女王の妖魔術U 第3話
「ひょひょおおおおッッッッ!!!!ごちそうさんでしたああああッッッッ!!!!」
「…おい、豹。口の周りにカレーがいっぱい付いてるぞ?」
「…え?…あ…」
部屋の中にカレーのいい香りが漂っている。熱々の湯気を立てていたご飯と一緒にカレーをたっぷりとかけ、物凄い勢いで食べた豹は今、満足気に腹を擦り、黄山に突っ込まれて口の周りのカレーをティッシュで拭き取っていた。
「やっぱ、先輩が作ってくれるカレーが一番美味しいなあッ!!スパイスも物凄くいい感じに入っているし、辛さもそれなりにあって…」
「そう言ってくれると、オレも作った甲斐があるよ」
ニコニコしながら言う黄山。すると豹はムスッとした表情を浮かべると、
「スナックサファリのカレーを殆ど毎日食べてるんですけどね、マスターの作るカレーは確かに美味しいんだけど、いまいち、こう、スパイスが足らないって言うか。美佐ちゃん…、…あ、スナックサファリのマスターの娘さんなんですけどね、美佐ちゃんの作るカレーはシャレにもならないくらい“辛れぇ”カレーで…。…見習いコックの助八さんなんて問題外ッ!!不味いったらありゃしないッ!!」
「…スナック…、…サファリ…?」
そんな名前の店があっただろうか。デンジマンとして毎日のように街の中をパトロールしているのに、そんな名前のスナックがあったかは思い出せない。だが、豹がでたらめを言うとは思えない。
(…オレもまだまだだな…)
フッと笑みが零れていた。
「…先輩?」
そんな黄山を豹が怪訝そうに見つめている。
「…あ…。…悪い悪い。考え事をしていただけだよ」
黄山はそう言うと、
「コーヒー、淹れようか?」
と豹に尋ねる。すると豹は目を輝かせ、
「ひょひょおおおおッッッッ!!!!先輩の淹れるコーヒーも美味いんすよねええええッッッッ!!!!」
と素っ頓狂な声を上げた。黄山はニッコリと微笑むと、
「大袈裟だよ、豹。…ちょっと待ってな」
そう言うと、黄山は2人でいたその部屋を出て行った。
「馬鹿者ッ!!ヘマをしおってッ!!」
角々しい角が付いた冠をかぶったヘドリアンが水晶越しに怒り狂っている。
「この時代にスナックサファリなど、存在せぬわッ!!」
「ンンッフフフフ…!!」
その横で、丸い冠をかぶったヘドリアンが低い声を上げて笑っている。
「未来の私よ。このバルパンサーとか言うヤツ、本当に大丈夫なのか?」
眉を顰めてそう言うヘドリアンに対し、
「そう心配せずとも良い、過去の私よ。確かに、こやつはおっちょこちょいなところがある。じゃが、この人懐っこさが凶器になるのじゃ。それに、こやつは既に我々の手先。確実に任務を遂行するであろう。私の水晶にもそのように出ておる」
と言うと、
「…さぁ、バルパンサーよ。そなたの仕事の時間じゃ。…デンジイエローの…」
と言いながらその目をギラリと光らせた。口元に不気味な笑みを浮かべて…。
「…デンジイエローのエネルギーを奪うのじゃ…!!」
その夜、豹は黄山の部屋に泊まることになった。
「久しぶりに外泊許可が出たんで、先輩と久しぶりに過ごしたいなぁ、なんて!!」
「ああ。別に構わないよ?」
久しぶりに再会した後輩。そんな後輩が犬のように尻尾をブンブンと振り、キラキラと目を輝かせて自分を見つめている。むげに断る理由もなかったし、デンジマンのメンバーも喜んで送り出してくれた。もちろん、ベーダー怪物が現れれば、話は別だが。
「…ククク…!!」
そんなことを見透かしているかのように、角々しい角が付いた冠をかぶったヘドリアンがニヤニヤと笑っている。
「安心するが良い、デンジイエロー。お前のエネルギーを奪うのに、ベーダー怪物を出すわけがなかろうが。ベーダー怪物は、そのバルパンサーとか言うヤツの心の中におるのじゃからなぁ、アァッハハハハハハハハ…!!」
「何?」
すると、今度は丸い冠をかぶったヘドリアンが驚いて声を上げた。
「…そなた…。…ベーダー怪物をバルパンサーに仕込んだと申すか?」
「そうではない」
ニヤニヤと笑う過去のヘドリアン。
「…ベーダー怪物は…。…そう言う禍々しい感情と言うものは誰の心の中にもある、と言うことじゃ…!!」
しんと静まり返った部屋。物音1つしない部屋の中で、黄山と豹は布団を並べて眠っている。
「…ッ!!」
その時、豹の目がカッと見開かれた。そして、その頭がゆっくりと横へ動き、黄山が眠っている姿を確認する。
「…先…輩…」
声をかけてみる。だが、黄山はすぅすぅと寝息を立てて、一定のリズムで胸を上下に動かしている。
「…先輩…」
少しだけ体を起こすと、豹は黄山をもう一度呼んだ。だが、黄山は一向に目を覚まそうとしない。
「…フッ!!」
その時、豹が笑みを漏らした。しかも、その口元が不気味に歪み、その目がギラギラと輝いていた。
「…バル…、…パンサー…!!」
その瞬間、豹の体が光ると豹は光沢のある鮮やかな黄色のバルパンサーのスーツを身に纏っていた。その頭部を覆うマスクは装着されておらず、ニヤニヤと不気味に笑う豹の顔が月影に浮かんでいた。
「…呑気なもんですね、先輩…。…オレが睡眠薬を入れたコーヒーを飲み干してしまうんですから…!!」
そうなのだ。
黄山が淹れてくれたコーヒー。その黄山の分に、豹は隙を見て睡眠薬を入れたのだ。しかも、それはブラックマグマによって開発された、一度眠りに就くと深く深く眠り込んでしまい、余程のことがない限り目を覚まさないほど強力なものだったのだ。
「…先輩…」
豹の右手は自身の2本の足の付け根部分で大きく勃起している、豹の男としての象徴であるペニスを揉みしだいている。
「…先輩も、デンジイエローに変身して下さいよ…!!」
豹がそう言った時だった。
不意に黄山の体が光ったかと思うと、黄山の体は光沢のある鮮やかな黄色のデンジイエローのスーツを身に纏っていた。その頭部は豹と同じようにマスクを装着していなかった。
「…先輩…」
黄山にゆっくりと近付く豹。その顔に自身の顔を近付けて行く。
「…いい夢を見させてあげますからね、先輩…!!」
そう言うと、豹は唇をにゅっと突き出し、ゆっくりと黄山の唇に重ね合わせた。
「「おおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
それを見ていた2人のヘドリアンが歓喜の声を上げる。
「とうとうバルパンサーが動きおった!!めくるめく大人の世界じゃ!!アァッハハハハハハハハ…!!」
「そなたもなかなか悪趣味じゃな、ンンッフフフフ…!!」
「良いではないか!!気付かぬうちにエネルギーを奪われて行くデンジイエロー。これほど胸がせいせいすることはないわッ!!アァッハハハハハハハハ…!!」
2人のヘドリアンは目をギラギラと輝かせ、頬を赤らめて笑い合ったのだった。