違反切符 第12話
薄暗い健太の部屋。薄汚れたベッドの上にほぼX字の状態で拘束された上杉実。
「…く…ッ…!!」
実は今、グリーンレーサーにアクセルチェンジしている。マジックテープと紐で作られた拘束具など、その力を以ってすれば引きちぎることなど容易いことだった。
「…くっそぉぉぉッッッ!!!!」
だが、今の実にはそれが出来ない現実があった。全ては、この健太との出会いが運命の始まりだったと言ってもいいだろう。
実が犯した2つの大罪。1つは、ワンパーにイタズラをされている健太をすぐに救出に向かわず、物陰に隠れたこと。それは、健太が少し距離を置いたところに設置したビデオカメラに録画されていたのだ。そして、もう1つの大罪。その録画の中に、実自身がグリーンレーサーにアクセルチェンジする瞬間がしっかりと映り込んでいたことだった。
もし、自分が犯した罪がなかったのなら、今すぐこの拘束具を引きちぎり、健太を叱り付け、出て来ただろう。他人の弱みに付け込み、抵抗出来なくなったところで痴漢行為のようなことを行うこの健太に、実は本当のことを言えば、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを、いや、憎しみを覚えていたのだ。
「…オッ、…オレをッ、…どうする気やああああッッッッ!!!!」
半ば狂ったように叫ぶ実。と、その時だった。
「ぅるっせぇよッ!!」
突然、健太が慌てたかと思うと、実の腹部に飛び乗ったのだ。
「ぐふッ!?」
その瞬間、実が呻き声を上げ、目をカッと見開き、体を腹部から半分に折り曲げそうになった。
「隣り近所に聞こえるだろうがッ!!」
健太が顔を真っ赤にしている。そして、実の両肩をがっしりと掴んだ。そして、ゆっくりと顔を近付け、
「お前を拘束したってことは、お前をいじめるってことに決まってんだろ?」
と言った。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ…!!」
実が荒い呼吸をし、目尻に涙を浮かばせる。と、その時だった。
「…とは言え…」
不意に健太が呟くように言ったかと思うと、きょろきょろと部屋の中を見回し、実の体から下りてベッドの横、実の腰の辺りへ腰かけた。
「…ど、…どないしたんや…?」
実は突然のことに事態が把握出来ず、健太に思わず声をかけた。すると健太は立ち上がると、
「…最近、…何だか体中が痛くてさぁ…」
と言い、デスクの引き出しを再びゴソゴソと漁り始めた。そして、ある棒状になったものを取り出した。
「…ぶッ!!」
それを見た実が思わず吹き出す。
「…お、…おま…ッ!!…何を、…持ってんねん…!?」
健太が手にしているものを見た瞬間、実はそう言わざるを得なかった。有線マイクのように長いコードが付き、ヘッドの部分はマイクのように膨らみを形成している。
すると健太は、
「これ?電動マッサージ器に決まってんだろ?」
と言った。
「そうやなくてッ!!」
両手両足を拘束されていなかったら、確実にツッコミを入れていただろう。
「なんで、お前みたいな若いモンが、そんなもんを持っとるんやっちゅうことやッ!!お前は年寄りかッ!!」
関西気質な血が騒いだのか、実が健太に突っ込む。すると健太は、
「なぁんかさぁ、首やら腰やらが時々、痛くてさぁ。だから、これを買ったんだよ。まぁ、育ち盛りの食べ盛り、ってやつ?」
と言いながら、コンセントプラグに電動マッサージ器のプラグを差し込み、スイッチを押した。
ヴヴヴヴヴヴ…、と言う弱い振動音が辺りに響き始める。そして、健太は再び、先ほどの場所へ座った。そして、それをまず、肩に当てた。その途端、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…!!」
と言うだみ声が響き渡る。
「ぶっ!!」
それを聞いた実が再び吹き出し、笑い始めた。
「…お、…おま…ッ、…な、…何やねん、…その、…蛙が潰れたみてぇな声はぁ…ッ!!」
すると健太は、電動マッサージ器を肩から離すと、
「しょうがねぇだろ?振動で声だって震えるんだからよぉ…!」
とぷっと顔を膨らませ、再び、それを肩に当て始めた。
「…しゃーないなぁ…」
実の顔に苦笑が浮かぶ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…!!」
すると健太は、今度はそれを腰に当て始めた。
「…成長期やからかな…?」
実の声が背後から聞こえ、前にいる健太がコクンと頷いた。
「でも、あんまりおかしかったら、病院へ行けや?」
実がそう言った時だった。
不意に、電動マッサージ器を持っている健太の手が動いた。その瞬間だった。
「んあッ!?」
突然、実が素っ頓狂な声を上げ、拘束されている体をビクリと反応させた。その振動で、健太のベッドがガタガタと音を立てた。
「ど、どうしたんだよ、実ぅ?」
驚いた顔の健太が実に尋ねる。
「…あ、…い、…いや…」
顔を真っ赤にし、ぷいっと横を向く実。
「…な、…何でもない…!」
「ふぅん」
健太はそう言うと、再び腰に電動マッサージ器を当て始めた。そして、暫くすると、また電動マッサージ器を持っている手を動かしたのである。その瞬間、
「んああッッ!!!!」
と言う実の素っ頓狂な声が聞こえた。
「な、何だよッ、実ぅッ!?」
その時、実ははっきりと見た。健太の口元が微妙に歪んでいたのを。
「…お、…お、…お前…ッ、…わざとやっとるやろ…ッ!?」
「…何を?」
ニヤニヤしながら言う健太。
「…だッ、…だから…ッ!!」
言いかけて口を閉じる実。心の中に抱いていた疑念がはっきりと確信に変わる。
「…何だよ?…言わなきゃ、分かんねぇだろ?」
「…ぐ…ッ…!!」
あくまでも実に言わせる気だ。だが、実は大きく溜め息を吐くと、
「…その電動マッサージ器を、…オレの、…チンポに、…わざと当てとるやろ…!?」
と言った。すると、健太が不気味に笑い始め、
「当たりー!!」
と言い、電動マッサージ器を実の股間のそれへと宛がったのである。
ヴヴヴヴヴヴ、と言う低い振動音と共に、
「んあッ!?ああッ!?ああッ!?ああッ!!ああッ!!あああッッッ!!!!あああッッッ!!!!ああああああッッッッッッ!!!!!!」
と言う実の叫び声が辺りに響き渡る。
「フフッ!!ほぉら、電動マッサージ器の刺激で、実のここを一気に勃起させてやるよ!!」
健太の淫猥な言葉は、電動マッサージ器の振動と、実の叫び声に掻き消された。