女王の妖魔術U 第1話

 

「…目覚めよ…」

 ぼんやりとした意識の中、誰かが呼ぶ声が聞こえた。

「…目覚めよ…、…過去の私よ…」

「…誰…、…じゃ…?」

 一寸先も見えない真っ暗闇の中を、コツコツと言う足音を響かせて歩いている。その頭には骨のように鋭い突起物が上と左右に広がった大きな冠のようなものを被っている。

「…ここは…、…どこじゃ…?」

 胸元を大きく開いた黒を基調とした服に身を包んでいる。そして、その両肩には黒いマントを懸けている。

「…そこはお前の意識の中じゃ…」

「…私の…、…意識…?」

「…ヘドリアン女王よ…。…過去の私よ…。…お前達ベーダー一族は、滅びる。お前達が今戦っているデンジマンの連中になぁ…」

「…な、…何じゃと!?

 ヘドリアン女王と呼ばれたその女性は普段から大きな瞳を更に大きく見開き、素っ頓狂な声を上げた。そして、

「…だッ、…誰じゃッ、私の意識の中に入り込んで来るやつはッ!?…姿を見せいッ、姿をオオオオッッッッ!!!!

 と叫んでいた。

 その時だった。

 パアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!

 不意に目の前が眩しく光ったかと思うと、そこから1人の女性が姿を現した。その者の姿を見た途端、ヘドリアンは、

「…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と大いに驚き、目を見開いて言葉を失った。

 どう見ても見紛うはずがない。どう見ても自分だ。だが、外見が大きく異なってしまっている。

 まず、頭。骨のような、角のようなあしらいの大きな冠がない。それよりも軽い丸みを帯びたものが頭に纏わり付いている。それから、体。彼女のボディラインを浮き立たせるような衣装ではなく、どこまでも冷たいただの服のように思えるようなその姿。そして、唇と爪。凍り付くような色をしている。

「…わ…、…私…!?

 ヘドリアンが呆然としながらそう言うと、姿を現した者がニッコリと微笑み、コクンと頷いた。

「…私は…、…ヘドリアン…。…そう遠くない未来のお前だ…」

「…未来の…、…私…?」

 そう言うと、未来のヘドリアンはコクンと頷く。

「…デンジマンによってベーダー一族が滅ぼされた後、私は北極の海で深い眠りに就いていた。北極の氷河の中で氷漬けになって眠っていた私を、機械帝国ブラックマグマの支配者・ヘルサターンが蘇えらせた。こうして、機械人間としてなぁ…」

「…機械…、…人間…?」

「まぁ、お前がこれを信じないのも無理はない。じゃが、これがお前のそう遠くない未来の姿なのだ」

「…何ゆえ…、…何ゆえ、そのような姿に…?」

 過去のヘドリアンは未だに状況が理解出来ていないようだ。すると、未来のヘドリアンは、

「決まっておるではないか。復讐のためじゃ」

 と言った。

「…私はやらねばならぬのだ…!!…我々を…、…ベーダー一族を滅ぼした人間どもに復讐を…!!

「…そのために…、…私は蘇った、と…?」

「じゃが、お前のそう遠くない未来、つまり、私が蘇った世界ではデンジマンと同じように、太陽戦隊サンバルカンなる者が我々ブラックマグマの地球侵略を阻止しようとしておる。それに手こずっておるのじゃ」

「…何と…」

 過去のヘドリアンは言葉を失う。

「…デンジマン以外にも、我々に刃向かうものがいたと言うのか…」

「そうじゃ。しかも、地球の者共は我々ベーダー一族が滅んだ後にも、同じような脅威が現れることを見越したかのように、地球平和守備隊を結成し、その中から3人の若者を集め、サンバルカンを結成したのじゃ」

 すると、未来のヘドリアンはニヤリと口元を歪め、

「そこでじゃ。そなたの世界に、刺客を送り込んだ」

 と言った。

「…刺客…?」

「太陽戦隊サンバルカンの1人、バルパンサー・豹朝夫じゃ。その者を、過去の私の世界へ送り込んでおいた」

「まッ、待てッ!!…そッ、…そんなッ、太陽戦隊の者を送り込むなど、どう言うつもりなのじゃッ!?太陽戦隊も、我々、ベーダー一族の敵になるのではないのかッ!?

「…ンンッフフフフ…!!…慌てるな、ヘドリアン」

 いや、ヘドリアンはお前自身もだろうと言いかけて、過去のヘドリアンは言葉をつぐむ。未来のヘドリアンは上機嫌で、

「私の妖魔術によって、バルパンサーはブラックマグマの刺客となった。そして、バルパンサーはデンジイエロー・黄山純の学生時代の後輩にあたると言うのじゃ。…これが、何を意味しているか、分かるか?」

「…ンンッフフフフ…!!

 未来のヘドリアンの言葉にピンと来たのか、過去のヘドリアンが目をギラリと光らせて意地悪く笑った。

「…なるほどな…。…デンジマンを中から分断する…、…と言うことじゃな?」

「さすがは私じゃ!!それでベーダー一族を滅ぼした人間どもに復讐が出来る…」

「…ん?」

 その時、過去のヘドリアンが何かを思い付いたかのように、怪訝そうな表情を浮かべた。

「…未来の私よ…」

「…何じゃ?」

「…もし…。…もし、デンジマンを倒したとした場合…、…それは、歴史が変わることを意味する…。…それはつまり…、…そなたが消えてしまうかもしれぬと言うこと、いや、確実に消えると言うことを意味してしまうのではないのか…?」

「それがどうしたと言うのじゃ?」

 心配そうな表情の過去のヘドリアンに対し、あっけらかんとした表情の未来のヘドリアン。

「私の大願はベーダー一族がこの世界を支配することじゃ。ベーダー一族が滅びた後にのこのこと出て来るような、しかも機械生命体によって支配されるブラックマグマなど、どうでも良いわ!!私の大願は、あくまでも私自身が、いや、ベーダー一族がこの世界を支配することなのじゃ!!

 その時だった。

 パアアアアアアアア…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 不意に眩い光が未来のヘドリアンを包み込んだ。

「…さぁ、行け、過去の私よッ!!目を覚ましてみるが良い。そこにバルパンサーがいるはずじゃ…!!

 

「…ッッッッ!!!!

 どんよりと澱んだ空気の中で、ヘドリアン女王は目を覚ました。

「…夢…?」

 一言では言いがたい、不思議な夢。

「…予知夢…?…ある意味では、予知夢に近いのやも…」

 その時だった。

「…ひ…ッ!!

 思わず叫びそうになっていた。だが、その瞬間、ヘドリアンは口を塞いでいた。そして、暫くすると、ゆっくりと大きく深呼吸をし、目の前にいる者に声をかけた。

「…そなたが…、…バルパンサー…、…豹…、…朝夫…、…とか言う者か?」

 ヘドリアンの寝室に、光沢のある鮮やかな黄色のスーツを身に纏った男、バルパンサー・豹朝夫が静かに立っていた。豹をあしらったマスク、スーツは黄色を基調とし、両肩から臍の部分にかけて白いVラインが入っている。

「…はい…、…女王様…」

 バルパンサーのマスク越しに見える豹の瞳は虚ろだが、どこか禍々しい気配を漂わせている。

「…僕に…、…お任せ下さい…」

 そう言った時、その目が大きく見開かれ、ギラリと真っ赤に輝いた。

「…僕が…、…デンジイエローを…、…倒します…ッ!!

 

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