おにぃさんの性教育 第9話
「…オレと…、…しないか…?」
鮫島が言った言葉に、豹は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。だが、さすがの豹も気付いたのか、俄かに顔を真っ赤にし、
「…ししし、…しないか…って…、…ななな、…何を…!?」
と声を震わせて尋ねた。すると、鮫島も同じように顔を真っ赤にして、
「…だッ、…だから…ッ!!」
と言うと、
「…セ…ックス…、…だ…!!」
と、豹の顔を見ずに言ったのだ。その言葉に豹は目を大きく見開いて、
「…ひょッ、ひょひょオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!????」
と素っ頓狂な声を上げていた。
「…何だよ!?」
「…い、…いやいや…!!…いやいやいやいや…!!」
頭が相当混乱しているのだろう。豹は両手をバタバタさせながら、必死に次の言葉を探しているようにも思えた。
「だだだ、だって鮫島ッ!!…おッ、…お前ッ、飛羽と付き合ってるんだろうッ!?」
「うん」
「…ててて、て言うことは…。…オッ、オレとセックスすると言うことは…、…そそそ、それって浮気になっちゃうんじゃないのか!?」
「だから?」
「だッ、だからって…」
その時、豹は鮫島に強く抱き締められていた。
「…え?」
トクン…。トクン…。
鮫島の温もりに包まれながら、豹がきょとんとする。トクン、トクンと言う鮫島の優しく穏やかな心臓の音が聞こえて来る。
「…豹…」
「はッ、はひッ!?」
「…オレ…。…本当は豹のことが好きなんだ…」
「…ひょ?」
豹は言葉を発することが出来ないほどに固まっている。すると鮫島は豹と向かい合うと、
「オレには弟がいたこと、お前も知ってるよな?」
と言った。
「…あ…、…あ…、…あぁ…」
鮫島の家族。考古学者の父と母、そして、弟。家族でかつてアフリカに住んでいた時、両親と弟の勝を戦争で亡くした。
「…オレには…。…お前が、弟のように思えるんだ…」
「…鮫…、…島…?」
いつの間にか、鮫島と豹は向かい合い、じっとお互いを見つめ合っていた。
「…鮫島…」
さっきまでの照れたような、困ったような表情から一転、鮫島の真面目な眼差しに吸い込まれそうになる。
「確かに、お前はオレの弟の、…勝の代わりじゃない。もちろん、そんなことは分かってる。でも、オレにとっては、お前は本当に弟のように思えるんだ!!」
「…」
「…オレは…。…オレは、豹を守りたい。…飛羽のいじわるから、お前を守りたいんだ…!!」
「…さめ…」
その時だった。
「…ん…ッ!!」
豹は目をカッと見開き、体を硬直させた。
…チュッ!!…チュクチュク…ッッッッ!!!!
くすぐったい音が辺りに響き渡る。
「…ん…ッ!!…んん…ッ!!」
豹の唇に、鮫島の唇が押し当てられ、更にそこから鮫島の舌が豹の口の中に入り込み、くすぐったい音を立てながら蹂躙していたのだ。
「んんんんッッッッ!!!!んんんんッッッッ!!!!」
ゾクゾクとした感覚。全身に鳥肌が立つ。
「…さ…ッ、…さめ…ッ!!」
クチュクチュクチュクチュッッッッ!!!!クチュクチュクチュクチュッッッッ!!!!
「…は…ッ、…ああ…ッ!!」
乱暴な鮫島のキス。まるで、自身の気持ちを全てぶつけているような、そんな感覚に豹もパニックになっていた。
「…さ…ッ、…鮫島…。…鮫島ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
顔を真っ赤にして豹が叫ぶ。すると、鮫島は顔を少しだけ離すと、
「…フフッ!!」
と笑った。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
豹は顔を真っ赤にし、目を潤ませて荒い呼吸を繰り返している。
「お前のセカンドキスはオレがもらっちまったな…!!」
「…あ…あ…あ…あ…!!」
ファーストキスは飛羽、そして、セカンドキスは鮫島。どっちも男だ。
「なぁ、豹」
「…なッ、…何だよッ!!」
意地悪な顔付きをしていたと思えば、また真面目な顔付きをしている。そんな鮫島に振り回されっぱなしだ。
「お前はどうなんだよ?」
「ひょ?」
きょとんとする豹。すると鮫島は、
「…お前は…。…こう言うことに興味あるのかって聞いてるんだ」
と言ったのだ。
「…え…、…え…っと…」
「ないわけないよな?だって、美佐ちゃんのことを思いながら右手を…」
「わああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
今度は豹が鮫島に飛び掛かるようにし、鮫島が下になった。
「…だッ、…だから…ッ!!…それは言わないで…!!」
その時、豹の体から力が抜け、鮫島の横に両膝を抱えて座り込んだ。
「…そ、…そりゃ、…お、…女の子といろいろ出来たらいいなって思うよ?…でも…」
普段、あんなに明るくて元気な豹がやけに落ち込んでしまっている。
「…でも…。…オレは女の子と付き合ったこともないし、ましてや、経験もないし…」
「だから、それを経験させてやるって言ってるんじゃないか!!」
「ででで、でもッ、相手が鮫島なんて…」
「じゃあ、お前、ずっとこのままでいいのか?」
鮫島が尋ねると、
「それも嫌だああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、豹は大声を上げて再びえぐえぐとしゃくり上げ始めた。
「…フフッ!!」
その時、鮫島が笑ったかと思うと、
「じゃあ、お前が男になるしかないよな!!」
と言った。
「でッ、でもッ!!」
「ああッ、もうッ!!いい加減、覚悟を決めろッ!!オレがお前を男にしてやるって言ってるんだから!!」
「…ひょッ、ひょひょオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!????」
いや、だから何故、鮫島と、飛羽と付き合っているようなヤツとセックスをしなければならないんだ、と豹は思っていた。しかも、相手は豹と同じ男だ。それなのに…。
だが。
ドクンッ!!ドクンッ!!
それとは裏腹に、豹の心の奥底にはおぞましい感情が湧き上がり、それが豹を支配しようとしていることも確かだった。そして、バルパンサーに変身し、光沢のある鮮やかな黄色のスーツに身を包んだ豹の2本の足の付け根に息づく、豹の男としての象徴が再び熱を帯び、ぐっしょりと濡れたその中で大きくテントを張っていたのだった。