終わらない因縁 第3話

 

「…クックック…!!

 忘れもしない姿の男が、暗闇に照らし出されている。

 全身黒ずくめの、革のような服に覆われ、手には真っ白なグローブのようなものをはめている。その先には青い爪がグローブを突き破るようにして飛び出し、全身黒を基調とした服の上半身には水色の下着のようなものを着込んでいた。そして、左目には眼帯のように大きなベルトがあしらわれていた。

 ゴーマの幹部・シャダム中佐。

「…久しいな、…シシレンジャー…!」

「…シャダム…!!

 眉間に深い皺を寄せ、シャダムを睨み付けるシシレンジャー・大五。その声は、いつの間にか、低くなっていた。

「何故、お前がここにいる…!?

「…ああ…?」

 大五の問い掛けに、シャダムは首を傾げていたが、

「…さぁな…!」

 と、ギラギラと野獣のように輝く瞳を大五に向けた。

「…俺は確かに、リュウレンジャーに倒された。脇腹にナイフを突き刺された瞬間、俺は体がビリビリと痺れて行くのが分かった。気が付いたら、俺の体は泥になってた。そして、ボロボロと崩れて行き、目の前が真っ暗になって行くのが分かったよ…」

 そう言いながら、シャダムは脇腹辺りをゆっくりと擦った。

「…それから俺は、世界中のあちこちを彷徨っていた。…お前らの言葉で言うのなら、“怨念”と言うやつかな!」

 そう言ってちらりと大五を見やると、

「…まぁ、…そんなことを言っても、お前らは信じないだろうがな…」

 と言った。

「だが、俺は腐ってもゴーマ十六世だ!ゴーマ族の頂点にまで上りつめた男なのだ!そんな俺が、貴様らのようなひよっこに完全に消されるわけはないのだ!」

 体をブルブルと震わせ、憎悪の眼差しで大五を見つめるシャダム。だが、大五は、

「…フン!」

 と鼻で笑うと、

「笑わせるな…!」

 と言った。

「…怨念だか何だか知らないが、ゴーマは何度でも倒す!」

 キッとシャダムを睨み付ける大五。その手にしていたものを見た瞬間、シャダムは、

「…オ、…オーラチェンジャー…だと…!?

 と、俄かに怯んだ様子を見せた。大五は、

「オーラチェンジャーだけじゃない。俺達の気力は今でも健在だ!」

 と言ったかと思うと、

「行くぞぉッ!!オーラチェンジャーッッッッ!!!!

 と右腕用のオーラギャザーと左腕用のオーラスプレッダーを挿し込んだ。その瞬間、大五の体が眩しく光り、次の瞬間には、光沢のある鮮やかな白と緑を基調としたスーツを身に纏っていた。

 上半身はまるでベストのように光沢のある真っ白なデザイン、そこから伸びる鮮やかな緑色の四肢。大五の頭部を覆うマスクには獅子の装飾が施され、金色のデザインが煌びやかさを醸し出していた。シシレンジャー、大五のオーラチェンジした姿だった。

「獅子棍棒ッ!!

 大五がそう言った時、その手にはダイレンロッドが変化した棍が握られていた。

「行くぞぉッ、シャダムッ!!

 大五はダイレンロッドを振り回しながら、シャダムに飛び掛かって行く。

「はいッ!!せいッ!!はああああッッッッ!!!!

 獅子棍棒を突き出したり、大きく振りまわしてみたりを繰り返し、シャダムを追い詰めて行く。

「…ん…ッ!!…く…ッ!!

 それを懸命に避けるシャダム。

「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 大五が獅子棍棒を再度、大きく振り回し、

「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、シャダムに向かって大きく振った。

 ドゴオオオオッッッッ!!!!

 と言う鈍い音と同時に、

「ぐはああああッッッッ!!!!

 とシャダムが悲鳴を上げ、その体が大きく吹き飛ぶ。

「…お、…おのれえッ!!

 すかさず振り向いたシャダムが、

「カアアアアッッッッ!!!!

 と口を大きく開け、そこから光線を吐き出した。その光線が大五の体にぶち当たり、

 ズガアアアアンンンンッッッッ!!!!

 と言う衝撃音と共に大五のシシレンジャーのスーツがスパークし、

「うわああああッッッッ!!!!

 と悲鳴を上げて背後へ倒れ込む。

「…お、…おのれ…ッ!!

 だが、大五はすぐに立ち上がると、獅子棍棒にヤイバーをセットした。そして、

「天幻星ッ、ロッドアローッ!!

 と、緑色に光る闘気弾をシャダムに放ったのである。

「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 シャダムが悲鳴を上げた瞬間、

 ドオオオオンンンンッッッッ!!!!ズガアアアアンンンンッッッッ!!!!

 と言う激しい爆音が辺り一面に響き渡り、

「ぐああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、シャダムがその爆発に巻き込まれる。

「どうだぁッ、シャダムぅッ!!

 もうもうと土埃が立ち上るそこを見つめる大五。

「…ぐ…、…おおお…ッッッッ!!!!

 やがて、その土埃が消えて行くと、中から土埃だらけのシャダムが現れた。

「…お…、…お…、…おの…れ…ええええ…ッッッッ!!!!

 体をブルブルと震わせ、地面に這うシャダム。そして、

「…大地…動転の…玉…!!

 と呟くように言った。

「何ッ!?

 大五が思わず身構える。だが、シャダムはそんな大五を無視するかのように、

「…大地…動転の…、…玉さえ、…あれば…!!

 と言い残し、スゥッと姿を消したのだった。

「…ッ!?

 その光景に辺りを慌てて見回す大五。だが、そこにシャダムの姿はどこにもなく、何事もなかったかのような静寂が辺りを包み込んでいた。

「…おかしい…」

 変身を解除した大五が、すぐに眉間に皺を寄せ、何か考え事をするかのように腕を組んだ。

「…ゴーマ十六世に上りつめるほど、力が強かったはずのシャダムがあんなに弱くなっている…。…何故だ…?」

 そう言うと大五は、自分の両手をじっと見つめると、

「…俺が、…強くなったわけじゃない…。…やはり、…大地動転の玉とヤツと、何か関係があるのか…?」

 その時、大五は咄嗟に左腕のオーラスプレッダーを握り締め、

「…俺だ、亮!」

 と話し始めた。

『あ、兄貴ィッ!!どうしたんだ?』

 相変わらず、明るい声の亮。

「お前な…」

 兄貴と呼んで来る亮の声に思わず吹き出しそうになる。だがすぐに真顔に戻ると、

「亮、今から会えるか?お前に話しておかなければならないことが起こったんだ」

 と言った。すると亮は、

『どしたぁ?』

 と呑気そうに答える。

「…シャダムと、…一戦交えた…」

『…は?』

「詳しいことは会ってから話す。今からお前の部屋へ行く」

 それだけ言うと、大五はオーラスプレッダーのスイッチを切った。

(…何か、…とてつもなく嫌なことが起こる気がする…!)

 眉間に刻まれた皺は更に深さを増したようだった。

 

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