新帝国の奴隷 第14話

 

「…さん…!!…真吾さん…ッ!!

 遠くからぼんやりと声が聞こえる。何度も聞いた、懐かしい声だ。

「真吾さんッ!!しっかりしてッ!!真吾さんッ!!

 今度ははっきりと聞こえた。やや高めの、まだ幼さを残す少年の声だ。

「…う…!!

 ぼんやりと視界が開けて来る。瞳に人間の頭部のような輪郭が映った。そして、その向こうには、どうやら天井のようだ。

(…オレ、…寝ているんだ…?)

 ようやく意識がはっきりして来た時だった。自分の顔を覗き込んでいる少年の顔を見た瞬間、真吾は怯えた表情を見せ、

「う、うわああああッッッッ!!!!

 と叫んで飛び起きた。

「うわあああッッッ!!!!あああッッッ!!!!

 狂ったように叫ぶ真吾。

「どッ、どうしたのッ!?真吾さんッ!!落ち着いてッ!!

 自分の肩に手をかけるその少年。

「真吾さんってばッ!!

 その強めの口調に、真吾ははっとなってその少年をまじまじと見つめた。

「…秀…一…君…?」

 目の前には、自分と色違いの真っ赤なジャンパーを着て、白のジーンズを穿いている少年・蔭山秀一がいたのだ。

(…そう言えば、オレ、いつの間にか変身が解けてる…)

 自身の濃紺のジャンパーに白のジーンズが目に映った。

「…大丈夫、真吾さん?」

 くりくりとした瞳で真吾を心配そうに見つめる秀一。

「…せ、…洗脳が、…解けたのかい…?」

「洗脳?…何のこと?」

 きょとんとした表情で真吾を見つめる秀一。

「…君が、…ドクターマンに洗脳されて、…自分の意思でプリンスになって…」

 その言葉を聞いた瞬間、秀一がケラケラと笑い始めた。

「…し、…真吾さぁん…!…僕は、…ずっとここにいたよぉ!」

 腹を抱え、涙を流しながら笑う秀一。

(…そう言えば…)

 改めて部屋の中をぐるりと見回す。鉄格子に囲まれた冷たい空間ではなかった。

「…ここは、…どこなんだい?」

 真吾が秀一に尋ねる。すると秀一は表情を曇らせ、

「…恐らく、…新帝国の秘密要塞の中だろうね…」

 そう言うと秀一はゆっくりと立ち上がった。

「…サイゴーンやメッツラーに攫われてから、僕はずっとこの部屋に閉じ込められていたんだ。…どのくらい時間が経ったのか分からないけど、グリーンツーに変身していて、ぼろぼろにやられた真吾さんが運び込まれて来たんだ」

「…そっか。…それでオレはここに…」

 言うが早いか、真吾は顔を真っ赤にし、

「…あ、…あぁ…!!

 と呻いて頭を抱えた。

「どッ、どうしたのッ、真吾さんッ!?

 驚いた秀一が真吾の肩に手をかける。

「…オレは、…オレは…ッ!!

 プリンスの目の前で辱められ、何度も射精したことを思い出す。

「うああ…ッ!!

 その時だった。真吾の心臓がドクンと脈打ったかと思うと、下半身のそこに熱が集中した。

「…真吾…さん…?」

 それを見た瞬間、秀一が呆然となった。

「…見るなァァァッッッ!!!!

 真吾はそう言うと秀一を突き飛ばし、部屋の隅に蹲った。

「…オレは、…プリンスに陵辱されて…、…何度も恥辱行為を受けて…!」

 その時だった。

 ゆっくりと秀一が近付いて来たかと思うと、真吾の両肩に手をかけ、ゆっくりと立ち上がらせたのである。

「…秀一…君…?」

 ちょっと驚いた表情の真吾。その時、秀一の顔が動いたかと思うと、自身の唇を真吾の唇に静かに押し当てたのだ。

「…ん…」

 プリンスとは違う、優しい口付け。

 どれくらい経っただろう。秀一の顔が静かに離れた。

「…?」

 真吾は声を発することなく、ただ、秀一を見つめている。

「…落ち着いた?」

 優しい表情の秀一。そして、ゆっくりと真吾に抱き付き、両腕を真吾の背中へと回した。

「…僕のせいで、真吾さんを酷い目に遭わせて、…ごめんなさい」

「…秀一…君…」

 見られまいと懸命に顔を背ける秀一の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「…僕のせいで、…真吾さんが…、…そんなことをされていたなんて…!!

 その時だった。秀一は頭をくしゃくしゃと撫でられた。

「…真吾…さん…?」

 秀一の目の前には、ニッコリと微笑む真吾がいた。開いた口元からは特徴ある八重歯がしっかりと見えている。

「気にすんなよ、秀一君!」

 いつもの明るさを取り戻したかのように、真吾が笑っている。

「今のキスで元気が出たよ、秀一君!」

 そう言うと真吾は、部屋をぐるりと見回した。

「何とかして、ここから抜け出さないと…!」

 その時だった。

 不意に秀一が再び真吾にしがみ付いて来たのだ。

「…ど、…どうしたんだい、…秀一君…?」

 真吾の心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。秀一は、真吾の正面からしっかりと抱き付き、顔を真吾の胸に埋めている。

「…おい、秀一君!」

「…怖いよ…!」

 カタカタと震える秀一。

「…父さんが、…僕を自分の子供だとも思わずに、…こんな酷いことをするなんて…!」

 その時、秀一が顔を上げ、真吾を見つめた。

「…秀…一…君…」

 その瞳にまるで吸い込まれるかのように、意識が思わず遠のきそうになる真吾。

「…真吾さん…」

 ゆっくりと秀一の顔が再び近付いて来る。

「…キス…、…してよ…!…僕を、…もっと落ち着かせて…!」

 そう言うと秀一は、真吾の唇に再び自身の唇を押し当てた。

 

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