ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第3楽章 第0話
「…ふぅぅ…」
さっきからどれだけ溜め息を吐いただろう。ボクの口から出て来るのは深い溜め息だけだ。しかも、その溜め息は決して耽美なものでも、感動的なものでも、心が癒されるようなものでもなかった。
要は、イライラが募っての溜め息ばかりだった。
「…全く…。…クランチュラの趣味はろくでもないな…!!」
ボクは今、1冊のコミック本を手に取っている。
「…この間も、同性での恋愛本をニヤニヤしながら読んでいたかと思えば、今度は何だこれ…!?」
そう言った時、ボクは笑いが込み上げて来た。
「…プッ!!…アハッ!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」
あまりにもバカバカしくておかしい。けれど、
「…何だ、…この気持ち…?」
と、ボクは心の中に芽生えつつある感情に戸惑っていた。
その時だった。
「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!?」
甲高い叫び声が聞こえ、真っ赤な顔のクランチュラが物凄い勢いで駈け込んで来た。そして、ボクが手にしていたコミック本をひったくるように奪うと、
「おいッ、ヨドンナッ!!私のコレクションを勝手に読むなッ!!」
と、頬を膨らませて言った。
「…はぁ!?」
いちいちムカつくヤツだ。ヨドン皇帝に言って消してもらおうか…!!
「部下であるお前のものをどうしようと、それはボクの勝手じゃないか!!」
ボクが声を荒げると、
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!?私はお前の部下になった覚えはないッ!!」
と、クランチュラがムキになって言う。その時、ボクはフフンと鼻で笑うと、
「ヨドン皇帝の部下であると言うことは、ボクの部下になるだろう?」
と言うと目を大きく見開き、クランチュラの顔にボクの顔を突き合わせた。
「…それとも…。…ヨドン皇帝に頼んでお前を消してもらおうか…?」
「…ッッッッ!!!?」
その言葉に、クランチュラは顔を蒼ざめさせる。
…いや、普段から真っ赤な顔だから、本当に顔が真っ青になっているのかどうかは分からない。
「お前が今読んでいるコミック本とか言うやつ。子供が大人に屈辱を与えて喜ぶようなものは、お前がヨドン皇帝に対してそう言う気持ちを持っているからじゃないのか?お前が、ヨドン皇帝を追い落としたい、そう思っているんじゃないのか?」
その途端、クランチュラは俄かに怯えた表情になって、
「そそそそ、そんなわけがないだろうッ!?」
と、悲鳴混じりの声で叫んだ。
「…わわわわ、私はただッ、クリエイターの観点からこう言う本を読んでいるだけだッ!!今回のはショタ責めと言うジャンルに当てはまるBL本と言うやつだッ!!…そッ、それにッ、こう言う本から次の作戦のヒントを得ようとしているだけだッ!!」
「…ショタ…責め…?…BL…本…?」
ボクが顔を斜め45度にして首を傾げると、クランチュラはフフンと笑い、
「面白いぞ、BL本は。地球にはこんなジャンルの本まで存在するんだ。BL、つまりボーイズラーヴ、ってやつだ。男同士の恋愛、そして、その中でも様々なジャンルがあってな。お前が前に読んだことがある大人な男性同士の恋愛もあれば、こうやって普通の大人の男性が子供達に恥ずかしいことをさせられてしまうと言うショタ責めと言うジャンルも存在するんだ。そして、その逆もある。子供達が大人達に恥ずかしいことをさせられてしまうショタ受けと言うジャンルだ!!」
と言った。クランチュラが言った「ボーイズラブ」のところではご丁寧に下唇を上の歯で少しだけ噛んで発音している。
「…くっだらな…!!」
はぁぁ、とボクは大きな溜め息を吐き、うんざりした表情を見せた。するとクランチュラは、
「とにかくッ!!私はヨドン皇帝に逆らう気など、全くないッ!!ヨドン皇帝に逆らって生き残った者はいないのだからなッ!!」
と言った。
「分かっているのなら、それでいい」
「ところでヨドンナ」
不意にクランチュラがボクを呼んだ。
「…何だ?」
「…お前、前に不思議なことを言っていたな。歴史改変、とか何とか…」
「…?…あ、…ああ…。過去の世界へ行って、過去で地球を守って来た戦隊ヒーローを敗北させると言う、あれだろ?」
「…そ、…それなんだが…。…本当にやっているのか?」
「どう言う意味だ?」
「…い、…いや、別に意味はない。ただ、気になったからな!!」
クランチュラが聞いて来ることの意味が分からない。けれどボクは、
「…ああ…。…お前も聞いたことがあるだろう?過去にいくつかの戦隊ヒーローがボク達のような地球を侵略しようとする組織に、しかも、一番最下級クラスの戦闘員に屈辱的な行為を受けて敗北し、その次に登場した戦隊ヒーローが大変だった、と言う話をな。…あれは全部、ボクがやってやったんだ。ボク達のような地球を侵略しようとする組織と手を組んで、戦隊ヒーローのうちの1人を倒す。そうすれば、あとは自然にやつらは敗北を喫してくれる、と言うわけさ!!」
と言うと、
「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と笑った。だが、すぐに元に戻って、
「それがどうしたと言うんだ、クランチュラ?」
と、真顔で聞いてやった。
「べッ、別に意味などないッ!!ただッ、聞いてみただけだッ!!」
不意に聞かれ、クランチュラは慌てたのか、そう言うと逃げるようにスタスタとその場を離れて行った。
「…フン…ッ!!…ッ!?」
その時、ボクははっとなった。
「…そう言えば…」
過去の戦隊ヒーローの中に、小学校の教師がいたな。その教師共は子供にとても慕われていたし、自分達が戦隊ヒーローであると言うことも明かしていた。
「…教師…と…、…子供…。…ショタ…、…責め…?」
その時、ボクの心の中におぞましい感覚が湧き上がったのが分かった。クランチュラが持っていたショタ責めとか言う本を読んだ時に芽生えた気持ちと一緒だった。
「…そうか…。…そう言うことか…!!」
ボクはニヤリと笑うと、
「…じゃあ、出かけようか…」
と言いながら目を見開き、首をグルリと回しながら舌を大きく出した。
「…過去の世界へ…!!」
舌なめずりをした時、ボクを真っ暗な闇が覆っていた。
「…このボクがまた、ちょっとだけ過去の歴史にスパイスを加えてあげるんだ…!!」
ドキドキと心臓が高鳴っている。今までに思い付かなかった考え、おぞましい考えがボクの頭の中でグルグルと渦巻いている。
「…信じている子供に裏切られ、屈辱に塗れる戦隊ヒーロー。…戦闘員の時とはまた違った感覚が味わえそうだ…!!」
そして、次の瞬間、
「…プッ!!…アハッ!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言う高らかな笑い声を残し、ボクはそこから姿を消していた。
「…相変わらず、意味が分からないヤツだな…」
物陰から、クランチュラが顔を覗かせていた。
「…歴史改変とか何とか…。…確かに、過去には敗北を喫した戦隊ヒーローもいたと聞いたことがある…。…だが、…本当にヨドンナの仕業なのか…?…過去の歴史なんて、変えてしまってはいけないものなのに。地球の歴史は、それまで作り上げて来た人間達のものなのに…!!」
う〜んと唸るクランチュラ。だがすぐに、
「んまッ、どうでもいいっか、そんなこと!!」
と明るく言ったかと思うと、
「さあって!!私は地球へ行って来ようッ!!今日もいろいろなBL本を買いに行って来るぞ〜!!」
と言うと、ヨドンナと同じように闇のゲートの中へ姿を消したのだった。