ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第1楽章 第0話

 

 ゴウウウウンンンン、ゴウウウウンンンン…。

 息も出来ないほどの暗雲が立ち込める世界。凶悪な思念と絶望が覆う闇世界。

 その中にある書庫に、ボクはいた。

「…ふ〜ん…」

 その中の古めかしい本を手に取り、パラパラとページを捲る。

「…どいつもこいつも…」

 その本を読んでいるうちに、ボクはどうにもイライラして来ていた。

「…メカ人間?…機械生命体?…粘土?…怨念?…挙句の果てには、虫!?…くっだらな…!!

 大きく溜め息を吐くと、ボクはその本を書棚へ戻した。

「…そもそも、目的が小さすぎる…!!…世界征服?…無差別攻撃?…1人の人間の狂った私怨?…フンッ!!そんなんじゃ、この世界を支配出来るわけがないじゃないか…!!

 何だか、良く分からない。それが人間と言うものなのだろうか。

「…この世界を闇に覆わなきゃダメなんだ。…人間を精神的に追い詰め、ヤツらが発する闇を吸収し、この世界を真っ暗な世界にする。…それこそがボクの、…いや、ヨドン皇帝の喜び…」

 そう言った時、

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、ボクは笑っていた。目を大きく見開き、背後へ仰け反るように。でも、すぐにその笑いを止めると、

「…今のとこ、…笑うとこ?」

 と独り言ちた。

「…それにしても…」

 その時、ボクはもう一度、書棚からあの古びた本を取り出した。

「…ボク達がここにやって来るよりもずっと前から、この世界を支配しようとしていたやつらがいたなんてねぇ…」

 その数、43。様々な色やデザインの正義の味方と言うやつらが、この世界を支配しようとしているやつらの野望を悉く打ち砕いていたんだ。

「…仲間?…くっだらな…!!

 いつだったか、ボクはキラキラしている連中の前でそう言ったことがあった。

「出来るものなら、見てみたいなぁ。その、奇跡の大逆転ってヤツを…!!

 ボクが、いや、ヨドン皇帝も大嫌いな「仲間」とか、「団結」とか、「奇跡の大逆転」とか。

「…それを…ッ!!…キラメイジャーは…!!

 ブルブルと体が震えて来る。クリスタリアの秘宝・キラメイストーンに力を授かった戦士。

「普通の一般人のくせに…!!

 陰キャな高校生・熱田充瑠はキラメイレッドに、eスポーツ界No.1プレイヤーのイケメン・射水為朝はキラメイイエローに、100メートル走の日本記録を持つ女子陸上界のスーパースター・速見瀬奈はキラメイグリーンに、イケメンアクション俳優・押切時雨はキラメイブルーに、そして、美しすぎる女医とテレビで評判のスーパードクター・大治小夜はキラメイピンクにキラメイチェンジする。

 そして、ヨドン皇帝が仕向けた大軍が滅ぼした国・クリスタリアの養子で、元は人間・クリスタリア宝路はキラメイシルバーにキラメイチェンジする。

「…眩し…!!

 いっつもキラキラしてて、いっつも暑苦しくて…。

「…ほぉんと、…大っ嫌いッッッッ!!!!

 考えただけで虫唾が走る。

「…って言うか…」

 ボクは手に取っていた本を再びパラパラと捲る。

「多勢に無勢のはずなのに、どうしてやられちゃうんだ?」

 カラフルな正義の味方と相対する、黒色やうぐいす色、灰色、明るい紫色などの戦闘兵。

「…あぁ…」

 何となく、分かった。

「…こいつらが、…弱すぎるんだ…!!

 うねうねと動いたり、ロボットのようにカクカクと同じ動きしか出来なかったり。そんなヤツらがもっと強かったら、まさに、多勢に無勢なのに。

「まぁ、うちのベチャット達は使い捨ての駒だからな…。…いや、きっとこいつらもそう言う運命だったんだろうな…」

 そう言った時、

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、ボクはまた笑っていた。でも、すぐにその笑いを止め、

「…今のとこ、…笑うとこ?」

 と独り言ちた。

「…よく、分からない…」

 ふぅ、と溜め息を吐く。人間の感情とは、難しいものだ。

「…もし…」

 じっとその本を見つめるボク。

「…もし、大量生産されるこいつらがもっと強かったら、この本の中身は大きく変わっているのか…?」

 いや、間違いなくそうだろう。使い捨ての駒がもっと強くて、もし、その力が正義の味方を凌駕するほどだったら。

「そしたら、この世界はあっと言う間に闇に覆われていただろうに…」

 いや、違うな。

「ま、支配者ってヤツらのレベルがどのくらいかにもよる、…か…」

 個人的な怨恨で自らを神と称し、この世界を支配しようとしたのなら、たかが知れている。

「支配者が支配者なら、こいつらもこいつら、ってとこか」

 その時、ボクの心の中には物凄くおぞましい感覚が渦巻いていた。

「…だったら…!!

 目を輝かせ、舌なめずりをする。

「…ボクが歴史を改変してしまえばいいんだ!!…そう。…この大量生産されるヤツらをもっと強くさせて、正義の味方を1人ずつ片付けて行く…!!

 次の瞬間、

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、ボクはまた笑っていた。でも、すぐにその笑いを止めた。今度は、違う意味で。

「…いや、…それだけじゃダメだ。…こいつらの支配者の性格すらも変えてしまわないと。せっかく強い怪人を生み出しても、どこか詰めが甘いんだ。だから、その怪人も正義の味方にやられてしまう。そんなんじゃ、物足りない」

 ふぅ、と溜め息を吐く。

「…やっぱり、怪人じゃなくて、この大量生産されるヤツらに正義の味方が1人ずつ、陵辱の限りを尽くされるって言うのが堪らない。自分よりも遥かにレベルが低いヤツらが急に強くなって、その混乱と屈辱に為す術もなくやられて行く…。そうじゃなきゃ、面白くないよね?」

 そう言った時、

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と、ボクは笑っていた。

「…そうだ…。…そうじゃなきゃ、ダメなんだ!!それが一番面白いんだ!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 ひとしきり笑って、ボクはその笑いを止めた。

「…今のとこ、…笑うところで合ってるんだっけ?」

 まぁ、どうでもいい。

「…じゃあ、出かけようか…」

 ニヤリと口元を歪ませ、ボクは目を大きく見開いた。

「…過去の世界へ…!!

 舌なめずりをした時、ボクを真っ暗な闇が覆っていた。

「…このボクが、ちょっとだけ過去の歴史にスパイスを加えてあげるんだ…!!

 

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