アースフォースを奪え! 第1話
「…聞こえる…!」
一寸先も見えないほどの深い闇の中に、低く不気味な声が響く。
「…我が同士達の雄叫びが…!!…数々の恨みの声が…!!」
グチュグチュと言う不気味な呻き声も同時に聞こえて来る。
「…復讐を…!!…浮かばれず、彷徨える同士達の魂の叫びが…!!」
その時、その深い闇の中に鋭い瞳がギラリと光った。その光に、その者の顔がぼんやりと浮かび上がる。長くだらしなく伸びた黄色の髪、全身青色で、その者の肩から胸を覆う巨大なX字のチューブのようなもの。
「…復讐を…!!」
見た者を恐怖に陥れるような醜い顔付き。その口が開くたびに、クカカカ、と言う不気味な声が聞こえる。
「…チェンジマンに殺されて行った仲間達の数々の恨み…!!…我が晴らすしかなさそうだ…!!…だが、…どうやって…!!」
この宇宙全てを支配しようと企む星王バズーが率いる数々の異性人が集まった宇宙帝団「大星団ゴズマ」の地球侵略が全ての始まりだった。
長くだらしなく伸びた黄色の髪、全身青色で、その者の肩から胸を覆う巨大なX字のチューブを身に付けている。その口元は不気味に裂け、クカカカ、と言う不気味な呻き声を上げ続ける。ゴズマの戦闘兵・ヒドラー。
そんなヒドラーと、ヒドラーをまとめる宇宙獣士を倒すべく、地球から光が放たれた。それがアースフォース。その力を浴びた5人の地球人が「電撃戦隊チェンジマン」として立ち上がった。チェンジドラゴン・剣飛竜、チェンジグリフォン・疾風翔、チェンジペガサス・大空勇馬、チェンジマーメイド・渚さやか、そして、チェンジフェニックス・翼麻衣。
「ドラゴンズーカァッ!!」
「グリフォンズーカァッ!!」
「ペガサスズーカァッ!!」
「マーメイドズーカァッ!!」
「フェニックスズーカァッ!!」
その5人がそれぞれのバズーカ砲を取り出し、蠢くヒドラー兵に照準を合わせ、思い切り放つ。途端に大爆発が起こり、数々のヒドラー兵がその爆発に巻き込まれ、悲鳴を上げながら倒れて行く。
「ドラゴンアタァーックッ!!」
「グリフォンアタァーックッ!!」
「ペガサスアタァーックッ!!」
「マーメイドアタァーックッ!!」
「フェニックスアタァーックッ!!」
そして、更に個人の技が炸裂し、また他のヒドラー兵達が倒されて行く。
「…ぬうううう…ッ!!」
闇の中の存在は怒りに体を震わせる。
「…おのれぇッ、チェンジマンめぇッ!!…あいつらの、…あの力さえなければ…ッ!!」
その時、怒りに体を震わせていたその者がふと動きを止めた。
「…あいつらの、…あの、…力…?」
次の瞬間、不気味に裂けている口が更に不気味に歪んだように思えた。そして、
「…ク、…クカカカ…!!」
と不気味な笑い声を上げたのである。
「…そうか…。…あの力を…、…あの力さえ奪えば…!!」
そう言ったその者は次の瞬間、その場からスゥッと消えた。
「…くっそオオオオッッッッ!!!!」
爆音を立ててバイクが荒野を走り抜ける。
「だからッ、オレは歌うのが嫌だって言ったんだッ!!」
真っ青なヘルメットを被り、真っ青なジャンパーを羽織った青年がぶつぶつと呟く。よく見れば、目には涙がいっぱい溜まっていた。チェンジペガサス・大空勇馬、20歳。
あの時。地球守備隊でのカラオケ大会の時。勇馬は1つの円卓テーブルの下に隠れていた。それもそのはず。勇馬は大の音痴なのだ。一人でぶつぶつと鼻歌気分で歌うのならまだしも、大勢の前で歌を歌うのは大の苦手だった。なのに見つかってしまい、無理矢理、歌わされることになった。その途端、会場中から笑い声が沸き起こった。他のチェンジマンのメンバーにも憐れみの目で見られ、それは勇馬の心を大いに傷つけ、気が付けば、勇馬は思い切り外へ飛び出していたのだった。
「ああッ、もうッ!!むしゃくしゃするぜぇぇぇッッッ!!!!」
勇馬が叫んだその時だった。
「ならば、我々がお相手しようか?」
その声がどこからともなく聞こえて来る。その声にギクリとなる勇馬。
「だッ、誰だッ!?」
そして、辺りを見回す。
「どこにいやがるッ!!姿を現せッ!!」
そう言った時だった。
「ここだよ!」
何と、勇馬の足元から1体のヒドラー兵がスゥッと現れ、勇馬の足首を掴んだ。そして、物凄い力で宙へ放り投げたのである。
「うわああああッッッッ!!!!」
あまりに突然のことにバランスを崩し、地面へしたたかに体を打ち付ける。
「…ってぇ…!!」
顔をしかめて起き上がるも、目の前に光景に驚いて咄嗟に体勢を整える。
「…ヒッ、…ヒドラー兵ばっか…!!」
クカカカと言う不気味な声を上げて、大勢のヒドラー兵がうじゃうじゃと蠢いていたのだ。
「…チェンジペガサス…か…?」
大勢のヒドラー兵の中から、1体のヒドラー兵がゆっくりと歩いて来た。
「…ばっ、…バカな…ッ!?」
勇馬が目を見開く。するとそのヒドラー兵は、
「…おお、…そうか…」
と何かに気付いたかのような声を上げると、
「我は宇宙獣士ヒドラス。お前達に倒された数々のヒドラー兵や宇宙獣士の怨念の塊と言ってもいいだろう。姿かたちはヒドラー兵のままだが、その知能はお前達と変わらんよ。だからこうやって人間の言葉を話すことも出来る。…そして」
と言い、一息吐いたかと思うと、
「…我が目的は、…お前のアースフォースを奪うことだ」
と言い放ったのである。
「何ッ!?」
勇馬の頭に血が上る。するとヒドラスは勇馬を一瞥したかと思うと、
「…お前一人のアースフォースで十分かどうかは分からんが、…まぁ、…頂いておくとしよう」
と言った。
「…うッ、…奪えるもんならッ、奪ってみやがれッ!!」
勇馬はそう言うと左手を肘から折り曲げ、顔の前で拳を作った。
「レッツチェンジッ!!」
その瞬間、しゃがみ込んだかと思うと、
「チェンジペガサスッ!!」
と叫び、左拳を空高く突き上げた。その瞬間、勇馬の体が青いオーラに包まれ、次の瞬間、勇馬の姿が変わっていた。
光沢のある鮮やかな青色のスーツ・チェンジスーツを身に纏っている。そのスーツは勇馬の体に密着するようになっており、勇馬の体付きをクッキリと現していた。そして、その胸の部分にはこちらも光沢のある鮮やかな白色のゼッケンのようなものを纏っていた。
チェンジペガサス。勇馬がアースフォースの力を借りて変身した姿。
「お前らなんかッ、あっと言う間に片付けてやるぜッ!!」
その時の勇馬はまだ知らなかった。これが、宇宙獣士ヒドラスの仕掛けた、屈辱の罠だったと言うことを。