ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第1楽章 第1話

 

 ピッ…。ピッ…。

 薄暗く、寒い空間。その中に所狭しと並んだたくさんの機械。そして、無数のマネキン人形のような素体のものが立ち並んでいる。

「…出来た…!!

 その中に佇む1人の男。いや、男、と言うより老人と言った方がいい。全身黒ずくめで大きな黒いマントを何度も何度も翻す。その顔は半分は銀色で、残りの半分は生気を失ったような土色。そして、その額には大きな機械がヘアバンドのように巻き付いていた。

「…ようやく完成した…!!…今までにはなかった最強のメカクローンが…!!

 頭部は灰色。赤い目と顎の部分に縦に延びる黒いライン。そして、その体は真っ黒なスーツのようなものに覆われていた。

「…起動…!!

 その老人がスイッチを押す。

 ピッ!!

 軽やかな音が聞こえたその瞬間、

 …ウィィィィンンンン…。…ガシャン…ッ!!…ガシャン…ッ!!

 と言う音を立てて、その老人が名乗ったメカクローンと言うマネキン人形のようなものが一定の動きをし始めた。

「…今までは単に戦闘兵としての役割しか持たなかったが、この3体は違う。倒されても倒されても、ねじ1本の単位までバラバラにされたとしても、自分の力で再生してしまうのだ。更に、再生されればされるほど、バイオマンから与えられた攻撃を全て吸収し、自分のものとする。…これでいかにバイオマンと言えども、このメカクローンを倒すことは出来まい…!!

 その老人はニヤリと笑うと、

「バイオマンめ!!今度と言う今度こそ、貴様らの最期だ!!

 と言い、ゆっくりとその場所を後にした。

 

「…ふぅん…」

 誰もいなくなった静かな部屋。

 さっき起動させられたメカクローンと言う戦闘兵は今、起動スイッチが切られ、しんと静まり返っていた。

「…こんなお人形さんが、…ねぇ…」

 ボクはそのメカ人間の体をつつっと指で撫でる。

「倒れされても自分の力で再生する、か…。…くっだらな…!!

 ボクは1体のメカクローンに指を伸ばす。

 ポウ…。

 ボクの指先に青白い球が浮かぶ。そして、それはそのメカクローンの中へ吸い込まれるようにして消えて行った。

「…フフ…ッ!!

 ボクはほくそ笑む。

「…さぁ、…歴史改変の始まりだよ…!!

 ボクが飛んだのは26年前の世界。

 ドクターマンと名乗る狂気の天才科学者が、自らが作り出したメカ人間による新帝国ギアを率いて世界征服を開始した。バイオロボによって肉体と精神を強靱にするバイオ粒子を浴びせられた5人の若者の子孫だった若者が、バイオマンとしてギアに立ち向かった。

 まぁ、当然のことながら、最後には新帝国ギアは滅んでしまうんだけど。

「…ボクが与えたスパイス、…美味しくなってくれたらいいんだけどなぁ…」

 

「…え?」

 荒涼とした荒野。そこにいた者が思わず身構え、すぐに目を点にした。真っ白なノースリーブのシャツに、真っ黒なタイトジーンズ。体に密着するそれらが南原の体付きをくっきりと浮かび上がらせている。

「…メカクローンが…、…3人…?」

 いつもだったらギアの幹部がいて、ジューノイド五獣士と呼ばれる中級クラスの怪人がいて、そして、メカクローンと言う大量の戦闘兵がいる。だが、今、目の前にいるのは、ガシャン、ガシャンと言う機械音を立てて歩いて来る3体のメカクローンだけだ。

「…へんッ!!

 その男・南原竜太はイラッとした表情を見せると、

「お前らなんかッ、変身するまでもないッ!!

 と言い、

「行くぞオオオオッッッッ!!!!

 と言ってそのメカクローンに向かって突進して行った。

 ガシャンッ!!ガシャンッ!!

 そのメカクローンは鈍い金属音を立てながら腕をへし折られ、首を180度後ろへ捻じ曲げられ、体を捻られ、なぎ倒されて行く。

「どうだあッ!!

 得意顔の南原。フフッ、無駄なことなのに…。

 その時だった。

 3体のメカクローンがポウと光を放ったその瞬間、

 ガシャンッ!!ガシャンッ!!

 と言う音を立ててへし折られた腕や180度捻られた首や体が元通りになり、スクッと立ち上がったのだ。

「…な…ッ!?

 当然、今までになかったことだったせいか、南原は驚いたようだったがすぐに、

「…こんの野郎…ッ!!

 と、握り締めた拳をブルブルと震わせ、

「はああああッッッッ!!!!

 と叫びながらその拳をメカクローンへ向かって突き出した。ところが、

 ドゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う音と共に、

「…ぐふ…ッ!?

 と呻き声を上げて南原が体をくの字に折り曲げていた。1体のメカクローンの真っ黒な右拳が南原の腹部に減り込んでいたのだ。

「…な…んだ…と…!?

 南原の顔が歪む。だがすぐに、

 バシイイイイッッッッ!!!!

 と言う音と共に、南原の体が宙を舞っていた。2体目のメカクローンが南原を薙ぎ払っていた。

「うぅわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 悲鳴と共に地面に体を打ち付け、ゴロゴロと転がる南原。

「…く、…くそ…ッ!!

 ゆっくりと起き上がった時、3体目のメカクローンが飛び掛かって来た。

「なッ、何なんだよッ、こいつらああああッッッッ!!!!

 南原のイライラが極度まで達している。

 ドガッ!!バキッ!!

「それええええッッッッ!!!!

 パンチやキックを食らわせ、更にそのメカクローンを投げ飛ばす。

 ガシャンッ!!ガシャンッ!!

 投げ飛ばされた3体目のメカクローンが他の2体の上に重なり、体中のあちこちのパーツが飛び散る。だが次の瞬間、メカクローンはポウと光を放ち、再び元通りになって立ち上がった。そして、今度は3体が同時に南原に飛び掛かったのだ。

「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 あっと言う間に3体に担ぎ上げられる南原。

「…おッ、…下ろせ…ッ!!…下ろせよ…ッ!!

 だが3体のメカクローンはグルグルとその場を回っているだけだ。と思った次の瞬間、担ぎ上げていた南原を思い切り地面に突き落としたのだ。

 バシイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!

 地面に叩き付けられた南原は背中をしたたかに打ち付ける。

「…ぐ…ッ!?

 体を弓なりにして呻く南原。その目がカッと見開かれ、体はブルブルと小刻みに震えている。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 一瞬、意識が遠退いたのか、南原は目をパチクリさせている。

「…ど、…どうなって…、…る…んだ…あ…ッ!?

 普段ならすぐに仕留められるメカクローン。だが、今は2度倒してもまた立ち上がって来る。そりゃ、南原にとっても厄介な敵と言ったところだろう。

「…よぉし…ッ!!

 だが、南原の目には明らかに闘志が浮かんでいた。次の瞬間、南原がスクッと立ち上がったかと思うと、

「行くぞオオオオッッッッ!!!!

 と叫び、右手で拳を握り、左手は指先を天へ向けてその手のひらで右拳を支え、頭上へ伸ばした。そして、

「ブルーッ、スリーッ!!

 と叫びながら、その両手を胸の前へ素早く下ろしたその途端、眩い光が南原を包み込んだ。そして、その光が消えた時、南原は光沢のある鮮やかな青色のスーツに身を包まれていた。

 ブルースリー。それが、南原竜太がバイオマンに変身した姿。

 この時、南原はまだ知らなかった。このメカクローンとの戦いが、自らを破滅に追いやると言うことを…。

 

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