逆転有罪 第7話
『地上の状況はどうだ、ラクレス?』
ゴウウウウン、ゴウウウウンと言う機械音が聞こえる大広間。その一番奥。天窓から眩しい光が差し込んで来るそこにある機械のネジをあしらったようなデザインの玉座にどっかりと腰かける男。静か、だが、どこか冷徹さを帯びたその瞳が目の前にふわふわと浮いているモニターのようなものを見つめていた。
そして、そのモニターの中は真っ暗で、かがり火がパチパチと音を立てている。そこに映し出された巨大なミミズの生命体・デズナラク8世の低い声が聞こえていた。
「…ああ…」
玉座にどっかりと腰かけたまま、微動だにしないラクレスの口が開く。
「…問題はない。…全て順調だ…」
『そのわりには浮かない顔をしているが…?』
「…フンッ!!」
ラクレスが鼻で笑う。
「浮かない顔にもなるだろう。バグナラクとの和平交渉と言いながら、実質のところはこのシュゴッダムが世界の全てを掌握しようとしているのだ。それに、私はお前達を信頼などしていないのだからな」
その時、ラクレスの視線がキョロッと動き、モニターの奥のデズナラク8世を睨み付けるようにした。
「私がこの地上を掌握した途端、貴様達は手のひらを返し、私を抹殺するだろう。停戦、同盟、和平…。全てはほんの一瞬のことに過ぎない。所詮は机上の空論にしか過ぎないのだ」
『…ククク…!!』
その時、モニター越しのデズナラク8世が笑い始める。
『安心しろ、ラクレス。貴様が地上を掌握した暁には、我々は地上の侵攻を止めるとしよう』
「…何?」
ラクレスの顔がピクリと動く。
『三大守護神の言い伝えだ。三大守護神仲良しこよし。お日様目指して天まで昇れ。さすれば、世界はひっくり返る』
「…ククク…!!」
デズナラク8世が三大守護神の言い伝えを口に出した時、ラクレスが低く笑った。
「…何が仲良しこよし、だ。貴様らは三大守護神を手に入れた途端、仲良く天に昇ろうとなんてしないだろう。それこそ、地上と地底がひっくり返るくらいのことをやってのけるのではないのか?…だが、そうやすやすと事が運ぶと思うなよ?」
そう言ったラクレスの目が大きく見開かれ、モニターの奥のデズナラク8世を睨み付けていた。
「我々人間の力を侮るな!!私にはたくさんの協力者がいる。まさか、2000年前のことを忘れたのではあるまいな?」
ラクレスは言葉を続ける。
「2000年前、貴様達は我々の力によって地底の奥深くに封印された。もし、再び、地上を征服しようと企むのであれば、我々は容赦ない。今は私がこの地上を掌握するために、一時的に貴様達と手を組んでいるだけのこと。私がこの地上を掌握したら、貴様達など用はない。例え、貴様達がこの地上を支配しようと企むのならば、各国の王の力によって、貴様達は再び地底の奥深くに封印されるであろうッ!!」
『…』
ラクレスの気迫のこもった言葉に、デズナラク8世はムッとした表情を浮かべた。だがすぐに、
『…まぁ、いい。今は貴様に従おう。…時に、各国の王達はどうしている?』
と尋ねる。するとラクレスは、
「問題はないと言ったはずだが?」
と、やや不機嫌な表情で言った。
「トウフも、イシャバーナも、そして、ゴッカンも我が手中に治めた。残るはンコソパだ」
『…ヤンマ・ガスト…、…か…』
デズナラク8世が声を上げる。
『貴様を除く4人の国王の中で最もクセが強く、一筋縄では行かぬ男…』
「なぁに、私からしてみれば、大したことはない」
『どうするのだ?』
デズナラク8世がそう言った時、ラクレスは手にしていたあるものを見せた。
『…それは…』
「ゴッドスコーピオの毒だ。他の3人の王も等しく、この毒に操られた。一筋縄では行かない曲者であるンコソパ国王だからこそ、更なる屈辱を与えるつもりだ」
ラクレスがそう言った時だった。
…コツ…、…コツ…。
いくつかの足音が、大きく吹き抜け状になった広間に響き渡る。それをモニター越しに見たデズナラク8世は、
『…む…、…うううう…ッッッッ!!!!』
と呻くような声を上げた。
「…ククク…!!」
勝ち誇ったようなラクレスの笑み。
「分かっただろう?こいつらは既に私の操り人形。私の一言で、貴様達など簡単に滅ぼすことが出来る…!!」
ラクレスの横に立っている人間が3人。ハチオージャーに王鎧武装したカグラギ、カマキリオージャーに王鎧武装したヒメノ、そして、パピヨンオージャーに王鎧武装したリタが静かに立っていた。だが、その体からは不気味なオーラのようなものが漂っていたのだ。
『…ク…ッ!!』
デズナラク8世が悔しそうな声を上げる。
「地底を滅茶苦茶にされたくなかったら、大人しくしていることだな!!」
ラクレスがそう言った途端、モニターの電源がブツッと言う鈍い音を立てて切れていた。
「…フンッ!!」
その時、ラクレスは鼻で笑うと、
「デズナラクめ、あまりの悔しさに自ら電源を切ったか…」
と言い、
「…ククク…ッ!!…あはーっはっはっは…ッッッッ!!!!」
と高らかに笑った。
「私はッ!!自らの欲望を叶えるためならば、たとえ、バグナラクと手を組もうとも、悪に魂を売ることになろうとも、必ず、成し遂げるッ!!この世界を支配するためには、手段を選ばんのだああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!はーっはっはっは…ッッッッ!!!!」
ひとしきり高らかに笑うと、ラクレスはゆっくりと振り向いた。
「準備はどうだ、カグラギ?」
「…お任せ下さいラクレス様。全て、万端に進んでおりまする」
ハチオージャーのマスクの中で、カグラギの目がギラリと光る。
「我々が丹精込めてご用意した料理の数々。その中にヒメノ様が調合された毒を含ませております」
「…ええ」
今度はカマキリオージャーのマスクの中で、ヒメノの目がギラリと光った。
「ゴッドスコーピオの毒は強力過ぎる。あっと言う間に命を奪ってしまうもの。だから、私がその毒を弱毒化した。けれど、人を操るくらいの毒性は持ち合わせているわ」
「頼もしいな、我が下僕達よ」
ラクレスが満足気な笑みを浮かべる。そして、
「裁判長。これは犯罪にあたるのかね?」
と尋ねる。すると、
「私はいかなる立場においても中立だ。ラクレス様のやることにとやかく言うつもりはない」
と、パピヨンオージャーのマスクの中で、リタの目がギラリと光った。
「…ククク…!!…あーっはっはっはっは…ッッッッ!!!!」
ラクレスが目をギラギラさせ、大声で笑う。
「よぉしッ!!次はンコソパだッ!!あのクソガキを最も屈辱的な方法で私に跪かせてやるのだああああッッッッ!!!!」
「…では、手はず通りに…」
カグラギがニヤリとして言う。
「じゃあ、私も向かいますわ」
ヒメノがそう言うと、
「…ああ…」
と、リタも頷いた。
「…ククク…!!」
ラクレスが笑う。
「…ヤンマ・ガスト…。…貴様は最も屈辱的な方法で私の下僕にしてやる…!!」