爆音と共に爆発したのである。
「うわああああッッッッ!!!!」
真吾が叫ぶ。そして、背後へ吹き飛ばされた。
「…よぉし…ッ!!」
真吾の目が力強くサイゴーンを睨み、立ち上がった。
「行くぞぉっ!!グリーンツーッ!!」
大きな叫び声と共に、真吾は両腕を頭上で重ねた。右手は開き、左手は握り締め、それを胸の前まで素早く下ろしたのである。その瞬間、真吾の体が光り、光沢のある鮮やかな緑と白のスーツ姿、グリーンツーに変身していたのだった。
「行くぞぉッ、サイゴーンッ!!」
真吾がサイゴーンに飛びかかろうとしたその時だった。
「…ぐッ!?」
不意に真吾は、首を絞め付けられるような感じがした。そして、体を大きく弓なりにさせた。
「フハハハハハ…ッ!!」
スゥッと姿を現したのはメッツラーだった。
「…メッ、…ツラー…ッ!!」
ペンチ状の左腕が、真吾の首をガッシリと掴んでいたのだ。
「俺がいるのを忘れてもらっちゃあ、困るなぁッ!!」
そう言うとメッツラーは、左腕から真吾を振り払った。その反動で真吾がクルリとメッツラーの方を向く。
「ふんッ!」
メッツラーは右手に持っていたレイピアで真吾の顔を叩く。
「ああッ!!ああッ!!」
何度か両頬を叩かれ、真吾が思わず倒れ込む。
「サイゴーン、デスビームッ!!」
背後からサイゴーンが、すかさずビームを放つ。
「ああああッッッッ!!」
その電流に真吾は体を弓なりにさせ、地面の上でのた打ち回る。
「さて、次は…!」
メッツラーがそう言って真吾に近付いたその時だった。
「待てッ、メッツラーッ!!そいつはオレの獲物だ!!」
どこからともなく声が聞こえた。
「…そ、その声は…ッ!?」
真吾が思わずその声の主を探す。しかし、その声の主を認めた瞬間、グリーンツーのマスクの中の真吾の顔は真っ青になった。
「…プッ、…プリンス…ッ!?」