ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第2楽章 第4話
「…一緒に、…イエローライオンをキミだけのものにしてあげるよ…!!」
ゴウウウウンンンン、ゴウウウウンンンンと言う、この宇宙船・ヅノーベースを宇宙と言う何もないところに浮かばせ続ける駆動音だけが低く響いている。その動力源はここから相当、離れた位置にあるはずなのに、それが聞こえて来ると言うのは、ここがそれだけ静かだと言うことだろう。
「…ッ!!」
目の前にいる小柄な男・ドクターオブラー。その額には玉粒のような汗が浮かび、ビクビクと怖気付いているように見える。
「…はぁぁ…」
ボクが大きな溜め息を吐いた時、ドクターオブラーは体をビクリとさせた。
「…さっきも言ったけど…。…キミはここを追われるんだ。…それに、…ここを追われても、キミは他の仲間達に命を狙われ続ける…。…だって、…大教授ビアスの秘密を知ってしまってるんだから…」
「…ビアス様の…、…秘密…?」
「…フン…ッ!!」
余計なことまで口走ってしまった。でも、コイツは気付いているはずだ。ボクはニヤリとすると、
「…君だって薄々、気付いているんだろ?…君達が陶酔する偉大なる大教授様の秘密をさ…!!」
「…な、…何の…、…ことだ…!?」
分かりやすい。大きく見開かれた瞳がきょときょとと忙しなく動いている。
「まぁ、どうでもいいや、そんなこと」
ボクはそう言いながら、オブラーへと近付くと、
「…で、…どうするの?…ここまで追い詰められているのに、君はそれでも独りでやるつもり?」
と言うと、オブラーを一瞥し、
「独りでやったって、結果は見えてるけどね」
と言った。
「…う…う…う…う…!!」
涙目のオブラー。
(…情っさけな…!!)
そりゃ、大教授ビアスだって、他の幹部連中だってコイツを見捨てるわけだ。すぐに弱気になり、涙目になり、体をブルブルと震わせている。
「お前は天才なんかじゃない。ビアス様にお情けでボルトへ入れて頂いた、言ってみれば、落第生なのよ!!」
あの気の強そうな女・ドクターマゼンダがそう言ったのも頷ける。今、ボクの目の前にいるのはウサギよりも弱々しい、ひ弱な、絶対にモテないであろう男なのだから。
だが、そんな男・ドクターオブラーの心の中には1人の男の存在があった。元親友で、今は武装頭脳集団ボルトと敵対する超獣戦隊ライブマンの1人、イエローライオン・大原丈。
(…まぁ、…そうなるだろうね…)
弱々しい男ほど、他の男を見て、ソイツを自分のものにしたい、自分の目の前で跪かせたい、そう思うだろう。
「…もし、…キミの大好きなイエローライオンがキミのものになったら、キミの運命は大きく変わる。…それに、キミだけのイエローライオンが、キミを永遠に守ってくれるんだ」
「…丈が…、…僕を…?」
「そう」
囁くように言うと、ボクはオブラーの前へ回る。
「イエローライオンがキミだけのものになったら、キミは彼に望むことをたくさんしてもらえる。どんなことだってしてくれる、キミだけのヒーローになるんだ。素敵だと思わない?」
何だか、ムカつく。ボク自身のためになることじゃないのに、わざわざ、こんなお節介なことをしているなんて…。
「…」
オブラーは視線を床へと落とし、その瞳をきょときょとと忙しなく動かしている。体の横では、握られている両手の拳がブルブルと震えていた。
「…一緒に、…イエローライオンをキミだけのものにしてあげるよ…!!」
作り笑い200%の笑顔で、ボクはオブラーの顔を覗き込んだ。
すると、オブラーの視線がようやく動き、
「…どう…、…すれば…?」
と呟くように言った。
「うん?」
「…僕は…、…どうすれば…、…いい…?」
「…フン…ッ!!」
ボクはニヤリと笑うと、
「…ジンマー…、…だっけ…?…1体、作ってよ」
と言った。
「…え?」
きょとんとした表情のオブラー。
「聞こえなかったのか?ジンマーを1体作れって言ったんだ!!」
