終わらない因縁 第2話
「「乾杯〜ッ!!」」
亮がアルバイトをしている横浜・中華街の一角にある店「山海閣」。今、そこに亮と大五が客として座り、グラスを傾けていた。
「1年ぶりかぁ…!」
「ああ。そうだな」
目をキラキラと輝かせている亮に対し、大五は相変わらず穏やかな笑みをたたえている。
「…あれ?…大五、…飲まないのか?」
そう言えば、大五がオーダーしたのはジャスミン茶だった。すると大五は、
「温かいジャスミン茶は心を落ち着かせる作用があるんでな」
と言ったかと思うと、俄かに顔を曇らせ、
「…それに、…今日は何だか、あまりお酒は飲みたくないんだ…」
と言った。
「…?…そう言えば、亮。…お前こそ、飲まないのか?…普段は将児と1、2を争うくらいにガバガバ飲んでいるのに…?」
大五も、亮の目の前に置かれているのがアルコールではないことに気付き、そう尋ねた。
その時、お互いに真顔になっていることに、お互いが気付いた。特に大五に至っては、真面目な時には決まって眉間に皺を寄せている。すると亮はフッと笑い、
「…お互いに、…考えていることは一緒…か…」
と言った。すると大五もフッと笑って、
「そうだな。あれだけのことを一緒に乗り越えて来れば、嫌でもそうなるのかもな…!」
と言った。
1年前、ゴーマ族が地球に襲来した際、2人は五星戦隊ダイレンジャーとしてゴーマ族と壮絶な戦いを繰り広げた。亮は“天火星”リュウレンジャーとして、大五は“天幻星”シシレンジャーとして。
いや、正確には亮と大五の2人だけではなかった。他にも、将児が“天重星”テンマレンジャー、知が“天時星”キリンレンジャー、リンが“天風星”ホウオウレンジャー、そして、コウが“吼新星”キバレンジャーとして一緒にゴーマ族と戦い、激しい戦いの末、ゴーマ族の滅亡を見送った、はず、だった。
「…なぁ、…大五ぉ…」
「何だ?」
亮がじっと大五を見つめている。
「…道士・嘉挧の最期の言葉…。…どう言う意味だと思う…?」
その言葉に大五は目を伏せ、
「…やはり、お前も同じことを考えていたか…」
と言った。
「一つの力を二つに分け、お互いが争いながら永遠に生きて行く。これ即ち、人間の宿命なのだ。妖力が滅べば、気力も滅ぶ。気力が残れば、妖力もまた残る。全てが虚しい戦いなのだ…」
亮達を残して死ぬ間際、嘉挧が言った言葉。
「…いろいろ考えたけど、…答えが見つからないんだよ…。…それに、…オレ、まだ気力が使えるんだ…」
両手を見つめながら言う亮。すると大五も、
「…ああ。…俺もだ…」
と言った。
「…ま、…まさかッ!?」
突然、亮が目を大きく見開いて、ガタンと言う音を立てて立ち上がった。
「ゴーマ族がまた蘇る、とかッ!?」
「バカな。だって、ゴーマ16世になったシャダムはお前が倒したんだろう?」
1年前のあの日。燃え盛り、地球に落下してくるゴーマ宮の中で、亮とゴーマ族の支配者となったシャダムは揉み合っていた。その時、シャダムの腹部に短剣を思い切り差し込んだ時だった。
「…ぐふ…ッ!!」
シャダムが不意に呻き、その口から飛び出して来たものに亮は目を疑った。いや、口から飛び出して来たものだけではない。シャダムの両手にも目を疑っていた。
「…お、…俺の…、…俺の…、…手が…ッ!!」
「…泥だぁ…ッ!!」
恐怖と驚きに慄く亮。
「…こ、…れは…ッ!?…い、…一体、…どうなってるんだ…ッ!?」
そう言いながらも、全身がみるみるうちに泥に変わって行くシャダム。
「…シャ、…シャダム…ッ!?」
「…俺は…、…泥人形だったのか…ッ!?」
そして、バランスを失い、全身にひびが入って行き、ゴロゴロと泥の塊と化し、崩れて行く。
「…ウソだ…!!…た、…助けてくれよおおおおッッッッ!!!!」
最期には眼球1つだけになり、消滅して行った。
「…確かに、オレの目の前でシャダムは泥人形となって消えて行ったさ…。…でも…」
「一つの力を二つに分け、お互いが争いながら永遠に生きて行く。これ即ち、人間の宿命なのだ。妖力が滅べば、気力も滅ぶ。気力が残れば、妖力もまた残る。全てが虚しい戦いなのだ…」
2人の頭の中に、道士・嘉挧の言葉が再びリフレインする。
「…道士の遺した言葉の意味が、イマイチ、分かんねぇ…」
亮がそう言いながら頭を抱えたその時だった。
ポンッ!
視線を上げてみると、自分の頭の上に大五の手が乗っていることに気付いた。
「…大五…?」
いつものように穏やかな笑みを浮かべて亮を見つめている大五。
「心配するな、亮。お前には、いつもオレ達がついている」
「…大…五…?」
「お前一人で悩むことはない。苦楽をずっと共にして来た仲間が、お前にはいるだろう?少なくとも、お前の身近に俺はいる」
「…大五…」
その時、ようやく亮の顔に笑顔が戻った。すると大五は微笑みながら頷き、
「それでいいんだ、亮」
と言った。すると亮は、
「…何か、…兄貴と話してるみたいだ…!」
と、やや顔を赤らめて言った。大五は、
「ま、俺の方がお前より1つ年上だし、他の連中との間でも一番兄貴格だったからな」
と言った。そして、
「…俺で良ければ、いつでも相談に乗るぞ?」
と言ったのだった。その言葉に、亮は思わず目を潤ませ、
「…兄貴ぃ〜…!!」
と、大五の両腕にしがみ付いていた。そんな亮の頭を、大五は静かにぽんぽんと撫でていたのだった。
「…ふぅ…!」
亮の店からの帰り道。街灯もあまりない道を、大五はゆっくりと歩いていた。
「…兄貴…か…」
兄弟のいなかった大五にとって、亮に、ずっと苦楽を共にして来た仲間にそう言われるのは悪いことではない。むしろ、くすぐったさと言うか、心地良さが大五の心の中を駆け抜けていた。
だがそれは、瞬時に掻き消された。
「…ッ!?」
背筋も凍り付くような、強烈な殺気。穏やかな笑みを浮かべていた大五の眉間に大きな皺が寄る。
「…誰だ…ッ!!」
その厳しい眼差しで辺りを睨み付ける大五。
「…クックック…!!」
不意に青白い光が目の前に現れたと思った次の瞬間、大五は目を大きく見開き、その場に凍り付いた。
「…おッ、…お前は…ッ!?」