DON脳寺の変 第11話
「…はぁぁ…」
他のメンバーと別れ、1人になったキジブラザー・雉野つよしは重い溜め息を吐いていた。
「…どうしたらいいんだろう…」
「ヒトツ鬼になった者達を、オレ達は救うと言う目的がある!!人間が欲望を大きくさせる限り、鬼が取り憑き、暴走した者はヒトツ鬼になる。その鬼を救うのが、オレ達の使命だ!!」
喫茶店どんぶらでドンモモタロウ・桃井タロウが言った言葉。
(…いや、…それをアンタが言うか…?)
本当はそう言いたかった。
前にヒトツ鬼やアノーニ達と戦っていた時、タロウの背後に見えていた禍々しいもの。
「お前にも見えたのか?あの赤いのの背後に取り憑いている鬼を」
呆然としていた雉野にソノイが言った言葉。
「…このままでは…、…アイツも…」
このままでは、タロウも、もしかしたらソノイ達脳人に消去されてしまう。
(…そもそも、…桃井さんの欲望って…?)
考え込む。
(ヒトツ鬼になった人達を救うことが、あの人の欲望…?…たったそれだけで、あの人が鬼になると言うのか…?)
人々を救いたいと言う思いだけなのに、それなのに、タロウが鬼になると言うのだろうか。
(…でも…)
その思いが強ければ強いほど、それはタロウが暴走して行くことを意味する。人々を救いたいために懸命に働き、自らを追い詰めてその欲望に狂って行ったヒトツ鬼・動物鬼のように。
(…だとしたら…)
そのうち、タロウの欲望が狂って行き、ヒトツ鬼になった人々を救うだけじゃなく、それ以上の、それこそ、全ての人々を救済するために自身を神とか言い出すんじゃないだろうか。
「…やっばぁ…ッッッッ!!!!」
メガネの奥の瞳を大きく見開き、顔を引き攣らせる雉野。
その時だった。
「ヒャーハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」
甲高い笑い声が聞こえた途端、雉野の目の前に顔がぬっと突き出された。
「のわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
悲鳴に近い声を上げて、背後へ引っ繰り返った。
「…」
すると、目の前の男・ソノザは無表情で雉野を見下ろしている。
「…ソッ、…ソノ…ザ…」
派手に打ち付けたお尻を擦りながら、雉野はヨロヨロと立ち上がると、
「…いッ、…いきなり現れて…、…び、…びっくりするだろう…ッ!?」
と大声を上げた。だが、ソノザは、
「…フン…」
と鼻で笑うと、
「ちょっと大声で叫んだだけでびっくりするなんて…」
と言ったのだ。
「…あッ、…あのですねぇ…ッ!!」
「で?決めたのか?」
カチンと来て怒鳴ってやろうと思ったその時、それを遮るようにソノザが聞いて来た。
「…え?」
その言葉に、雉野は硬直する。
「…決めたのか?」
ソノザは再び尋ねると、
「…あの赤いのを…、…倒すのを…!!」
と言うと、そのギョロッとした目を大きく見開き、雉野に迫った。
「やッ、止めろオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
雉野は思わず大声を上げ、その場に蹲る。
「…そッ、…そんなこと…ッ!!…そんなことッ、ぼッ、僕には出来るわけがないッ!!…あの人は…ッ!!…あの人は…」
そう言いかけて、雉野は再び固まっていた。
前にも言いかけたこの言葉。桃井タロウと自身の関係性。仲間なのか、主従関係なのか。タロウは、ドンブラザーズのメンバーが集まることを「縁」と呼んだ。
ただ、同じ目的=ヒトツ鬼になった人間を救うと言うこと、を持った者が集まっているだけなのに、それを仲間と呼ぶのだろうか。
その時、呆然としている雉野を見たソノザは、
「…ちッ!!」
と舌打ちをすると、
「煮え切らないヤツだなぁ…ッ!!…さっさと決めちまえよッ!!」
と言った。そして、雉野に顔を近付けると、
「…じゃなきゃ…。…お前らがヤツに消去、されるぜ…!?」
と言うとニヤリと不気味に笑ったのだ。
「…え?」
その言葉に、雉野は耳を疑った。
「…も…、…桃井…さん…が…、…ぼ、…僕…達…を…?」
「ああ。アイツももうすぐ、鬼になるのだからなぁ…!!」
「…そッ、…そんなこと…ッ!!」
目を大きく見開き、大量の汗を噴き出させる。
(…桃井さんが…)
桃井さんが鬼になったら…。
「ハーッハッハッハッハ…ッッッッ!!!!祭りだ祭りだああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ドンモモタロウにアバターチェンジしたタロウは人格が変わったかのように凶暴化する。
(…それってつまり…)
凶暴化する=鬼になる、と言うことだろうか…?
「…どッ、…どうしよう…ッ!?」
ガタガタと体が震えて来た。
「…フンッ!!」
ソノザはニヤリと笑うと、
「…オレ達が協力してやるからさ…!!」
と言ったのだ。
「…きょ…、…りょく…!?」
雉野の目が忙しなくきょときょとと動く。するとソノザは、
「ああ!!オレ達脳人も、お前達に協力してあの赤いのを一緒に倒してやるぜ?」
と言った。
その時だった。
「雉野さんッ!!」
遠くから雉野を呼ぶ声が聞こえ、思わずその方向を見た。
「…さッ、…猿…原…さん…ッ!!」
サルブラザー・猿原真一が雉野のもとへ駆け寄って来る。だが、そんな雉野の傍にソノザがいることに気付くと、
「…お、…お前は…!?」
と言って立ち止まった。
「…フン…ッ!!」
ソノザは勝ち誇ったようにニヤリと笑うと、雉野の肩をガシッと掴んだ。そして、
「取り敢えず、考えておいてくれ!!」
と言うと、
「ヒャーハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と言う下衆な笑い声を残してその場から姿を消した。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
「雉野さんッ!?」
真一が駆け出し、ぺたんと地面に座り込んでいる雉野を抱きかかえるようにする。
「…大丈夫…、…かい…?」
生気のない顔色をしている雉野を不審げに思った猿原は、
「…いったい…、…何が…あった…?」
と雉野に尋ねた。
「…鬼…」
「…え?」
今にも泣き出しそうな表情の雉野。そんな雉野の震える口から、
「…タロウさんが…。…タロウさんが…、…鬼に…、…なる…」
と言う言葉が飛び出したのだった。