ボクがムッとして言うと、
「…ジンマーなんか作って…、…一体、何を…?」
と聞いて来た。
「決まってるだろ?それでイエローライオンを君のモノにしてあげるって言ってるんだ」
「…ジンマー…なんて…」
その時、オブラーは俯き加減になった。
「…ジンマーなんて、…ただの戦闘兵だ。…頭脳獣みたいに力も強くない。ただの手駒にしか過ぎない…」
「そんなの、知ってる。さっきも言ったろ?ボクは未来から来たんだ、って」
ツカツカとオブラーに歩み寄ると、ボクは思わず胸倉を掴んでいた。
「…なッ、…何を…ッ!?」
「…お前みたいなひ弱な男、本当ならすぐにでもぶっ殺してやりたい気分なんだッ!!けど、それをやったらボクの計画が狂ってしまう。ボクは過去にも同じように地球侵略を試みてやられて行ったたくさんの集団を知っている。お前らだって、所詮は同じ穴の狢。同じ運命を辿るのさ!!」
「…あ…あ…あ…あ…!!」
本気で苦しいのか、オブラーはボクの手を掴む。でも、ボクはオブラーの胸倉を掴んでいる手を離そうとはしなかった。それよりも、更に彼を追い詰めた。
「お前は、ジンマーと同じ存在だ!!」
「…ッッッッ!!!?」
目を大きく見開くオブラー。
「…自分でも気付いてるんだろ?…他の連中には及ばない、ただのひ弱な、情けないヤツだって。そんなだから、大教授ビアスにも見放されるんだ。お前とジンマー、似た者同士なら、ジンマーの心だって読めるんじゃないのか?」
「…僕は…、…僕は…!!」
その時だった。ボクは物凄い勢いで吹き飛ばされていた。
「…ッ!?」
目の前のオブラー。さっきまでひ弱だった男から相当な殺気が漂っている。
「…僕は…ッ!!…使い捨ての駒になって堪るかッ!!どいつもこいつも、僕をバカにしやがってええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!」
荒々しく息をし、部屋中を行ったり来たりする。その目は怒りと羞恥に打ち震えていた。
「僕は落ちこぼれなんかじゃないッッッッ!!!!僕は、ビアス様に認められて武装頭脳集団ボルトに入ったんだッッッッ!!!!僕だって、やれることをケンプやマゼンダに認めさせるんだああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「…じゃあ…」
ボクはニヤリと笑うと、彼の元へ歩み寄り、肩をポンと叩く。
「…ボクが、君の願いを叶えてあげても、いいよね?」
「…ああ…!!」
その目がじっとボクを見つめている。
「…僕は…、…ジンマーを作ればいいんだな?」
「そう。普通のジンマーでいい」
「…分かった…」
それから暫く後、彼は1体のジンマーを作り上げていた。
光沢のある鶯色のスーツがキラキラと輝くそれはとても無機質で、冷たい戦闘兵だった。
「よし。上出来だ!!」
ボクはそう言うと、そのジンマーの心臓部分に手を当てた。
…ポウ…ッ!!
手のひら全体が妖しい光を放ち、それがジンマーをも包み込んだ。
「…これで良し…」
「おッ、おいッ、お前ッ!!い、一体、何をやったんだ…ッ!?」
「…お前…?」
一瞬、カチンと来たが、ボクはフンと鼻で笑うと、
「これでイエローライオンに勝ち目はなくなった。ボクはこのジンマーに特殊な能力を与えたのさ!!」
と言うと、ゆっくりと歩き始めた。ボクの目の前には大きなどす黒い渦がある。
「それじゃ、キミの健闘を祈ってるよ」
ヒラヒラと手を振ると、その黒い渦の中へと消えて行った。
「…たった1体のジンマーが、こんなにも増えるなんて…!!」
目の前でもがき苦しむイエローライオン・大原丈を見ながら、豪は目を輝かせていた。
「…それにしても、あの女は誰だったんだ?…僕のことをジンマーと同じだと言ってみたり、こんなに素敵な能力をジンマーに与えてくれたり…」
その口元に不気味な笑みが浮かんでいる。
「…まぁ、どうでもいいや、そんなこと!!…今は…、…丈を僕だけのものにすればいいだけなんだから…!!」