女王の妖魔術U 第16話
「…もう1回は、オレが奪っていたんですよ…!!」
目を真っ赤に輝かせた豹がそう言った時、それでも黄山は、
「…え?」
とぽかんとした表情をしていた。そして、その視線が宙を泳ぎ、
「…ど、…どう言う…、…こと…だ…?」
とぎこちない笑みを浮かべた。
「フフッ!!先輩、随分とぐっすりと眠ってましたからね。オレが先輩のおチンポをどんなに刺激しても、先輩は全く目を覚まさなかったんですよ!!」
「…ひょ、…豹が…、…オレの…を…?」
黄山の顔がみるみるうちに真っ赤になって行く。そんな黄山を豹はフンと鼻で笑うと、
「別に恥ずかしがることないでしょ?さっきだって、先輩のおチンポをいっぱい気持ち良くしてあげたんですから。ただ、それは先輩に頼まれてするよりも前から、ずっとオレがやってあげていた、って言うだけですよッ!!」
その時、豹は小さく折りたたまれた白い包み紙を黄山に見せるように自身の目の前へかざした。
「…ま…、…まさ…か…!?」
「そう!!そのまさかですッ!!」
「…ククク…!!」
豹の背後にはベーダー怪物・ユメバクラーがいる。そんなユメバクラーに対して、豹は一向に立ち向かおうとしない。
「こやつはバルパンサーであって、今のバルパンサーではない」
「…は?」
ユメバクラーが発した言葉に、黄山は意味不明と言った表情を見せる。
「そそ。つまり、オレは今、この時代の人間じゃないんですよ!!実は、1年後の未来からやって来たんですッ!!」
「…お、…お前まで、…何を…?」
「だからぁ。オレはヘドリアン女王様によって未来から送られて来た豹朝夫なんですよッ!!」
「…?」
ニヤニヤと不気味に笑う豹。その豹が言った言葉の中に、黄山達デンジマンが敵対するベーダー一族の女王・ヘドリアン女王を「様」付けで呼んでいた。
「先輩も知っているように、オレは地球平和守備隊の中で特殊に組まれたチーム・サンバルカンの1人、バルパンサーとしてこの世界を守っていたんですよ、1年後の未来で。ベーダー一族は、先輩達が滅ぼすんです。でも、ヘドリアン女王だけ取り逃がしちゃうんですよぉ、先輩たちはぁ」
ニヤニヤと笑う豹の目がギラリと光る。
「そして、その後、北極の氷の中に作られた機械生命体の帝国・ブラックマグマが世界を支配しようとしたんです。そこに登場したのがオレ達サンバルカンってわけなんです。でも、オレら、ブラックマグマに負けちゃったんですよにぃッ!!オレはヘドリアン女王様のこの世界を支配する手助けをしてるってわけなんですよにぃッ!!」
「…止めろ…!!」
「…え?」
ブルブルと体を震わせる黄山を見て、豹は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
「…お前…、…何を言ってるんだ…?」
顔を真っ赤にし、何とも言えない表情で豹を見上げている黄山。だが、その目は確かに豹を睨み付けていた。
「…オレ達が、ベーダー一族を倒した?…その後、ブラックマグマとか言う機械生命体の帝国が現れた?…そして、お前はヘドリアン女王の下僕に成り下がった?…はッ!!何を言ってるんだ…!!」
その時だった。
『信じようが信じまいが、それはそなたの勝手じゃ。じゃが、バルパンサーの言っていることは本当のことなのじゃ!!』
聞き慣れた、皺枯れた女性の声が聞こえ、黄山は思わず体を強張らせた。そして、部屋の隅にスゥッと現れた2人の女性を見て呆然となった。
「…え?」
「どうしたのじゃ、デンジイエロー?まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしておるではないか?ンンッフフフフ…!!」
骨のように鋭い突起物が上と左右に広がった大きな冠のようなものを被った過去のヘドリアン女王は見覚えがあった。だが、その横に佇み、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている同じ顔を持つ者は見覚えがない。すると、軽い丸みを帯びたものが頭に纏わり付いている未来のヘドリアン女王が、
「無理もなかろう」
と、静かに話し始めた。
「バルパンサーが言った通り、我々ベーダー一族はお前達によって滅ぼされた。…いや、…正確にはバンリキ魔王によって滅ぼされたと言っても過言ではなかろう。そして、私は北極の冷たい氷の下で眠りに就いた。そんな私を黒い太陽神が、ブラックマグマの総統・ヘルサターンが機械化手術によって蘇らせてくれたのじゃ。それが、この姿なのじゃ!!」
と言うと、不意に怒りと憎悪に満ちた表情へと変わり、
