スティンガーの憂鬱 第7話

 

「…う…、…うう…ッ!!…うええ…!!

 ぐしぐしと嗚咽を繰り返し、コンボ―ブリッジにやって来た小太郎。そのくりくりとした大きな目からぽろぽろと大粒の涙が溢れ出している。

「どうした、小太郎?」

 普段、あんなに強い小太郎が泣くなんて珍しいこともあるものだと呑気に構えていた俺の視線が小太郎のある一点に行った時、俺は凝然となった。

 小太郎のベージュ色のチノパン。成長途中の、中途半端に伸びている両足の付け根部分にある小太郎の男としての象徴が大きく勃起し、テントを作り上げていたのだ。そして、小太郎は、

「…い、…痛い…よぉ…!」

 と泣いていた。

「…何が…、…あった…?」

 こんな時、何があったと聞くのも変なのかもしれない。だが、相手は10歳のまだまだ子供だ。恐らく、経験したことのない痛みと変化に混乱し、どうしたらいいのか分からないのだろう。

 その時だった。

Buongiorno!(ボンジョルノ)」

 スパーダがニコニコと笑顔を浮かべ、ご機嫌に入って来た。だが小太郎が泣いているのを見た途端、その顔が一変し、

「どどど、どうしたのッ、小太郎ッ!?

 と物凄く慌てて駆け寄って来た。そして、俺を見ると、

「スティンガーッ!!小太郎に何かしたのかいッ!?

 と詰め寄って来たのだ。俺ははぁと溜め息を吐き、

「…俺が何かするように見えるか?」

 と言ってやる。だが、スパーダは、

「ここにいるのは小太郎とスティンガーしかいない。それで小太郎がぐしぐしと泣いてる。だとしたら、考えられるのは、君が小太郎に何かしたとしか思えないじゃないか!」

 と言って来た。俺もさすがにその言葉にカチンと来て、

「バカを言え!こんな子供相手に何かするほど、冷酷な人間じゃない!」

 と言ったその時だった。

 ゲシッ!!

 鈍い音と同時に、俺の足にちょっとした痛みが走り、

「だッ!?

 と、思わず目を見開き、声を上げていた。俺の脛の部分に小太郎の右足が減り込んでいる。

「…こ、…こた…ろ…う…!?

「…兄貴まで、…オレをいつまでも子供扱いするなッ!!

 えぐえぐと泣きながら、俺を涙がいっぱい溜まった目で睨み付けて来る。

「小太郎ッ!!スティンガーに何かされたんじゃないのかいッ!?

 それでもスパーダは俺を疑っているようだ。

「スパーダぁッ!!

 俺もそろそろ我慢の限界。うんざりした表情で大きな声を上げたその時だった。

 ゲシッ!!

 再び鈍い音が聞こえ、

Mamma mia(マンマ ミーア)アアアアッッッッ!!!!

 と、スパーダが甲高い悲鳴を上げていた。

「小太郎も、いつまでも泣いていちゃ、分からないだろう?」

 俺はそう言うと小太郎の目の前に身を屈め、

「何があった?」

 と問い掛けた。すると小太郎はひくひくとしゃくり上げながら、

「…あ、…あの…ね…」

 と話し始めた。

 

「…ねぇ、ラッキー兄ちゃん」

 ラッキーの部屋でのんびりと静かな時を過ごしていた小太郎。その横で筋力トレーニングを繰り返すラッキーを何気なく見つめた小太郎が言葉を発した。

「ん?」

 上半身裸のラッキー。その筋肉質な体に浮かび上がる汗が、部屋の照明に照らされてキラキラと輝いている。

「ラッキー兄ちゃんの体、凄くカッコいいね!」

「そうかぁ?」

 二の腕の筋肉を浮かび上がらせたり、息を止めてくっきりと割れている腹筋を見せ付けたりする。

「まぁ、筋力トレーニングは好きだからな!それに」

 ニヤリとするラッキー。

「その方が、女の子にもモテるしな!」

「…そんなもんなの?」

 きょとんとする小太郎。そして、

「…オレはまだ子供だから、分かんないや…」

 と言った。

「らしくねぇなぁ」

 しゅんとなっている小太郎を不審に思ったのか、ラッキーは小太郎の横に座ると小太郎をじっと見つめた。

「いつもなら『いつまでも子供扱いするな!』って言うくせに」

「…うん…」

「…何かあったのか?」

 ラッキーまでもが深刻そうな顔付きをしてしまっている。すると小太郎は小さく首を振って、

「何にもないよ。でも、オレもラッキー兄ちゃんやスティンガー兄貴みたいに筋肉隆々な大人になりたい…!」

 と言った。

「心配すんなって!」

 ラッキーはニッコリとすると、小太郎の頭にぽんと手を置いた。

「たくさんご飯を食べて、たくさん運動して、たくさん寝れば、きっと小太郎も大きくなれるさ!…って言うかさ!」

 その時、ラッキーは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「小太郎、お前、下の毛は生えて来たのか?」

「んなッ!?

 あまりに突然のことに、小太郎の顔が真っ赤になった。

「…そッ、…そう言うラッキー兄ちゃんはどうなんだよッ!?

 余程、パニックになっているのか、当たり前のことを思わずラッキーに聞いていた。するとラッキーは、

「オレは大人なんだから、生えてて当然だろッ!!

 と言ったかと思うと、ジーパンのベルトをカチャカチャと外し始めた。

「なッ、何やってんだよッ、ラッキー兄ちゃあんッ!?

 真っ赤になっている顔が更に真っ赤になる小太郎。ラッキーは相変わらずニヤニヤとしながら、

「見てろよ〜!」

 と言い、

「おりゃああああッッッッ!!!!

 と言う掛け声と共に、ジーパンを足元へずり下ろした。

「…うわ…」

 顔を思わず両手で覆った小太郎。だが、その指の間から覗く2つのクリクリとした大きな瞳は、ラッキーの2本の足の付け根部分にある大きな膨らみを凝視していた。

「デケエだろ?」

 真っ赤なボクサータイプの下着。その中心部に浮き出た、ラッキーの男としての象徴。

「…あ、…ヤベ…!」

 その時、ラッキーのペニスがムクムクと臍へ向かって大きくなって行ったのだ。

「小太郎に見られて、大きくなっちまったぜ!」

「なッ、何考えてんだよッ、変態ッ!!

 その時だった。

「…痛ッ!!

 突然、小太郎が顔をしかめ、腰をくの字に折り曲げた。

「…小太郎…?」

「…な、…何…、…これ…?」

「…あー!」

 ラッキーは小太郎のもとへ駆け寄ると、小太郎の体をしっかりと押さえた。

「やッ、止めてよッ!!ラッキーッ!!

 ラッキーと小太郎の力の差は雲泥の差で、ラッキーは小太郎の両腿を持ったかと思うと、グイッと左右へ押し広げた。

「何だよ、小太郎ッ!!お前も勃ってんじゃねえかよッ!!

「ラ、ラッキー兄ちゃんのを見てたら、何か、ムズムズしちゃったんだよッ!!

「あはッ!いいぞぉ、小太郎ッ!!

 何がいいのか分からない。だが、ラッキーは相変わらず大声で、

「じゃあ、オレのを見せてやるよッ!!

 と言い、ボクサータイプの下着に手を掛けた。そして、

「見ろッ!!オレの生き様をッ!!

 と叫んだと同時に、その下着をズルリと足元へ下ろしたのだった。

 

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