アースフォースを奪え! 第4話
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
甲高い声が乾いた荒野に響き渡った。
「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!」
きらきらと輝く光沢のある青いチェンジスーツ。その腰の部分がくねくねと動く様は、見ている者に妙な感情を抱かせようとしていた。
「フフフ…!」
その者の後ろで低く笑う、全身青ずくめの男。金色のカールのかかった髪。その顔は醜く、まさに怪物と言ってもいいほどであった。宇宙獣士ヒドラス。
「痛かったか、チェンジペガサス?」
クカカカと言う不気味な声を上げて、ゆっくりとチェンジペガサスと呼ばれた男の前に立った。
「…う…う…う…!」
チェンジペガサス・大空勇馬はと言うと、相変わらず、腰をくねくねとくねらせているだけだ。それもそのはず。勇馬の両手両足は、ヒドラスと同じ身なりの怪物4体にしっかりと押さえ込まれていたのだ。大の字に立たされている勇馬。その両腕、両足をヒドラー兵がしっかりと掴んでおり、勇馬は完全に身動きが取れなくなっていたのだ。
「…おや?」
チェンジペガサスの、青と黄色であしらわれたマスクの中を覗き込むようにしていたヒドラスが声を上げた。
「…貴様、…泣いているのか?」
その言葉に、勇馬は思わず顔が真っ赤になる。そして、
「…な、…泣いて…なんか、…いねえ…ッ!!」
と言った。
「…はッ、…早く、…こいつらを離せッ!!」
懸命にもがくが、いつもなら簡単に振り解けるヒドラー兵なのに、この4体はやけに強く感じる。
「…そうか…」
すると、ヒドラスは今度は勇馬の右腕をしげしげと見つめ始めた。
「…ま、…まさか…!?」
勇馬の顔から再び血の気が引いて行く。
「…や、…止めろ…!!」
少しずつヒドラスの口が、勇馬の二の腕へ近付いて行く。そして、あのおぞましいほど鋭利な牙が口の中から見え始めた。
「…い、…嫌だ…!」
声が震える。目から涙がぽろぽろと頬を伝う。するとヒドラスはフッと笑い、
「心配するな。我が牙は痛みを伴うだけで出血もしない。見てみろ!」
ヒドラスはそう言い、勇馬の腰をやや折り曲げた。
「…あ…」
勇馬が声を上げる。
さっき激痛が走った右の尻。確かに血が滲んでいるような形跡はなかった。だが、明らかに噛み付かれたと見られる2つの大きな丸い点が残されていた。
「では、行くぞ?」
ヒドラスがそう言った時だった。
「…待ッ…!!」
待てと勇馬が言いかけたその瞬間、
ドシュッ!!
と言うあの音と共に、勇馬の右二の腕に激痛が走った。
「ぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
痛いものは痛い。それよりも意識が遠退きそうになる。
「…やはり、…美味い…!」
不気味な顔立ちに不気味な笑みが浮かび、更に不気味に見えて来る。
「次はこっちだ…!」
そう言ったヒドラスは、今度は勇馬の左側へやって来ると、
ドシュッ!!
と言う音を立てて、左二の腕へ噛み付いたのである。
「うがああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
体を硬直させ、弓なりにし、叫ぶことしか出来ない勇馬。
「…もッ、…もうッ…!!…止めて…ッ、…くれええええッッッッ!!!!」
泣き叫ぶと言った方がいいのではないかと言うほど、勇馬の声が更に高い声に変わっていた。
「フフフ…!」
ヒドラスは低い笑い声を上げながら、ゆっくりと勇馬の真正面に立った。
「…う、…あぁぁ…!!」
激痛に激痛を重ね、体に思うように力が入らない勇馬。崩れ落ちそうになるのを、彼の四肢を支えているヒドラー兵によって無理矢理立たされていると言っても過言ではなかった。
「…それにしても、貴様の体にはそそられる…!!」
勇馬を舐めるように見つめるヒドラス。その目がギラギラと輝いている。
「…も、…もう…、…止めてくれ…!!」
膝がガクガクと震えている。そんなものだから、勇馬の腰が自然と前へ突き出され、勇馬の股間の淡い膨らみが見え隠れする。
「…ああ…」
ヒドラスが不意に溜め息を吐いた。
「…ひっ…!!」
その顔を見た瞬間、勇馬が小さな悲鳴を上げる。全身青ずくめのヒドラスの顔、特に頬の部分がほんのりと赤らんでいるように見えたのだ。
「…貴様の太腿…、…あぁ…、…堪らない…!」
ヒドラスは勇馬の足もとに正座をするようにしてしゃがみ込む。そして、勇馬の右足をさわさわと触り始めたのだ。
「…んッ!!…んん…ッ!!」
ぐちょぐちょと淫猥な音が響く。ヒドラスの両手から分泌される粘着質な液体はチェンジペガサスのチェンジスーツに纏わり付き、キラキラとしていた光沢を失わせて行く。それは先ほど、勇馬の両方の二の腕でも同じようなことを起こしていた。そこにはベッタリと手形が残されていたのだが。
「…やッ、…止め…ろお…ッ!!」
ヒドラスが勇馬の太腿を擦るたびに、くすぐったさが勇馬を襲う。その刺激に思わず体をピクピクと跳ねらせる。
と、その時だった。
ドシュッ!!
何度も聞いた鈍い音と激痛が勇馬を再び襲う。
「ぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
再び悲鳴を上げる勇馬。ヒドラスは、今度は勇馬の筋肉質な右太腿に噛み付いていた。
「次はこっちだ」
間髪入れずにヒドラスが勇馬の左太腿に噛み付いた。
ドシュッ!!
「うぎゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
その衝撃にとうとう耐え切れなくなったのか、勇馬が体をバタバタと暴れさせ始めた。その時、勇馬の体を押さえ付けていた4体のヒドラスが一斉にその手を離した。
「うわああああッッッッ!!!!」
その反動で、勇馬が前のめりに地面に倒れ込む。
「…ククク…!!」
ヒドラスはただ、ニヤニヤと笑っているだけだ。
「…て、…て…め…え…!!」
ブルブルと震える体でヒドラスを見上げる。その時だった。
「…ッ!?」
勇馬はヒドラスの様子が変わっていることに気付いた。
「…な、…何…だ…?」
ヒドラスがゆらゆらと揺らめいて見える。
「…いや、…違う…ッ!!」
その時、勇馬は最悪なことが起こったことに気付いたのだ。
「…そうだ…!」
ヒドラスが勝ち誇った笑みを浮かべたのか、口元が更に不気味に歪んだように見えた。
「…我が貴様に噛み付いたのは、ただ貴様の体が美味そうに見えたからだけではない!…噛み付くことによって貴様の体に我から溢れ出る邪悪な毒を盛り込んだのだ。その毒は既に貴様の全身に回っているはず。もう手遅れだ、チェンジペガサスッ!!」
ヒドラスの目がギラリと光ったと思った次の瞬間、
ドクンッ!!
と言う音が聞こえるほど、勇馬の心臓が大きく高鳴った。そして、
「はうッ!!」
と勇馬が一言言ったかと思うと、体が大きく跳ねた。