新帝国の奴隷U 第6話

 

「…ん…」

 少しずつ、目の前がはっきりとして来る。

「…ここ…、…は…?」

 視界の先に見えるグレーの天井。ゆっくりと横を向けば、太い鉄格子がある小さな空間にいることが分かった。

「…オレ…。…何で、…ここに…?」

 まだ寝惚けているのだろうか。意識がぼんやりとしている。だが、次の瞬間、

「…ッッッッ!!!?

 と目をカッと見開き、物凄い勢いで体を起こした。その時、

「…ッ!!

 と小さく呻き、体を前のめりに折り曲げた。

「…痛…、…て…ぇ…!!

 光沢のある鮮やかな緑色のスーツ。だが、顔はひんやりとした風を受けている。

「…そ…、…っか…。…オレ…!!

 ようやく意識がはっきりして来た。

 新帝国ギアの奴隷に成り下がった兄・真吾に代わってグリーンツーに選ばれた翔吾。そして、ギアの侵攻を食い止めるために戦っていた時、我を忘れて一人で暴走してしまった。その結果、閉鎖空間に閉じ込められ、そこでプリンスになった蔭山秀一とジューノイドの2人、メッツラーとサイゴーンの猛攻によってバイオ粒子を奪われた。

「…はっず…!!

 そして、そのバイオ粒子は翔吾の男としての象徴であるペニスに多く濃縮されており、自身の言わばプライドとも言えるその部分を徹底的に刺激され、混乱と屈辱の中、バイオ粒子を放出したのだった。そして気を失い、気が付いたらここにいた。更にどうやったのかは分からないが、グリーンツーのマスクを外されていたのだった。

「…秀一の野郎…ッ!!

 怒りで握り締めた拳がブルブルと震える。

「あの野郎ッ!!兄貴の人の好さを利用しやがって…!!

 お人好しの兄・真吾。そんな真吾を本当の兄のように頼っていた秀一がいつの間にか、その兄を洗脳し、自身の奴隷としてしまったのだ。

 その時だった。

 キィィ…。キィィ…。

「…え?」

 翔吾は戸惑わざるを得なかった。

 自身が閉じ込められている小さな空間。その空間の入口が開いている。そして、風に揺れるのか、その扉が軋み音を立てながら静かに揺れていたのだ。

「…これ…、…は…」

 罠かもしれない。だが、ここにいればいずれにせよ、また秀一の玩具になるだけだ。グッタリしていた体にみるみる力が漲って来る。

「…と、…とにかく、逃げねぇと…!!

 ゆっくりと立ち上がる翔吾。

「…あ、…あれ?」

 その時、翔吾はグリーンツーの自身のスーツのその部分に気付いた。

「…オレ…。…このスーツ越しにバイオ粒子を出したはずなのに…」

 光沢のある鮮やかな緑色のスーツ。バイオ粒子を出すと言うことは、ペニスからそれと一緒に翔吾の男としての象徴である淫猥な液体をも放出することになる。実際、秀一にそこを小刻みに刺激され、翔吾は耐え切れずに淫猥な液体を放出した。だが今、スーツのその部分はまるで何もなかったかのようにきれいな緑色をしていたのだ。

「…んま、いっか…!!

 兄譲りの、細かいことはあまり気にしないのが翔吾のいいところでもある。その時、翔吾は周りをキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認すると、

「今のうちに…ッ!!

 翔吾はそう言うと、スルリとその空間を抜け出した。

 

「…ククク…!!

 だが、そんな翔吾の動きは既に読まれていた。

「予想通りの展開になったな…!!

 モニター越しに翔吾の動きを追っている監視カメラ。その映像を見ながら秀一がギラギラと目を輝かせた。

「さすが、真吾さんの弟だね。行動パターンが全く同じだ!!

「…ああ…」

 色褪せたグリーンツーのスーツを身に纏い、そのムッチリとした体を強調させている真吾が呟くように言う。

「…あいつは…。…翔吾は、オレのコピーだからな…!!

「…ふぅん…」

 秀一はそう言うと、真吾に抱き付いた。

「…秀一…、…様…?」

 両腕を後ろへ回し、目を閉じてウットリとした表情を見せている秀一を優しく抱き止める真吾。

「…妬けちゃうなぁ…。…真吾さんはもうオレのものなのに…」

「…フフッ!!

 真吾は笑うと、

「オレはどこにも行きやしないさ。オレは、ずっと秀一様の傍にいるよ!!

 と言った。

「…フフッ!!

 秀一はニッコリと微笑むと、

「…その前に、ヤツだけは処分しておかなきゃな…!!

 と言うと、両手に冷たく銀色に光る銃を持った。

「…それは…?」

「…フフッ!!…真吾さんも見覚えがあるだろう?」

 秀一が目をギラリと光らせる。

 冷たく銀色に光る銃。その銃身の上にはスコープが付き、トリガーの下には丸い円盤状のタンクのようなものが付いている。

「父・ドクターマンが作り出したバイオキラーガン。反バイオ粒子を詰め込んだこれが真吾さんの仲間だったイエローフォー・小泉ミカを倒したよね?」

 初代イエローフォー・小泉ミカ。男勝りの女性だったが、ドクターマンが宇宙に散らばっていた反バイオ粒子を集めて作り出したバイオキラーガンの集中砲火を受け、壮絶に散ったのだ。

「オレは反バイオ粒子を研究し、更に濃縮したこのバイオキラーガンを作り出したんだ。こいつを使って、翔吾を…!!

「…殺すのか?」

 どことなく不安そうな表情をする真吾。その喉元が大きく動いた。

「…フフッ!!

 秀一は意地悪く笑うと、

「殺しちゃったら面白くないだろう?」

 と言うと、

「オレが作り出した反バイオ粒子はヤツの超電子頭脳を止めるだけじゃない。それ以上にもっと面白い仕掛けを組み込んであるのさ…!!

 と、ニヤリと笑ったのだった。

 

「…どこだ…ッ!!

 その頃、翔吾は自分が閉じ込められていた空間があった建物の中をグルグルと回っていた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 行けども行けども、出口らしいものは見付からない。さっきから、同じところをグルグルと回っているような気がしてならない。

「…く…っそ…オオオオオオオオ…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その時だった。

「出口を探しているのかい?」

 背後から声が聞こえ、翔吾はその場に凍り付いた。

「…しゅ…、…いち…ぃぃぃぃ…ッッッッ!!!!

 低く唸り声を上げて秀一を睨み付ける翔吾。だが、秀一はフンと鼻で笑うと、

「ここはメッツラーが作り出した閉鎖空間の中だ。つまり、出口はどこにもないッ!!

 と言った。

「何だとオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!??

 カッとなった翔吾は思わず怒鳴る。そして、

「いいやッ!!絶対にどこかに出口があるはずだッ!!オレはッ、ぜってーにここから逃げてやるからなッ!!

 と言って駆け出そうとした。

「…ふぅぅ…」

 ムッとした表情の秀一が両手にあのバイオキラーガンを持った。

「…無駄だと言っているだろう?」

 照準を翔吾に合わせたその瞬間、

 バシュウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!バシュウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う音と共に、眩く光る弾丸が飛び出したのだった。

 

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