Mr.MOONLIGHT 第21話
「…ペコ…?」
ザック君のきょとんとしたような声が聞こえた時、ワテクシ達の周りを爽やかな風が吹き抜けたのが分かった。
「…オレ…、…オレ、…どうしたんだっけ…?」
周りをキョロキョロと見回すザック。そして、その視線が自身の下半身へ行った時、
「…う、…うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と悲鳴を上げた。
ザック君のがっしりとした2本の足の付け根部分。仮面ライダーナックルの真っ黒なライドウェアの中で、ザック君の男である象徴のペニスが大きく勃起し、その先端部分を真っ白な液体でぐっしょりと濡らしていたからだ。
「…オッ、…オレッ!!…オレッ、何で射精してんだよッ!?」
その時だった。
「…サ…ック…!!」
「へ?」
目の前にいる仮面ライダー黒影・真に変身したペコ君の声が震えている。そして、
「…ザック…!…ザックううううううううッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と叫んだかと思うと、ザック君に飛び付いた。
「うおッ!?」
不意のことでバランスを崩したザック君。ペコ君を抱えるようにしてそのまま地面に倒れ込んだ。
「お、おいッ、ペコッ!!…み、…みんなが見てる…ッ!!」
じぃっと注がれる全員の視線。その視線に、ザックは顔が真っ赤になった。でもペコは、
「バカバカバカバカッッッッ!!!!ザックのバカああああッッッッ!!!!…ぼッ、…僕やみんながどれだけ心配したか、…分かってんのかよおおおおッッッッ!!!!…ザックが、…ザックがみんなに刃を向けたこと、…分かってんのかよおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、両手でポカポカとザックの体を殴り付ける。
「オッ、オレがッ!?」
ペコ君を抱きかかえたまま、ザックは驚いて体を起こす。すると、仮面ライダーバロンに変身したバナーヌが、
「ああ。貴様は狗道供界に操られ、俺達に刃を向けた。それは変わらぬ事実だ!」
と言い放った。その言葉に呆然としていたザック君だったが、
「…あ…」
と声を上げると、
「…思い…出した…」
と言い出した。
「…ザック?」
その言葉に顔を上げるペコ君。
「…そうだった…。…シャルモンでみんなでお茶をした帰り道、オレとペコは狗道供界と名乗る不気味な男と遭遇した。…オレに、…一緒に来いとか、…オレが欲しいとか、気持ち悪いことを言いやがって…!…そしたら、…初瀬がいて…」
「そうだ。初瀬もあいつに操られていた。そして、お前と同じように我々に刃を向けて来た、と言うわけだ」
仮面ライダー斬月・真のメロンの君が静かに言う。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
その瞬間、ザックが体を震わせる。
「…初瀬を助けたオレは、…あいつと戦おうとした。…でも、…オレは…!!…オレは…!!…あいつに捕らえられ、…そして…、…そして…ッッッッ!!!!」
「そ、それ以上は言わなくてもいいよッ、ザックううううッッッッ!!!!」
ペコ君がザックにしがみ付く。
「…て、…てんめええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ブルブルと怒りに震えるザック君は立ち上がると、傍でワナワナと体を震わせている供界を睨み付けた。
「…よくも…ッ!!…よくも大事な仲間に、…オレが守りたいと思っている仲間達に、刃を向けさせてくれたなああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
だが、供界はそれが聞こえているのか聞こえていないのか、
「…バカな…!!…私の、…私の呪いが、…呪縛が、…解かれるとは…!!」
とぶつぶつと呟いている。
「だから言っているだろう?所詮、君はただの怨霊だと。誰にも相手にされなかったことを逆恨みし、自らを創造神とした、自分に都合のいい世界を作り出そうとした哀れな怨霊だ。君には何の魅力も感じない!君はここにいるべき存在ではないんだ!!」
「お、おい、凌馬ッ!?」
仮面ライダーデュークの戦極凌馬が珍しく怒っている。それを見たメロンの君は何も言えなくなってしまっていた。
「…気に入らないなァ…。…私が知らないロックシードを造り出して、私よりも、いや、私達よりも大きな力を得ようとするなんて…!!」
そう言うと、凌馬はあるロックシードを取り出した。
「許せないんだよッ、そう言う存在はッ!!私が造り出したロックシードの方が遥かに上だと言うことを思い知らせてあげようッ!!」
その時だった。
「…黙れ…!…黙れ黙れ黙れええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
供界が喚いた。その声が不気味に低い声と入り混じり、その体が邪悪な気に包まれ始めた。
「…貴様ら、…全員、許さんッ!!…全員、…皆殺しだああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
供界がそう叫んだその瞬間、供界を包み込んでいる邪悪な気が一気に膨れ上がった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
不気味な咆哮が辺りを劈く。
「…く、…供界め…!!…最後の、…手段に出たか…!!」
「最後の手段ッ!?」
メロンの君の声にワテクシは思わず聞き返した。
「…ヤツの真の姿は…、…大蛇だ…!!」
「…グルルルルルルルル…!!!!」
不気味な唸り声が聞こえたその瞬間、ワテクシ達は言葉を失った。
「…頭が…、…8つ…!?」
体は1つなのに、頭は8つ。
「ザック君、ちょっと頼まれてくれないかなぁ?」
その時、戦極凌馬がザック君の元へ歩み寄り、さっき取り出したロックシードを手渡した。
「…何だ、これ?」
エナジーロックシードに似ているそれ。その形は耀子が仮面ライダーマリカに変身する際に使うピーチエナジーロックシードに似ている。
「マロンエナジーロックシードさ!それを君の戦極ドライバーに嵌め込み、君は仮面ライダーナックル・ジンバーマロンアームズにレベルアップ出来るんだ!」
「…フン!」
その時、ザック君が鼻で笑った。
「…確かに、オレはレベルアップ出来るかもしれない。今、目の前にいる化け物を倒せるかもしれない。…だが、…それは同時に、このマロンエナジーロックシードの性能テストも兼ねている、ってことじゃないのか?」
すると戦極凌馬は、
「おっと!そこまでお見通しだったとは!さっすがだねぇ!」
と言い、カラカラと笑った。
その瞬間、戦極凌馬はバナーヌに胸倉を掴まれていた。
「…貴様ァ…!…この期に及んでまだ実験をするのかッ!?」
「まあまあ、戒斗」
鼻息荒く、目を血走らせながら戦極凌馬を睨み付けるバナーヌの腕をザック君は掴み、穏やかに微笑んでいる。
「性能実験だろうが、今は関係ねえ!それよりも今は、目の前にいる化け物を倒すのが先だッ!!」
そう言うとザック君は供界と対峙する。
「行くぜッ!!オレの新たな力ッ、見せてやるッ!!」
そう言うと、ザック君はマロンエナジーロックシードの錠前を外した。
「マロンエナジー!」
甲高い音声が聞こえたその瞬間、ザック君の体が光り始めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ザック君が雄叫びを上げ、体を反らせる。そして次の瞬間、ザック君の体は大きな鎧が纏わり付き、陣羽織のようなものを羽織り、ナックルボンバーの代わりに大きく刺々しいマロンボンバーを握っていた。
「オレの大事な仲間を傷付けさせてくれた礼、たぁっぷりとお返ししてやるぜッ!!」
構えるザック君。その体からは怒りのオーラが溢れていた。