違反切符 第10話
それから1週間が過ぎた。
「…んじゃ、明日から、オレの呼び出しを受けたら、ちゃんとここに来いよな!…もし、言うことを聞かなかったら、…どうなるか、分かってるよな?」
自分の運命を狂わせた高校生・伊達健太。いや、偶然なのかもしれない。そもそも、ボーゾックの雑魚兵であるワンパーがあの場所にいなければ、自分と健太が出会うこともなかったはずなのに…!
上杉実はやり場のない怒りをどこへ向けていいのやら、分からないでいた。
(…せやけど…!)
健太がワンパーにズボンを下着ごと脱がされると言うイタズラを仕掛けられ、公衆の面前で健太の男子としての象徴を晒した健太。そんな時、実はその場にいながら物陰に隠れて様子を窺っていた。そして、健太が醜態を晒したのを見計らったかのようにグリーンレーサーへとアクセルチェンジして飛び出したのだ。
(…こんなはずや、なかったんやけどなぁ…)
何度も何度も溜め息を吐く。実としてはカッコ良く決め、健太を助けるつもりだった。だが、物陰に隠れるところから、グリーンレーサーにアクセルチェンジするところ、そして健太を助けるところまで全てを録画されていたのだ。人に知られてはならないことまで全てを健太に知られることになり、健太の言いなりになるしかなかった。しかも、その言いなりになると言うのがまた陰湿で、実はグリーンレーサーにアクセルチェンジさせられ、自身の男の象徴としてのそれを同性である健太に弄られ、痴漢行為をされた上に射精させられると言う醜態を晒してしまったのだ。
「…んじゃ、明日から、オレの呼び出しを受けたら、ちゃんとここに来いよな!…もし、言うことを聞かなかったら、…どうなるか、分かってるよな?」
健太の脅しとも取れる言葉が、実の頭の中を何度も何度もリフレインする。
だが、この1週間、健太からの連絡は全くなかった。最初の2〜3日は、実も会社の電話が鳴るたびにビクビクしていた。だが、その感覚は少しずつ鈍化して行き、
「はッ!結局は、ガキの戯れ言やったか…!!」
と、健太を半分バカにするような感情が現れ始めていた。
だが、そんな実を健太が放っておくわけがなく…。
「毎度おおきにッ!ペガサスでございますぅッ!」
今日も元気に響く実の声。
「…?…もしもし?どちらさんでっか?」
無言の相手。いたずら電話か、そう思って実が受話器を置こうとしたその時だった。
「…相変わらず、デケェ声だなぁ…!」
その声に、実の心臓がドクンと高鳴った。聞き覚えのある声。
「…お、…お前…!?」
冷や汗が頬を伝う。
「フフッ!その声だと、オレが実に連絡をしなかったのが良い方向へ動いたってことだな?」
「…ど、…どう言う意味や…!?」
実は他のスタッフに気付かれないように、電話が置いてあるデスクの陰に隠れるようにして小声で話を続けた。
「オレが1週間も連絡しなかったのは何故だと思う?」
勝ち誇ったように聞こえる健太の声。
「オレが実に飽きたとでも思ってた?そぁんなわけないだろ?これもお前への心理作戦の1つさ!連絡がないと言うことは、オレが実に飽きた、この間のことで満足したと思うよな?そうやって人間は嫌な記憶を忘れようとするんだよ。そして、忘れた頃にこうやって連絡をする。昔から良く言うだろ?『天災は、忘れた頃にやって来る』ってな!」
「…ク…ッ…!!」
何も言い返せない。何故、こんなに健太が実の行動をお見通しなのか…!
「さぁ、分かったらさっさとオレんちに来いよ!」
「…え?…今から?」
「何だよぉ、来られねぇってのか?」
健太の声のトーンが低くなる。
「…ちょ…!!」
「来られねぇってのなら、オレがワンパーだったっけ?に襲われた時の映像と、この間、オレんちに来てアンアン喘いでいるお前の画像をネットで晒すだけだけど?」
「…そッ、…それだけは…ッ!!」
次の瞬間、実はデスクの陰から立ち上がっていた。他のメンバーが驚いて実を見ている。
「…あ…」
咄嗟に笑顔を作ると、実は再びデスクの陰に隠れた。
「…分かった…」
「あん?」
今度は健太が実に聞き返していた。
「…今から、…健太様の、…お部屋へ伺います…!」
「…フッ!…待ってるぜ…!!」
そう言うと、電話は切れた。
「…ッ!!」
ブルブルと怒りに震える右の拳を左手でグッと掴み、
「ちょお、営業に行って来るわ!」
と言って実は外へ飛び出した。
「よぉ、実ぅ!」
健太の家へ着くと、ご機嫌顔の健太が実を部屋へ招き通した。
「今日もあっちいよなぁ!」
半袖短パン姿の健太。それとは対象的に、ジャケットを羽織り、軽くネクタイまで絞めている実。
「…会社へ電話して来るんは、…止めてんか?」
実がそう言うと、
「だってさぁ、連絡先が会社の電話番号しかないだろう?そんなの、無理に決まってるじゃん!」
と健太が頬を膨らませる。
「…ほら…!」
大きく溜め息を吐くと、実はジャケットのポケットから1枚の名刺を差し出し、健太へ渡す。
「…これは?」
訝しげな目で実を見つめる健太。
「…オレのポケベル番号。…それを鳴らしてくれれば、…オレが健太に電話する…!」
「…へぇ…!」
健太はそう言うと実のもとへ歩み寄り、ゆっくりと実に抱き付いた。
「…単なる単細胞かと思ったけど、…意外と頭いいんだな、実って!」
「…ク…ッ!!」
目をギュッと閉じ、怒りを必死に閉じ込める実。だが、そんな実にお構いなしに、
「じゃあ、実。次はどうするか分かってるよな?」
と勝ち誇った表情で言う健太。
「…ああ…」
実はそう言うと左腕にはめているアクセルブレスを取り出し、右手にはアクセルキーを持った。そして、
「激走ッ!アクセルチェンジャーッ!!」
と叫び、次の瞬間、実の体が眩しい光に包まれる。
「…これで、…ええんか?」
その光が消えた時、実の体は光沢のある鮮やかな緑色のクルマジックスーツに包まれていた。グリーンレーサーにアクセルチェンジしたのだ。
「…なぁ、実ぅ。今日はマスクを外せよ!」
「…え?」
健太の言ったことに戸惑う実。健太はニヤニヤしながら、
「だってさぁ、マスクをしたままじゃ、実の悶える顔や、エロい顔をじっくりと見られないだろ?」
と言い、短パンの股間部分を揉みしだいている。
「…分かった…」
何を言っても無駄なことは分かっている。実はゆっくりとマスクを外した。