女王の妖魔術U 第10話
更に数日が経った。
その間、豹は黄山の部屋に寝泊まりすることはなく、地球平和守備隊に戻っていた。だが、
『…よ…。…バルパンサーよ…。…そろそろ、時間じゃ…』
と言うヘドリアンの低い声が頭の中に響いた時、豹の目がギラリと真っ赤に輝いた。そして、物陰に隠れると、
「…バル…、…パンサー…!!」
と小さく声を上げ、その体を光らせた。その時、バルパンサーの光沢のある鮮やかな黄色のスーツを身に纏い、頭部も豹のデザインが施されているマスクを被っていた。そして、
『行け、バルパンサー。今日もデンジイエローのエネルギーを奪ってやるのじゃ…!!』
と言うヘドリアンの声を聞いた時、
「…はい…。…女王様…」
と言うと、豹は飛び上がり、ヒョウのように素早くその場を後にしていた。
「…ククク…。…随分といい感じになって来たようじゃな…!!」
未来のヘドリアンがニヤニヤと笑うと、
「当たり前じゃ!!黄山の夢の中にユメバクラーを送り込んだのじゃからな!!」
と、過去のヘドリアンが満足げに頷く。
「ユメバクラーの見せる夢はただの夢ではない。その夢の中で起こっていることが、実際に現実となって現れておるのじゃ。つまり、デンジイエローが夢の中でよろしくやっていることは、現実の世界ではバルパンサーとよろしくやっていることになる。そして、夢の中でデンジイエローがエネルギーを放出すれば、現実の世界でもエネルギーを放出する。つまり、1度の絶頂のはずが、2度も絶頂を迎えておることになるのじゃ!!」
「そう言えば、聞いたことがあるぞ?男が1度の絶頂を迎える時、その体力は100mを全力で走った時のエネルギー消費量と同じじゃと…」
未来のヘドリアンがそう言うと、
「それは、エネルギーの消費量が多い、と言うことか?」
と、過去のヘドリアンが尋ねる。すると、未来のヘドリアンは、
「さぁ?」
と首を傾げる。だがすぐにお互いを見つめ、
「「…アァッハハハハハハハハ…!!」」
と大声で笑ったのだった。
「…どッ、どうしたんですかッ、先輩ッ!?」
ヘドリアンの声が聞こえて来るのは決まって夕方。地球平和守備隊の任務を終えてからだった。だから、他の隊員に怪しまれることなく、豹は黄山のもとへやって来ることが出来たのだ。
「…あ〜…」
その時、黄山はぼんやりとし、虚ろな視線を投げ掛けていた。更に、その目の下には大きなクマが出来ており、寝不足のような様相を見せていたのだ。
それが、豹とユメバクラーの仕業によってなど、今の黄山には知るはずがなかった。
「…最近、何だか、疲れやすくてな…」
「…そ、…そう…なん…です…か…?」
何だか、頬がげっそりと痩せたような気がする。
「…寝ても寝ても、寝足りないんだよ。…それよりも…」
その瞬間、黄山が俄かに顔を真っ赤にした。
「…せ、…先輩…?」
黄山が顔を両手で覆い、何かを言いたそうに、だが、言い辛そうにしている。
「…オレ…。…オレぇ…!!…発情期なのかなぁッ!?」
「…は?」
豹がきょとんとするのも無理はない。
「…オレ…。…毎晩、夢の中で女の子とよろしくやってるんだよ…!!」
「…え?」
豹は眉を顰めると、
「…よろしく…って…?」
と聞き返した。その途端、黄山は顔を覆っていた両手を外したかと思うと、
「だぁかぁらああああッッッッ!!!!」
と言うと、豹の両肩に手を掛けた。
「…ひょッ、…ひょひょおおおおッッッッ!!!?」
不意を突かれ、豹は背後にひっくり返る。
「…せッ、…先輩…ッ!?」
まるで押し倒されたような態勢になっている2人。豹の真上に、黄山の真っ赤な顔がある。よく見ると、目が潤んでいる。
「…オレ…!!…夢の中で、女の子とエッチなことをしているんだ!!…そして、…その夢の中で絶頂に達しているんだ。…夢の中なのに…、…朝、目が覚めると凄く体が重くて…」
「せッ、先輩ッ!?」
今度は豹が顔を真っ赤にする番だった。
「…せッ、先輩のアソコがッ!!」
真っ青なジーパンのその部分が大きく盛り上がっている。黄山は溜め息を吐くと、
「…そうなんだよ…」
と言い、豹の横にどっかりと腰を下ろした。そして、それをジーパン越しに触る。
「…常にこの状態だから、ベーダーと戦う時に大変で大変で…。…他のやつらからも変な目で見られるし…」
「ひょひょ…」
豹は息を飲み込む。でもすぐにニッコリとすると、
「大丈夫ですよぉ、先輩ッ!!そんなの、一時的ですって!!」
と明るい声を出した。
「誰だって、そう言う時期はあるものですよッ!!2、3日もすれば、収まるんじゃないですか?あ!!何なら先輩ッ、オレがご奉仕しましょうか?ひょひょひょひょ…」
豹がそう言った時、黄山はじっと豹を見つめた。
「…ひょ?」
「…あ、…いや…」
黄山が顔を赤らめ、視線を逸らす。
「…一瞬、…お前でもいいかなって思ったから…」
「ええええええええッッッッッッッッ!!!!!!!?」
豹が大きな声で叫ぶ。
「叫ぶなよッ!!オレだってそんなふうに思うのは物凄く恥ずかしいんだからッ!!」
黄山も釣られるように大声で叫ぶ。
「…せ、…先輩…。…相当、重症ですね…」
「…うん…」
項垂れる黄山。
「…フフッ!!」
その時、豹は膝立ちで歩き出すと、黄山の背後へ回った。そして、背後から黄山を抱くようにしたのだ。
「なッ、何だよッ、豹ッ!?」
これには黄山も慌てる。だが豹は、
「…いいですよ…」
と言った。
「…え?」
黄山が体を強張らせる。
「…先輩がして欲しいのなら、オレがしてあげますよ…!!」
「…豹…?」
後ろを向こうとすると、豹が黄山の体をギュッと抱き締めた。
「…オッ、…オレだって恥ずかしいんですよッ!!」
「…豹…」
「…でも…。…大好きな先輩だから…、…憧れの…、…先輩…だから…!!」
そう言うと、豹は顔を赤らめ、はにかんだ笑顔を見せながらも黄山の目の前に座った。
「…いい…のか…?」
黄山がそう言うと、
「…はい…」
と、豹はコクンと頷いたのだった。