「私は復讐を誓ったのじゃ!!我らベーダー一族を滅ぼしたデンジ星人とデンジマン達に復讐をしてやると!!そして、私は黒い太陽神によって機械生命体として蘇った。ブラックマグマの女王として、世界を支配してやるのじゃと!!…じゃが…」
と言うと、そこでニヤリと笑った。
「…お前達デンジマンがこの世界を守ったように、ここにいるバルパンサーを含むサンバルカンが我々ブラックマグマの世界征服を阻止しようとしたのじゃ。じゃから、私の妖魔術でこやつを操り、ここへ連れて来たのじゃ。過去を変えるためにな!!」
「…過去を…、…変える…?」
黄山がそう言うと、今度は過去のヘドリアンが、
「そうじゃ。お前達を倒すためにな!!」
と言った。
「聞けば、お前とこのバルパンサーとやらは学生時代の先輩後輩関係だったそうじゃな?しかも、お互いに相当仲が良かったと見える」
すると、過去のヘドリアンは意地悪くニヤリと笑って、
「そなたの性器を、このバルパンサーに触らせるのじゃからのう。…よくもまぁ、そのようなものを同じ男に触らせることが出来たものじゃ。…アァッハハハハハハハハ…!!」
と笑い出した。
「止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
顔を真っ赤にした黄山が思わず叫ぶ。だが、
「いいじゃないですか、先輩ぃ。だって、先輩、気持ち良くなってひょひょおって言ってたじゃないですかぁ!!ひょひょひょひょ…!!」
と、豹までもが言い放ったのだ。
「…お…、…ま…え…ええええ…ッッッッ!!!!」
カッとなった黄山が豹に掴みかかろうとする。だが、突然、視界がぐにゃりと歪んだかと思うと、
「…うぐッ!?…あ…あ…あ…あ…!!」
と、何とも情けない声を上げてその場に蹲ってしまったのだ。
「アァッハハハハハハハハハ…!!ユメバクラーに大量のエネルギーを奪われ、もはや、立つことも出来ぬようじゃなあッ!!アハハハハハハハハ…!!」
過去のヘドリアンが勝ち誇ったように笑う。すると、今度はユメバクラーが、
「デンジイエローよ。お前が女とよろしくやっている夢は、オレ様が見せた夢なのだ」
と言い出した。
「お前は、女とよろしくやっている夢の中で絶頂に達した。それはオレ様が仕組んだことで、たとえ、それが夢だったとしても、お前のそこから溢れ出るエネルギーは夢の中でもお前から奪われていたと言うわけなのだよ。そして、この容器の中へ現実のものとなって溜まって行ったのだ!!」
そう言うユメバクラーの両手の中には、濃白色な強烈な臭いを放つ淫猥な液体がなみなみと入ったガラスの容器があった。
「そしてッ、現実の世界ではオレが先輩のおチンポを刺激して、絶頂に導いて、この中に溜めて行っていたんですよ。これで分かったでしょ?だから、先輩は一度に2回もエネルギーを奪われた計算になるんですよにぃッ!!」
豹が嬉しそうに言う。
「…く…ッ!!」
科学的に考えられない。ヘドリアンだけではなく、豹も1年後の未来から来ているなんて。
それだけじゃない。夢の中で絶頂に達したのが、実際に絶頂に達していたことになるなんて。そして、それと同時に現実世界でも絶頂に達していたなんて。
「…そろそろ良かろう。…デンジイエロー、お前のエネルギーを全て奪い、デンジマンを倒してやるから覚悟するが良い。…とは言え、ここではちと狭苦しいのう…」
そう言うと、未来のヘドリアンがスゥッと両手を前へ突き出した。そして、
「…ああああああああ…」
と、低く不気味な声で呪文を唱え始めたのだ。
「ベーダー妖魔術マンダラ、ベーダー妖魔術マンダラァァァァ…」
その時だった。
ヘドリアンの後ろに、トンネル状に空間の入口が出来たのだ。
「…な…、…ん…だ…!?」
「さあッ、先輩ッ!!あの中でゆっくりと愛し合いましょッ!!ひょひょひょひょ…!!」
豹が黄山の腕を掴み、物凄い勢いで引き摺って行く。
「…やッ、…止めろ…ッ!!…止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!豹オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「ひょひょひょひょ…!!」
だが、豹は甲高い笑い声を上げながら、黄山の体を引き摺り、その空間の中へ入って行く。
「…ぁぁぁぁ…。…うぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
黄山の悲鳴が響き渡った時、その部屋には誰もいなくなっていた。