新帝国の奴隷 第11話

 

「…う…!」

 どのくらい時間が経っただろう。冷たい、無機質な空間の中で、グリーンツーに変身した高杉真吾がドサッと言う音を立てて倒れ込む。

「…あ…、…が…ッ!!

 2つの激しい痛みが真吾を襲う。1つは、サイゴーンの不動念力によって体の自由を奪われ、操られた右手で何度も自身の股間を叩き付けた物理的な痛み。いくらバイオスーツで守られている体であるとは言え、同じバイオスーツで引き出された力で自身の命の次に大切なところを叩かれる、いや、殴られるのだ。「矛盾」とはこのことを指すのだろう。

 そして、もう1つの痛み。

 信じたくなかった、衝撃の真実。目の前に現れたプリンス。ドクターマンによって作られたメカ人間だと思っていたプリンス。そのプリンスが、こうなる直前まで一緒にいた高校生・蔭山秀一だったこと。しかも、洗脳されてではなく、自らの意思でプリンスになったこと。真吾を自分自身のものにしたくて、好きだからこそ、真吾を痛め付けようとする猟奇的な考え。その全てが、今の真吾には重かった。

「…う…、…うあ…!」

 ブルブルと体が震える。鈍い痛みが真吾の全身を襲う。体をゆっくりと丸め、そのブルブルと震える両手で股間を押さえようとしたその時だった。

 ツカツカと歩いて来た秀一が、真吾の足元に立った。

!?

 朦朧とする意識の中で、真吾は秀一を見る。その顔は不気味な笑みを浮かべ、目はギラギラと輝いていた。

「どうだい、真吾さん?」

 そう言うとプリンスは、股間を覆おうとしている真吾の両手を足で払い除けた。

「うああ…!」

 その途端、真吾の体がバランスを崩して動き、仰向けにひっくり返る。弱々しい声で呻く真吾。

「…フフフ…!…あれ?」

 秀一が、その風貌には似つかわしくない素っ頓狂な声を上げた。そして、不気味な笑みを更に不気味にしたのである。そして、真吾の前でしゃがみ込み、グリーンツーのマスクを後頭部で抱え上げた。

「…な、…何…を…!?

 弱々しく言う真吾。その声は明らかに震えている。

「…ククク…!!

 秀一は、バイザー越しの真吾の瞳を見ながら低い笑い声を立てる。と、次の瞬間、

「アーッハッハッハッハ…!!

 と大声で笑い始めたのである。

「こいつはいい!」

 そう言うと秀一は、真吾の上体を起こし、グリーンツーのマスクに自身の顔を近付けた。

「…何だよ、これは?」

 秀一がそう言ったその瞬間だった。

「ぐわああああッッッッ!!!!

 真吾の低い叫び声が、無機質な空間の中に響き渡った。

「…あ…、…ぐ…、…あぁ…!!

 鈍い痛みが真吾の体中を駆け巡る。

「これは何だと聞いているんだよッ、真吾さんッ!!

 秀一の右手。鮮やかな緑色の生地に包まれた、ふくよかな膨らみを強く握り締めていた。そして、その膨らみの天頂部分からは、淫猥に光り輝く粘着質な液体が溢れ出していた。

「…あ…、…あは…、…はあぁ…!!

 自身で殴り付けた痛みと、秀一に物凄い力で握られている痛みとでまともに声が出せない真吾。そんな真吾に更に顔を近付ける秀一。そして、

「…あれだけ酷いことをされておきながら、…それでも勃たせているなんて…。…しかも、恥ずかしい液体まで溢れさせて…!!…真吾さんってさぁ、やっぱりマゾだったんだね!」

 と言い、その真っ赤な舌でグリーンツーのマスクの頬の部分をねっとりと舐めたのである。

「やッ、止めろぉぉぉッッッ!!!!

 マスクの中の顔が物凄く熱い。我を忘れた真吾は、慌てて秀一を突き飛ばした。自身がグリーンツーに変身していることも忘れたかのように。

「うああッッ!!

 はっと気付いた時には遅かった。秀一が、ほぼ生身の秀一がバランスを失い、吹き飛んでいた。

「プリンス様ッ!?

 サイゴーンが咄嗟に秀一の背後に回り、何とかして受け止める。

「プッ、プリンス様ッ!?大丈夫ですかッ!?

 サイゴーンの巨体の中にスッポリと蹲るようになる秀一。

「…おのれぇッ、グリーンツーッ!!

 秀一の目が、真吾を睨み付ける。

「…もッ、…もう、止めてくれッ、秀一君ッ!!

 ヨロヨロと立ち上がると、真吾は秀一に声をかけた。

「…もう、こんなことは止めるんだッ!!…オレのために、…秀一君が新帝国ギアの仲間になるもんじゃないッ!!

「じゃあ、オレの奴隷になってくれる?」

 秀一の言葉に、言葉が詰まる真吾。

「…ど、…奴隷って…?…一体、…どうすればいいんだい!?

 すると秀一はフッと笑い、

「簡単なことさ。オレのおもちゃになればいいんだよ!」

 と言った。

「オレのおもちゃとして、オレのやりたいことを全て叶えさせてくれればいいんだよ!真吾さんの体を使ってね!」

 秀一が言ったその時だった。

「…うぐ…ッ!?

 真吾は、再び体が金縛りに遭うのを感じ取っていた。

「…サ、…サイ…ゴーン…ッ!!

 体が再び大の字に開かれて行く。目の前にいる秀一の後ろに控えていたサイゴーンが、ステッキを振りかざし、再び左手を突き出していたのだ。

「…や、…やめ…ろ…!!

 再びあの悪夢が蘇る。

「…フフッ!!

 秀一がステッキを持ち、静かに歩み寄って来る。

「…や、…止めるんだ…ッ!!…秀一…君…ッ!!

 今度は秀一に股間を殴られるのか、恥ずかしさに顔を赤らめ、目をギュッと閉じたその時だった。

 パキィィィン…!!

 鋭い音が響いた。と同時に、顔にひんやりとした風を感じた。

「…な…ッ!?

 真吾がそう声を上げた。視界がはっきりとしている。そして、ゴトッ、と言う鈍い音がした。

「…ククク…!!

 秀一の顔がはっきりと見える。いや、顔だけではなく、体全体も、そして、その背後にいるサイゴーンの姿も。

 真吾は今、グリーンツーのマスクが外されていたのだ。

「…真吾さん…!」

 目の前の秀一が不気味に笑っている。

「真吾さんにはもっと恥ずかしいことをしてもらうよ。そして、その恥ずかしさと惨めさに歪む顔もしっかり見せるんだ!」

 真吾は、この後、訪れるであろう悪夢の数々に、息を飲んだ。

 

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