ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第4楽章 第0話

 

 ゴウウウウンンンン、ゴウウウウンンンン…。

 息も出来ないほどの暗雲が立ち込める世界。凶悪な思念と絶望が覆う闇世界。ヨドンヘイム。ボク達が住む世界だ。その一角に、ボク達がヨドン皇帝をお迎えする闇の間があった。

「…ったく…!!

 そのどんよりとした空気の中で、クランチュラが脚立の上に上り、ブツブツと呟いていた。

「…何で、私が外れた軍旗を直さなければならんのだッ!!…こッ、…こう言うことはッ、ベチャット達の仕事だろうがッ!!…もッ、…もしくはッ、ガルザにやらせればいいだろうッ!?

 脚立の一番上の段に上り、必死に腕を伸ばして外れた軍旗を留めようとしている。だが。

「…ぐ…ッ、…ぐぎぎ…ッッッッ!!!!

 両腕を伸ばしても、その軍旗に手が届かない。

「…こ…ッ、…こんの…ッ!!

 その両足がピーンと伸び、爪先で立っている。

「…んご…ッ、…おおおお…ッッッッ!!!!

 プルプルと震える両足。歯を食い縛るクランチュラの顔が更に真っ赤になっていた。

「おい、クランチュラッ!!

 その時、ボクはツカツカとクランチュラの元へ歩み寄った。

「次の地球侵略の計画はどうなっているッ!?ヨドン皇帝が待ちくたびれているぞッ!!

 その時だった。

「うるさいッ!!今ッ、私はそれどころではないのだッ!!

 頭上から降り注ぐ怒鳴り声。

「…は?」

「…みッ、…見れば分かるだろうッ!?…わッ、…私はヨドン軍旗を直すのに精一杯なのだああああッッッッ!!!!

「…はぁ?」

 思わず眉間に皺が寄った。

「…お前、…まだ直していたのか?…相変わらず、やることが遅いな…」

「何だとおおおおッッッッ!!!?

 頭上からうるさい怒鳴り声と共に汚らしい唾が飛んで来る。

「…おおおお、お前が私に言ったんじゃないかッ!!ヨドン軍旗をきちんとしろってなああああッッッッ!!!!

「…くっだらな…!!

 悪態を吐く。やはり、クランチュラはヨドン皇帝に言って消してもらっておくべきだっただろうか。

「たかが軍旗を直すだけじゃないか。それなのに、どれだけ時間がかかっていると言うんだ!?…やはり、お前は無能だ!!最強の邪面師を作ると言っておきながら、いっつもいっつもお気楽道楽なものしか作らない。それじゃあ、ヨドン皇帝の評価もダダ下がりと言うわけだ…!!

 そう言うと、ボクは腹いせに脚立の脚を思い切り蹴飛ばした。

 その時だった。

 俄かに脚立がグラグラと揺れ始めた。

「…え?」

「…お?…お?」

 爪先立ちをしていたクランチュラの体がグラグラと揺れる。

「…おい、クランチュラ?」

「…な…!!…んな…!?

 両手をパタパタとさせて懸命にバランスを取ろうとするが、脚立はグラグラと相変わらず前後左右へと揺れ続ける。

「…や、…やば…」

 クランチュラがそう言った時、その足がツルッと脚立の上で滑った。そして、

「…あ…」

 と言う声と共に、その両足が見事に開いた。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 鈍い音が聞こえたと同時に、

「へぐおおおおおおおおううううううううッッッッッッッッ!!!!!!!?

 と言う素っ頓狂な声と共に、クランチュラは派手な音を立てて床に転がり落ちていた。

「…」

「…?…クランチュラ?」

 床の上でピクリとも動かないクランチュラ。

「…おい、クランチュラ!!どうしたんだ!?

 ボクが声をかけた時、クランチュラが、

「…る…、…な…」

 と何かを呟いた。

「…何?」

 訝しげに尋ねると、

「…さ…、…わ…る…、…な…」

 と、顔をいつもよりも真っ赤にし、脂汗を浮かべて呻くように言った。

「どうしたと言うんだ、クランチュラぁ?」

 クランチュラは股の間を両手で押さえ、うんうんと唸っている。

 その時だった。

「ヨドンナ。それは男にしか分からない痛みだ」

「ガルザ?」

 ヨドン軍将軍・ガルザがやって来ると、静かに言った。そして、クランチュラに憐れみの視線を投げ掛けている。

「お前も男女の体の違いくらい、知っているだろう?あそこには男にとっての性器、いわゆる急所がある。それを強打したり、蹴られたり、殴られたりすると言うのは、死に値するもの。その余りの痛みは、男を暫く動けなくさせるのだ」

「…急所…?…強打…?…蹴る…?…殴る…?」

 その時、ボクの頭の中にはおぞましい考えが浮かんでいた。

「…フッ…、…フフフフ…ッッッッ!!!!

 体が熱い。目がキラキラと輝き、口元には不気味な笑みが広がる。

「…そうか…。…それを使えばいいんだ!!そうすれば、過去の歴史なんて簡単に改変出来るんだ…!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 次の瞬間、ボクは姿を消していた。

「…相変わらず、よく分からんヤツだ…」

 ガルザは大きく溜め息を吐くと、

「おい、クランチュラ!大丈夫か?」

 と、クランチュラの腰をとんとんと叩いてやる。

「…うう…ッ、…ううううんんんん…」

「…こりゃ、暫くはキラメイジャー共とも停戦、と言ったところか…」

 やれやれと首を振るガルザ。

「…うう…ッ、…ううううんんんん…」

 真っ赤な顔にポロポロと涙が零れている。

「…わ、…私の…、…大事な…、…ゴールデン…ボール…が…あ…ぁぁぁ…!!

「…潰れたのか?」

「潰れてなんかいないッ!!

 ガバッと起き上がるクランチュラ。でもすぐに、

「…うう…ッ、…ううううんんんん…」

 と唸り、体を折り曲げてしまった。

「…お…ッ、…おのれ…ぇ…ッ、…ヨドンナ…ぁ…ぁぁぁぁ…ッッッッ!!!!

 クランチュラはただ、うんうんと唸り続けているのだった。

 

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