ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第5楽章 第1話

 

 澱んだ空気。地下だと言うのにひんやりとした感覚はなく、どこまでも澱んだ空気が流れる空間。

 ギャッギャ!!ギャッギャ!!

 ウオオオオッッッッ!!!!ウオオオオッッッッ!!!!

 そこから聞こえて来る不気味な声。まるで、この世のもの全てに恨みを抱いているかのように怨念が籠っている低い呻き声。その声を発しているもの達はみんなおぞましい風貌をしており、まさに、そこが妖怪の世界であることを物語っていた。

 まぁ、そう言う空間が、ボクは大好きだけど。

 そんな空間の一角で、その世界に明らかに似つかわしくないような、いや、その世界で浮いているような姿をした男がいた。

「…」

 松明を携え、静かに立つその男。金色の短い髪を立たせ、革製の、そしてたくさんの鋭く尖った突起物が付いた服を身に纏っている。一見、よく見るロックバンドのメンバーと言ったかのような出で立ちだ。実際、空色に光るエレキギターを手にしていたし。

「…お久しぶり。元気してた?」

 その男の目の前には、太い鉄格子が張られ、その奥は暗闇が続いている。だが、確実に何かがいる空気を漂わせていた。

「実は、アンタ達をここから出してあげようと思って来たの」

 穏やかな口調で話す男。

 彼は貴公子ジュニア。人の心に潜む怒りや憎しみのマイナス情念が生み出したのが、今、ここにいる妖怪達。そんな妖怪達を束ねる首領・妖怪大魔王の子であり、妖怪世界にその人ありと謳われるほどのカリスマ性を持った人物。そのカリスマ性でバラバラだった妖怪達を纏め上げ、今、目の前にいるってわけ。

 そのカリスマ性は、その口調にも表われている。実際、その口調には明らかに威圧感があった。…いや、威圧感と言うよりは、恩着せがましいとも言えるだろうか。

「アンタ達にやってもらいたいことがあるの」

 それでも暗闇の奥の住人は動く気配がないのか、貴公子ジュニアは俄かに苛立ちを見せたかと思うと、

「姿くらい見せなさいよッ!!

 と言い、太い鉄格子を思い切り殴り付けた。

 ゴオオオオンンンン…!!

 鈍く低い音がその空間に響き渡ると、それまで不気味な声を上げていた妖怪達が一斉に黙った。

 …ゴソ…ッ、…ゴソゴソ…。

 すると、その闇の奥から何かが動く音が聞こえ、中のものがゆっくりと姿を現した。

 キラキラと光る空色。その場に似つかわしくないほどに明るい色の体を持つ男が数人。その空色の体の周りには、まるで某画家の作品のような表情の顔がいくつもあり、実際にその者の顔もそんな表情をしていた。

「…フンッ!!

 貴公子ジュニアは鼻で笑うと、

「相変わらず、男らしい体付きね」

 と言いながら、その男達・ドロドロのうち、1人のドロドロの体を鉄格子越しに撫で始めた。

「アンタ達も変わってるわね。ドロドロなんて、アタシ達の中では一番最下級なのよ?それなのに体を鍛えるって…。でも、そのせいでアンタ達は強靭過ぎて、他のドロドロと釣り合いが取れなかった。だから、理不尽なことにここに閉じ込められていたんだものね…」

 貴公子ジュニアの妖しい手付きが、目の前にいるドロドロの体を撫でる。そのドロドロの体はうっすらと筋肉が浮かび上がり、他のドロドロとは違うことを証明していた。両腕、両脚の筋肉はもとより、バックリと割れた腹部の筋肉が男らしさを物語っている。

 そして。

「…フフッ!!

 貴公子ジュニアが一瞬だけ乙女のような表情を浮かべると、右手を1人のドロドロのガッシリとした2本の足の付け根へと持って行った。そして、そこにあるふっくらとした膨らみを優しく包み込んだのだ。

「…」

 すると、ドロドロは一瞬だけピクリと体を跳ねらせたが、無言のまま、貴公子ジュニアにされるがままになっている。

「…相変わらず、いいモノを持ってるのね…」

 貴公子ジュニアの手の中で、ドロドロの男としての象徴であるペニスが急速に形作られて行く。

「アンタ達をここから出してあげるわ。…その代わり、条件があるの」

 そう言った貴公子ジュニアの目付きが厳しくなる。そして、

「妖怪の天敵、憎っくきカクレンジャーを倒すのよッ!!

