ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第2楽章 第2話
ブロロロロ…!!
けたたましい音を立てながら走る1台のバイク。冷たい風が吹き抜ける荒野の中を、砂埃を上げながら。
(…豪のヤツぅ…ッ!!)
黒いブルゾンに真っ白なスウェットズボン。黒いマスクのバイザーから見える目は鋭く、怒りに血走っていた。イエローライオン・大原丈。
『丈ッ!!お前一人でここへ来いッ!!』
そう通信を受け取ったのは昨日のこと。
「おめぇなんてッ!!おめぇなんてッ、もう親友でも何でもねえッ!!」
そう怒鳴りながら拳を振り上げた時とは違う、普通の人間の姿。
モニター越しに映る尾村豪の姿。それは、ドクターオブラーのおぞましい獣人態ではなく、何度も何度も見慣れた豪そのものの姿だった。
(…けど…)
その時、丈は1つだけ、気がかりなことがあった。
(…豪のあの目…)
何かを思い詰めたような、切羽詰まったような目。
「おいッ、豪ッ!!無理すんなって!!」
科学アカデミアで机を並べていた時のこと。
のんびり屋の、その場の一発勝負の丈とは違い、豪は常に机に向かい、鉛筆を走らせていた。レポートの提出だって計画的に作成し、締め切りに余裕を持たせていた。
だが、その時に限って豪がレポートの作成に追われ、夜遅くまで机に向かっていた。根詰めると、豪は周りが見えなくなる悪い癖があった。そのうち、豪は食事もままならなくなり、机に向かいながらコクリ、コクリと船を漕ぎ出すまでになったのだ。
「…う…ん…」
眠気で真っ赤になった目を擦りながら懸命に鉛筆を走らせる豪。
「…大…丈夫…」
「バカッ!!何が大丈夫なもんかいッ!!」
思わず背後から豪を抱き締めていた。
「…お前ッ、飯だってあんまり食ってねぇだろ!?少し痩せたんじゃねぇのか?」
「…そんなこと…、…ないよ…」
ニッコリと笑う豪。だが、その目は潤み、丈に何かを訴えていた。いや、その後、それが現実となるのだが。
「…お前、…少しは休まねぇと、レポートだってきちんとしたものが書けないぜ?」
丈が苦笑してそう言うと、豪は視線を机に落とした。
「…丈は…、…凄いよね…」
「…え?」
デスクの照明の影響か、豪がゲッソリと痩せたように見える。
「…丈は…、…何でも卒なく、器用にこなしてしまうんだもんね。…要領がいいって言うか…」
「…豪…」
「…僕なんか、…要領が悪くてすぐにいっぱいいっぱいになって…。…少しでも計画が狂うと、一気に崩れてしまうんだ…!!」
そう言った時、豪は丈を見上げていた。目にいっぱい、涙を溜めて。
「…丈…お…ッ!!…助けてよッ!!…僕を…ッ、…助けて…ッ!!」
「おッ、おいッ、豪ッ!!落ち着けよッ!!」
無我夢中で縋り付いて来る豪を思わず抱き締める。
「大丈夫だって、豪ッ!!お前なら、立派なレポートが書けるって!!」
「…丈…?」
ニッコリと笑っている丈。
「ただし、睡眠時間と食事は大切だぜ?寝不足の頭じゃ、注意力も散漫になるし、食事もしっかり摂らねぇと、栄養が頭に回らなくてきちんとしたレポートが書けなくなっちまう」
丈がそう言う頃には、豪は少し落ち着いたのか、思い詰めたような、切羽詰まったような目はしていなかった。すると、丈は悪戯っぽくニヤリと笑って、
「まぁ、いっつも合格ラインギリッギリのオレが言っても、あんまり説得力ねぇけどな!!」
と言ってカラカラと笑った。
「…丈…ッ!!」
その時、豪は丈に思わず抱き付いていた。
「…落ち着いたか?」
同級生なのに、弟のような、そんな感じ。丈は思わず、豪の頭を撫でていた。
「…うん…」
「…一緒に…、…寝るか…?」
「…え?」
豪は思わず見上げていた。そこには、顔をやや赤らめた丈がいた。
「…何か、今夜はお前をしっかりと抱き締めて寝てやりてえ気分なんだ。その方が、お前も落ち着くだろうし…」
「…うん…」
豪は一言だけそう言うと、丈の背中へその細い両腕をしっかりと回していた。
その夜、豪は丈の太い腕にしっかりと包まれ、その胸に頬を埋め、久しぶりに深い眠りに就くことが出来た。そして、その翌日、豪は持ち前の集中力で一気にレポートを完成させたのだった。
「…ッ!!」
はっと我に返った時、丈は目の前に立っていた男を見て、バイクのエンジンを切った。
「…ご…ッ、…豪…ッ!!」
冷たい風が吹き抜ける荒野にぽつんと立っていた豪。
「おいッ、豪ッ!!」
虚ろな瞳。あの時と同じ、切羽詰まったような、追い詰められたような目。
「…丈…」
ゆっくりと顔を上げる豪。
「…助けてよ…、…丈…」
「…え?」
その時だった。
強烈な殺気と共に豪がギラリと目を輝かせ、不気味に笑ったのだ。
「…丈を…、…僕だけのものにするんだ…!!」
「おッ、おいッ、豪ッ!?」
その時、何かが豪の後ろから飛び出して来た。そして、それが丈に向かって来たのだ。
「うおッ!?」
思わず身をすくめ、それを避けると、丈はバイクを降り、その方向を見た。だがすぐに、
「…え?」
と言い、目を点にした。
「…ジンマー…?」
1体のジンマーが両腕を真横に広げて突進して来たのだ。
「…」
ムカッ腹が立つとはこのことだ。
「…こんの…ッ!!」
握り締めた拳がギリギリと音を立てる。
「やいやい、ジンマーッ!!たった1人でオレ達に勝てると思ってんのかああああッッッッ!!!?」
丈は、飛び掛かって来たジンマーの両足を両脇にガッシリと抱えると、
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と雄叫びを上げ、グルグルと振り回し始めた。
「どうせならッ!!もっと仲間を連れて来やがれッ、この野郎オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ぶううううん、と言う空気を切るような音が聞こえ、そのジンマーが宙を舞う。そして、ドサッと言う音と共に地面に倒れた次の瞬間、
ドオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う衝撃音と共に爆散した。
ガンッ!!ガランッ!!ガラガラ…!!
機械生命体だけあり、頭部や腕、足など様々なパーツが飛び散る。
「ヘヘンッ!!どんなもんだいッ!!」
得意げに豪を見たその時だった。
「…ククク…!!」
豪は相変わらず強烈な殺気を漂わせながら、丈を侮蔑の眼差しで見つめていた。
「相変わらず、君はバカだね、丈ッ!!」
「はあッ!?」
ニヤニヤと笑う豪に、さっきまでの思い出が吹き飛びそうになる。
「この僕が、ただ1体のジンマーだけを連れて君を襲うと思うのかい?普通のジンマーだったら、君にダメージを与えられるわけがないじゃないか。普通のジンマーだったらね!!」
「…な…に…!?」
さっきから嫌な予感しかしない。
その時だった。
爆散したジンマーの体が怪しい光を放ったかと思うと、その中の一部が急激に形を変えたのだ。
「…な…ッ!?」
丈の目の前には、2体のジンマーが立っていたのだった。