終わらない因縁 第1話
「…ここは、…どこだ…?」
寸分先も見えない、真っ暗闇の世界。当然、光もなく、どこに何があるのかも分からない。
その中に、不気味に浮いている1つの眼球があった。血走ったそれはまるで火の玉のようにふわふわとあてもなく彷徨い、不気味な光を放っている。それどころか、その血走った眼球が声を発していることの方が、余程不気味だろう。
「…俺は、…どうなったんだ…?」
地の底から湧き上がって来るような不気味な声。
「…俺は、…ゴーマ十六世なのだ…!…この俺が、…死ぬわけはないのだ…!」
その時だった。
俄かにその眼球が光を帯び始めたかと思うと、
「…誰か…!…誰かああああッッッッ!!!!…俺をッ、…俺をッ、…助けてくれよおおおおッッッッ!!!!」
と不気味な声で叫び始めた。そして、不気味な靄のようなものがそれを包み込んだかと思うと、巨大な火の玉となって飛び出し、やがて地面に降り立った。そして、そこから人のような形が現れたのである。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
全身黒ずくめの、革のような服に覆われた一人の男。
「…あ…?」
全身を見回し、暫し呆然とする。
手には真っ白なグローブのようなもの。その先には青い爪が付いている。全身黒を基調とした服の上半身には水色の下着のようなものを着込んでいた。そして、左目には眼帯のように大きなベルトがあしらわれていた。
「…これは…、…俺の元の姿…!!」
その時だった。
「…く…ッ!!…ククク…!!」
不意にその男が笑い始める。そして、
「…ッ、アーッハッハッハッハッハッハ…ッッッッ!!!!」
と、声をひっくり返らせて高笑いを始めた。
「…やったぞぉッ!!…俺はッ、…復活したのだああああッッッッ!!!!」
みるみるうちにその目に野心の炎が灯り始める。
「…まずは、大地動転の玉を探さねば…!」
取り敢えず、コツコツと言う音を立てて歩き始める。
「…大地動転の玉さえあれば、…この世をゴーマのための世界に作り変えることが出来る…!!」
何かに取り憑かれたように歩くその男。
「…俺がッ、…ゴーマ十六世だッ!!…ゴーマは、…誰にも渡さんッ!!」
ギラギラと憎悪に輝く瞳。冷酷そうな顔付き。
シャダム中佐。彼の復活が、この後に登場する2人の青年の人生を再び狂わせることになる。
「ありがとうございましたあッ!!」
横浜・中華街――。
その一角にある中華料理店「山海閣」。そこから一際大きな声が聞こえて来た。そして暫くすると、大きなポリバケツを持った1人の青年が店を出て来た。
「…ったく、…何でオレばっかりいつまでもゴミ捨て係なんだよッ!!」
ぶつぶつと頬を膨らませて、そのゴミバケツをドラム缶のように転がしながら移動するその男。
「オレだって早く一人前のコックになりたいっつーのッ!!」
そう言いながら、ポリバケツの中に入った、ポリ袋に入ったゴミをゴミ集積所へバスンバスンと無造作に捨てて行く。その時だった。
「相変わらず、ぶつぶつと不満ばっかり呟いてんだな…!そんなんじゃ、いつまで経っても自分の店を持つことは出来ないぞ、亮?」
そんな声が聞こえ、その青年・亮の体がピクリと反応した。そして、
「…あ゛あ゛ッ!?」
と柄の悪い声を上げ、背後を振り返った。だが、俄かに顔を輝かせ、
「…だッ、大五オオオオッッッッ!!!!」
と、声を掛けて来た青年・大五に抱き付いていた。
「ははッ!久しぶりだな、亮!」
相変わらず落ち着いて言う大五。だがその両手はしっかりと抱きついて来たものを抱き締め返し、ぽんぽんとその頭を撫でていた。
「ひっさしぶりだなあッ!!元気だったかあッ!?」
自分と同じくらいの身長の大五の両腕を掴み、亮は嬉しそうに言う。すると大五はニッコリとすると、
「見ての通りだ。お前も、相変わらず愚痴ばっかり零してるんだな!」
と、意地悪く言ってみた。その途端、亮はムッとした表情を浮かべ、
「うっせいやいッ!!」
と言ったが、
「…あ!…今夜、暇か?」
と、不意に何かを思い出したかのように大五に尋ねた。すると、大五は静かに頷き、
「俺も久しぶりにお前の姿を見たんでな、お前と話をしたくなった」
と言った。
「じゃあ、今夜7時にここでもう一度、会おう!」
亮はそう言いながらポリバケツを担ぎ直す。すると大五はフッと笑い、
「分かった」
と言った。
亮と大五。1年前、ゴーマ族が地球に襲来した際、その運命に導かれるようにして出逢った2人。彼らはゴーマ族に相反するダイ族の生き残りである道士・嘉挧の導きにより、五星戦隊ダイレンジャーとしてゴーマ族と壮絶な戦いを繰り広げた。
現代にゴーマ族が復活し、暗黒の世界を作り上げようとしたその時、「天に輝く五つ星」が現れる。亮と大五はそのうちの1つずつを受け継いだ。
亮は“天火星”リュウレンジャーとして、大五は“天幻星”シシレンジャーとして。
そして、ゴーマ族の滅亡を見送った、はず、だった。
だが。
正直に言えば、亮の心の中にはある男の言葉が引っ掛かっていた。
1年前――。
亮達を残し、あの世へと旅立った道士・嘉挧の言葉。
「一つの力を二つに分け、お互いが争いながら永遠に生きて行く。これ即ち、人間の宿命なのだ。妖力が滅べば、気力も滅ぶ。気力が残れば、妖力もまた残る。全てが虚しい戦いなのだ…」
「…あれは、…どう言うことなんだ…?
妖力とは、ゴーマ族が使用した力、そして、気力とは、亮達ダイレンジャーが使用した力。
「…妖力が滅べば、…気力も滅ぶって言ってたけど…」
亮は己の手のひらを見つめる。そして、不意にグッと腰を落とし、構えたかと思うと、
「はあッ!!」
とその手を突き出した。その途端、目の前にあった食器類やら花瓶類やらが手を触れてもいないのに吹き飛び、床に落ち、けたたましい音を立てて粉々に砕け散った。
「…オレに与えられた気力は消えていない…。…それって…」
「気力が残れば、妖力もまた残る…」
道士・嘉挧の言葉が頭の中を何度もリフレインする。
「…ああッ、もうッ!!」
亮はブンブンと頭を何度も振った。そして、
「大五にも聞いてみよう。あいつは、オレが一番頼れる仲間だからな…!」
と言い、
「仕事に集中だアアアアッッッッ!!!!」
と気合い一発、大声を上げたのだった。