 と言った時、

「…ッッッッ!!!!

 と、ペニスを触られていたドロドロがピクリと体を跳ねらせ、腰を折り曲げた。

「…あら、ごめんなさい。興奮して、手に力が入っちゃったわ…!!

 貴公子ジュニアはニヤニヤと笑っている。でもすぐに真顔に戻ると、

「アンタ達なら出来る。…やってくれるわね?」

 と言った。

「…」

 それでもドロドロ達は黙ったままだ。

「…フッ!!

 少しだけ溜め息を吐きながら笑う貴公子ジュニア。その目がどこか寂しげだ。

「…仕方ないわね。…アンタ達、妖怪だもの、話せないんだものね…」

「だったら、話せるようにしてあげようか?」

 その時、ボクはそう声をかけていた。すると貴公子ジュニアは、

「と言うか、さっきからアタシ達のこと、ずっと見てたでしょッ!?

 と、ボクをギラリと睨んで来た。

「と言うか、アンタ、誰よッ!?

「ボクかい?」

 ボクはニヤリと笑うと、

「ボクはヨドンナ。未来からこの世界へやって来たんだ」

 と言うと、

「キミにカクレンジャーを倒してもらいたくってね」

 と言った。すると貴公子ジュニアは、

「フンッ!!アンタみたいな小娘に言われなくてもやってやるわよッ!!

 と言い放った。

「…ふぅん…」

「何よッ!?何か、文句でもあんのッ!?

 貴公子ジュニアの目が大きく見開かれる。

「…さっきも言ったよね?ボクは未来から来た、って…」

 すると、貴公子ジュニアは、

「…アンタ…。…アンタが本っ当に未来から来たと言うのなら、アタシ達がどんな未来を辿るのか、教えなさいよッ!!

 と言い、手にしていた松明を突き出した。ボクはフフンと笑うと、

「よく言うだろう?滅びない悪はいない、って。それが答えさ」

 と言ってやった。

「…フッ、…フフ…ッ!!

 すると、貴公子ジュニアは肩を震わせ始めたかと思うと、

「アーッハッハッハッハ…!!

 と、俄かに大声で笑い始めた。

「言うわね、小娘のくせにッ!!でもいいわ、信じてあげるッ!!憎っくきカクレンジャーを倒せるのならッ!!…そして…」

 その時、貴公子ジュニアは男らしい体付きのドロドロ数人が入った牢の鍵を外した。

「出なさいッ!!

「…」

 その言葉に、無言で牢を出て来るドロドロ。そんなドロドロのうち、1人のドロドロに妖しく纏わり付く貴公子ジュニア。

「…アンタ…。…本当に、このドロドロを話せるようにしてくれるんでしょうね?」

「と言うか、カクレンジャーとか言うヤツらの誰かを、そこへ移せばいいんだろう?」

 すると、貴公子ジュニアはちょっと驚いたような表情を見せたが、フッと笑うと、

「…何よ…、…小娘のくせに…。…まるでアタシの心の中がお見通しのようね…」

 と、ニヤリと笑った。ボクもニヤリと笑うと、

「交渉成立、だね!!

 と言った。

「…ククク…!!

 貴公子ジュニアが低く笑い始め、

「行けッ、お前達ッ!!カクレンジャーを迷いの森へ誘き出すのよッッッッ!!!!

 と言ったその瞬間、

 ギュイイイイイイイインンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!ドゥクドゥクドゥクドゥクッッッッ!!!!

 と、手にしていたエレキギターを奏で始めた。

「ぁぁぁぁああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!おうおうッッッッ!!!!

 相変わらずけたたましい音。だがその音はガルザのそれよりも心地良く、ボクの耳には聞こえていた。

 

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