違反切符 第5話

 

 さっきから体が小さく震えている。

 1人の男子高校生の目の前でグリーンレーサーにアクセルチェンジし、ヒーローとしての自分を見せつけていたはずなのに、今の自分はヒーローらしくなく、体を震わせている。

「…や、…止めろ…!…け、…健太…!」

 上杉実。グリーンレーサーに変身する24歳の青年。その体つきはもともとガッシリとした筋肉質であり、体にぴったりと纏わり付くグリーンレーサーのクルマジックスーツは、そんな実の体付きを如実に表した。腕や足、ボディの筋肉だけではなく、後ろを向けば、筋肉質な尻の形までもをクッキリと浮かび上がらせていたのである。

 そんな屈強そうに見える実が震えている。

「…お前が悪いんだからな、…実…!」

 そう言った男子高校生・伊達健太。この時の彼の顔を、実は一生、忘れることはないだろう。

 今時の高校生が、こんなに激しい憎悪を帯びた顔をするのだろうか、殺気立っているとしか言いようのないほど、彼の目はギラギラとし、実が身動きとれなくなるくらいの目力で睨み付けていたのだ。

「…だッ、…だから…、…オレが…悪かった…。…な、この通りや!」

 真っ白いグローブが、緑色を基調としたマスクの前で合わさる。だが健太は表情を変えようとしない。

 

 健太と実が出会ったのは、ほんのちょっとしたきっかけだった。じりじりと灼けつくような陽射しが降り注ぐ中、とぼとぼとセールスに向かっていた実は、ボーゾックの下級兵・ワンパーが1人の男子高校生を引き連れているところに出くわした。その高校生こそが、今、目の前にいる伊達健太だったのである。

 すると、ワンパー達は、いつもの悪戯をするかのように、健太のズボンを下着ごと一気にズリ下ろした。その途端、健太の局部が大勢の面前で露わになったのである。

 だがこの時、実は何故か、物陰に隠れてしまったのだ。そして、健太の局部が露わになった時、グリーンレーサーにアクセルチェンジして飛び出して行ったのである。

 その一部始終が、健太が用意したビデオカメラに収められていた。そこから実の身元を割り出した健太は、実の運転する車の前にわざと飛び出し、実との接触を図り、部屋へ呼んだ。そして、実をグリーンレーサーにアクセルチェンジさせ、体を触ると見せかけて、実の股間を触ったのである。

 

「…誰が許すかよ…!!

 怒りに顔を真っ赤にしている健太が言った。

「お前がもっと早く助けに来てくれたら、オレはあんな恥ずかしい目に遭わなくて済んだんだぜ!?ワンパー、つったっけ、そいつらの声を聞いた時、お前は物陰に隠れやがって!!お前がそんなことをせず、さっさと出て来てくれれば良かったんだッ!!

 健太の口から、物凄い勢いで唾が飛ぶ。顔を真っ赤にし、荒い息をしている健太が鬼の形相で実を睨み、大声で怒鳴ったのである。

「…うぅ…、…あぁ…!!

 実は、全ての出来事を後悔していた。何故、自分はあの時、すぐに飛びださなかったのか。何故、物陰に隠れたのか…。そもそも、何故、健太と出会ってしまったのか…。

「…分かったら、腰を突き出せよ…!」

 少し怒りの収まった健太が、実を見下すようにして腕組みをして言った。

「…あ、…あぁ…!!

 腰を突き出すと言うことは、実の股間の膨らみを見せ付けることになる。いや、見せ付けるだけではなく、健太に猥褻なことをされるのだろう。年下の、しかも同じ男に恥辱行為をされる、それほど屈辱的なことはなかった。

 実が答えを出しかね、動きあぐねていたその時だった。

「やりたくなかったら、別にいいけど?」

 健太の声が実を現実に戻した。

「…別にいいぜ、突き出したくなかったらな…?」

 健太は相変わらず腕組みをしたまま、実を見つめている。

「…あ、…うあ…」

 実はさっきから何も答えられないでいる。蛇に睨まれた蛙とは、このことを言うのだろうか、実はそんなことを思っていた。

「ただし、お前がオレの言うことを聞かなければ、この動画をネットで一斉配信してやるぜ?」

!!

 その時、健太の表情が豹変していた。ニヤニヤと不気味に笑みを浮かべる健太の手に、1枚のディスクが握られていた。

「これを動画で配信したらさぁ、どうなっちゃうのかなぁ…?カーレンジャーの正体がバレちゃうだけじゃなく、カーレンジャーはみんな、こうやって市民が苦しんでいるのを見て楽しんでます、ってなっちゃうよねぇ?」

「…お、…お…前…ぇぇぇ…ッッッ!!!!

 ギリギリと白いグローブが音を立てて握られる。実も怒りに震えていた。だが、これ以上、抵抗すれば、本当に健太が動画を配信するかもしれない。そう思った実はガクリと首を項垂れた。そして、

「…分かった…。…お前の、…好きにせぇ…!」

 と言ったのである。すると健太は勝ち誇った笑みを浮かべ、

「そうそう!物分かりがいいねぇ、正義のヒーローさん!」

 と言い、実のグリーンレーサーのマスクの頭をポンポンと叩いた。

「…ぐ…ッ…!!

 実の頭にカァッと血が上る。だが、実はそれを懸命に押し留めた。

「じゃあ、腰を突き出せよ…!!

 健太の冷たい声が実の耳に響く。

「…」

 ゆっくりと腰を前に突き出す実。グリーンレーサーの、光沢のある鮮やかな緑色のクルマジックスーツの中に、こんもりと膨らみが浮かび上がる。

「フフッ!!

 健太は笑うと、実の前に屈み込んだ。

「…なッ、…何や…ッ!?

 マスク越しに実が健太を睨み付ける。

「…実のここってさぁ、普段でも随分、大きいんだな!なぁ、結構、使い込んでんの?あ、いや、違うな!せいぜい、右手が恋人ってとこかぁ?」

 そう言った健太はヒャッヒャと実をバカにしたかのように笑い始めた。

「…く…ッ…!!

 視線を逸らす実。白いグローブがブルブルと震えている。拳がギリギリと音を立てた。

「…フッ、まぁ、いいや。…じゃあ、そろそろ…」

 健太はそう言うと右手を差し出し、ゆっくりと実の股間を包み込んだ。

「んんッ!!

 その途端、実はビクリと体を反応させ、体を仰け反らせたのだった。

「フフッ!やっぱ、デッケェ!!

 健太が目をキラキラ輝かせて言う。

「…んんッ!!…んああああッッッッ!!!!

 自身の股間を掴んだ健太の手が握ったり開いたりを繰り返す。しかも、手加減をしないで握り締めるため、そのたびに実のそこへ鈍い痛みが走る。

「…や…ッ、…止め…てくれ…ッ!!

 時折、呻き声を上げながら、実が健太に言う。その時だった。

「止めない!」

 健太がはっきりとした口調で言った。

「お前はオレに逆らえないんだよ?お前はオレのされるがままになるんだよ!」

 そう言った健太の手が、ゆっくりと実の股間を這い始めた。

 

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