終わらない因縁 第6話
クジャクと大五は、街の外れにある小さな廃工場へとやって来ていた。
辺り一帯は住宅はあるものの、寝静まっているのか物音1つしない。聞こえるのは、クジャクと大五が歩く足音と、その歩行によって踏まれ、カサカサと音を立てる雑草の音だけだった。
「…なぁ、…クジャク…」
クジャクに再会した場所から、クジャクはここまで一言も話そうとせず、大五の前をスタスタと歩いている。そのやや早い足取りに大五はついて行くのに精一杯で、こちらも声を上げることが出来ないでいた。そんなクジャクの足取りがゆっくりになった時、大五がようやく声を上げた。
「…こんなところに来て、…一体、何があるんだ…?」
するとクジャクはゆっくりと大五の方を振り向いた。相変わらず、厳しい目付きで。
「…ここでしか、…話せぬことなのだ…」
その澄み切った悲しい、だが凛とした声に大五は思わず言葉を失う。
「ここならば、ゴーマも追っては来るまい。ましてや、こんな真夜中に…」
そう言うと、クジャクはやや躊躇った表情を見せたが、すぐに意を決し、
「大五。大地動転の玉を、復活させるのだ!」
と言った。
「…大地動転の玉を、…復活…?」
すぐには意味が飲み込めないのか、大五が目をきょときょととさせる。
「怨念となってもなお、この世界に未練を残すシャダムを倒すには、どうしても大地動転の玉が必要なのだ」
「だッ、だがッ、大地動転の玉は最後の戦いの時…!」
「心配せずとも良い。復活させることが出来るのだ」
静かに微笑んでいるクジャク。
「…ど、…どうやって…?」
半信半疑、大五はクジャクに尋ねる。するとクジャクは、
「お前が持つ気力と、私が持つ妖力…。…この2つを混ぜ合わせれば良いだけのこと…」
と言った。
「…混ぜ…合わせる…?…俺達の力を、…何かに放出すると言うのか…?」
その時だった。
ドクン!
大五の心臓が大きく高鳴った。
「…ク…、…クジャク…!?」
クジャクが顔を赤らめ、
「…大五…ッ!」
と言いながら駆け寄って来たかと思うと、大五に抱き付いていたのだ。
「…ク…、…ク…ジャ…ク…?」
その柔らかい体が大五に触れる。優しい香りが彼女の体からほのかに匂っている。
「…お前の気力と、…私の妖力…。…この2つを交わらせ、放出されるエネルギーを変えて大地動転の玉を作り出すのだ…!」
「…ま…、…待て…!」
ドクン!
大五の目が大きく見開かれ、呆然としている。それはつまり、大五の頭の中で全てが繋がったことを意味していた。
「…そ、…そんなこと…!!」
「これしか方法はないのだ!」
大五の言葉を遮るように、クジャクが声を大きくする。
「…私は、…大地動転の玉を復活させ、…この世界をシャダムの怨念から守るために、…仮初めの姿を使って復活した…!」
その目から涙が零れ落ちる。
「…クジャク…」
顔を真っ赤にしながらも、懸命に冷静に努めようとする大五。
「心配せずとも良い、大五」
クジャクの優しい声が、クジャクに再び抱き付かれた耳元に囁くように聞こえて来る。
「そのくらいの力は残されておる。大地動転の玉を作り出すまでは、私も再び天界へ帰るわけには行かぬ…!」
「…だッ、…だが…ッ!!」
するとクジャクは悪戯っぽく笑ったかと思うと、
「我は孔雀明王の化身。とは言え、体も心も女ぞ?その女をリードせずして、大五は男と言えるのか?」
と言った。
「…ぁぁぁぁ…!」
ドクン、ドクン!
大五の体がブルブルと震え始め、呼吸が次第に荒くなって行く。そして次の瞬間、
「…ぁぁぁぁああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、まるで自分を奮い立たせるかのように大声を上げた。
「…そうだ…」
クジャクが微笑む。
「…それでこそ、私が愛した男…」
「…やろう…!」
大五の目に光が灯っている。
「…俺には、…もう、…迷いはない!」
「…フフッ!」
クジャクが微笑む。
「最初は何を言い出すのだと思ったであろう?…だが、これしか方法がないのだ…。…分かるな、大五…?」
その時、クジャクが再び真剣な眼差しを見せた。
「とは言え、私は孔雀明王の化身。我の体にお前が触れるわけには行かぬ!」
「…え?」
不意を突かれ、大五は一瞬、理解に苦しむ。するとクジャクは、
「私は聖なる身。その聖なる身に、俗世の人間の汚らわしいものを交わらせることは出来ぬ!」
と言った。
「…じゃ、…じゃあ、…どうすれば…?」
「簡単なことだ」
そう言うとクジャクは、
「大五。シシレンジャーにオーラチェンジしておくれ」
と言った。
「…あ?…あ、…ああ…」
言われるままに、
「行くぞッ!!オーラチェンジャーッッッッ!!!!」
と右腕用のオーラギャザーと左腕用のオーラスプレッダーを挿し込んだ。その瞬間、大五の体が眩しく光り、次の瞬間には、光沢のある鮮やかな白と緑を基調としたスーツを身に纏っていた。
上半身はまるでベストのように光沢のある真っ白なデザイン、そこから伸びる鮮やかな緑色の四肢。大五の頭部を覆うマスクには獅子の装飾が施され、金色のデザインが煌びやかさを醸し出していた。シシレンジャー、大五のオーラチェンジした姿だった。
「…俺は、…どうすればいい…?」
シシレンジャーのマスクの中から、大五の声が聞こえて来る。するとクジャクはちらりと天井を見上げた。
「…?」
その視線に釣られるように、大五の視線も天井を見上げる。そこには、大きな荷物を運ぶためのリフトがあった。そこへクジャクが右手を伸ばしたかと思うと、彼女の指先から細い糸のようなものが伸びて行くのが分かった。
「…クジャク…?」
そして、その細い糸のようなものは大五の両手首に巻き付き始めた。
「んなッ!?クッ、クジャクッ!?」
突然のことに驚く大五。だがクジャクは、
「案ずるな。一時的にお前の身動きを取れなくするだけのこと」
とニコニコとしながら言う。
「…く…ッ!!」
そのリフトからまるで吊るされるかのように、大五は両腕を上へ突き上げ、X字に立っていたのだった。