ヒーローが戦闘員に陵辱される抒情詩 第6楽章 第1話

 

 ギュウウウウウウウウンンンンンンンン、ギュウウウウウウウウンンンンンンンン…。

 全てが歪んで見える空間。その捻れた世界から姿を現した、クルクルと回り続ける要塞・デスネジロ。

「…」

 その薄暗がりの中で、1人の男性が黙ったまま、虚ろな視線を床に投げ掛けて立ち尽くしていた。白髪が目立ち、それ以外の部分を紫色に染めた初老の風貌。片手に杖を突き、重厚なコートのようなものを纏っている。それもまるで螺旋構造のようなデザインが施され、捻れていると言う印象を与えていた。

「…Dr.ヒネラー…」

 コツ、コツ…。

 ヒールの音を響かせて、1人の女性がDr.ヒネラーと呼ばれた男に近付いた。全身を鮮やかな水色を基調とした、これまた螺旋構造のデザインが施された露出度の高い服を身に纏っている。その頭部は帽子なのか、髪型なのか、その女性が明らかに人間ではないことを物語っていた。

「…シボレナか…」

 Dr.ヒネラーはちらりとシボレナと呼ばれたその女性を見ただけで、すぐに視線を床へと戻した。

「…ジャビウスT世の…、…お言葉は…?」

 何となく察しているのだろう。シボレナは言葉短くそう尋ねた。すると、Dr.ヒネラーは大きな溜め息を吐き、

「お怒りに決まっているであろう?」

 と言った。

「…いつまで経ってもメガレンジャーを倒せぬ。奴らはどこからともなく現れ、5人の個性を生かし、私が作り上げたネジレ獣を次々に倒して行く…」

 苦々しい顔で拳をブルブルと震わせる。

「最も忌々しいのは、その5人が力を合わせた時、その力は強大なものになる、と言うことだ!!我々にとっては最も忌み嫌う言葉、仲間だ!!

 …仲間…。

 その時、ボクの頭の中に嫌な言葉が浮かんでいた。

『…くっだらな…!!

 キラメイジャーとの戦いの中で、ボクはその言葉を聞き、虫唾が走った。どの時代にも、同じことが言えると言うことか…。

「クッソオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その時だった。

 ガッシャアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う派手な音と共に、

「ユガンデッ!!

 と言うシボレナの大きな声が聞こえた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 全身黒を基調としたロボット調の機械生命体・ユガンデ。その体のゴツゴツとしたところには、血管のように緑色のラインが施されている。その巨体な体がブルブルと震え、近くにあったものを辺り構わず撒き散らしていたのだ。

「…おのれ…ッ、…メガレンジャー…ッッッッ!!!!

「ユガンデッ!!落ち着けッ!!

 シボレナが怒鳴る。だがユガンデは、

「…メガレンジャーめ…!!…どこにいる…ッ!?…これでは、ジャビウスT世のお怒りも解けず、Dr.ヒネラーの世界征服が達成されぬではないか…ッ!!

 と言い、ゆっくりと立ち上がった。

「…せめて…ッ!!…せめて、奴らの正体さえ分かれば…ッ!!

「分かるよ?」

 その時、ボクはニヤニヤと笑みを浮かべながら、コツコツと言う足音を響かせて3人の前に姿を現した。

「…だッ、…誰だ…ッ!?

 シボレナが目を見開き、ボクを睨み付けて来る。ユガンデはDr.ヒネラーを守るように右腕を伸ばし、Dr.ヒネラーは驚いた表情でボクを見つめている。

「ボクはヨドンナ。簡単に言ってしまえば、未来からやって来たのさ。過去の歴史を変えるためにね」

「貴様ッ、何を言っているッ!?

 ユガンデがダークサンダーを振り上げ、ボクに斬りかかって来た。

「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 だが、ダークサンダーが斬ったものは空だった。

「アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!アハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!

 ボクはユガンデをバカにするかのように、高らかに笑ってみせる。

「…おおおおのおおおおれええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!!

 ブンッ!!ブウウウウンンンンッッッッ!!!!

 何度も何度もダークサンダーを振り翳すユガンデ。だが、そのたびに斬れるのは空ばかりだ。

「止めよッ、ユガンデッ!!

 遂にDr.ヒネラーのカミナリが落ちた。そして、

「…お前…。…幻影か…?」

 とボクに聞いて来た。その時、ボクはスゥッと姿を現すとニヤリと笑い、

「ボクは未来から来たと言っただろう?この姿も、幻のようにすることも出来れば、こうやって実体化することも出来るんだ」

 と言ってやった。そして、

「…ボクはメガレンジャーの正体を知っているんだけど…」

 と言った時、

「何ッ!?

 と、Dr.ヒネラー、シボレナ、ユガンデが同時に声を上げた。

「だからぁ。ボクは未来からやって来たんだ。だから、メガレンジャーが誰なのかも分かっているってわけ」

 ボクはそう言うと、

「これが何を意味しているか、分かるよね?」

 と言った。

「…お前…。…いや、ヨドンナとか言ったかな。…我々を助けてくれるのか?」

Dr.ヒネラーッ!?

 Dr.ヒネラーの言葉に、シボレナが思わず声を上げる。ボクはフンと鼻で笑うと、

「べっつにぃ?ボクはただ、過去の歴史を変えたいだけだよ。それよりも、ボクはDr.ヒネラー、貴方の心の中も興味あるけれどね!!

「貴様ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 カッとなったシボレナがボクの方へ向かって来る。いや、来ようとした。そんなシボレナの腕を、Dr.ヒネラーの腕が掴んでいたんだ。

「…どッ、…Dr.ヒネラーッ!?

「…」

 けれど、Dr.ヒネラーはじっとボクを見つめている。ボクも思わず見つめ返す。

「…フッ!!

 不意に、Dr.ヒネラーが笑った。そして、

「…いいだろう。…お前に協力しよう。…その、…過去の歴史、いや、我々にはこの瞬間を変える、と言うことにな…!!

 と言った。

「さすがだね。…じゃあ…」

 ボクはその時、ゴソゴソと何かを取り出した。そして、それをDr.ヒネラーに差し出したんだ。

「…これは?」

 驚いてボクを見るDr.ヒネラー。その手に持たれていたもの。棒状の、先端部分は丸みを帯び、柄の部分は電極が付いている。

「電動マッサージ器と言うものらしいんだ。コイツを貴方の力によって改造して欲しいんだけど」

「…こんなものを…?」

 そう言った時、Dr.ヒネラーがニヤリと笑った。

「…なるほどな…!!

「…Dr.ヒネラー…?」

 シボレナとユガンデがきょとんとしている。

「…こいつを改造し、メガレンジャーを襲う、と?…メガレッドか、メガブラックか、メガブルーか…」

「そ。ご名答!!

 ボクはそう言うと、

「じゃあ、暫くしたら取りに来るから。頼んだよ?」

 と言って姿を消した。

「…ククク…!!

「…Dr.ヒネラー?」

「いいのですかッ!?あんな小娘を簡単に信じて…!?

 心配そうに見つめるシボレナと、呼吸を荒くして言うユガンデ。だが、Dr.ヒネラーの目はギラギラと輝いている。

「…これは、一気に形勢逆転出来るやもしれぬ…」

「…え?」

「…メガレンジャーを一気に崩壊させるだけではなく…、…ジャビウスT世の命をも奪える…!!

 

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