DON脳寺の変 第14話
「何だ、話って?」
その日、猿原、翼、雉野、そしてタロウが喫茶店「どんぶら」に集まっていた。
「どうした、みんな?そんなに神妙な顔付きをして…」
3人がじっと自分を見つめているのに対し、タロウはやや戸惑った様子で尋ねた。
「…あ、…あの…ですね、桃井…さん…」
最初に口火を切ったのは雉野だった。
「…さ、…最近、体調が優れないとか、…だ、…誰かに体を乗っ取られているような感覚になったりとか…、…して…ませんか…?」
するとタロウはきょとんとした表情で、
「…別に…?」
と言ったのだ。そして、
「どうした、急にそんなことを聞いて来て?」
と、やや戸惑ったような笑みを浮かべて雉野に尋ね返した。
「…え、…えっと…」
「ああッ、もうッ!!まどろっこしいなぁッ!!」
雉野が言いよどんでいると、今度は翼が苛立って席を立ち、ズカズカとタロウの元へ歩み寄った。
「おい、お前ッ!!」
「…お、…お前って…」
一応はタロウは自分達の主人なのに。翼のつっけんどんな態度に、雉野はひやひやとしていた。
「お前ッ!!自分の背中に鬼が取り憑いているって気付いてないのかッ!?」
「ちょッ、ちょっとッ、犬塚さんッ!?な、なんてストレートな…」
「雉野の言い方がまどろっこしいからだろうがッ!!」
雉野と翼が言い合っている間、タロウは呆然としたまま動かない。
「…も、…桃井…、…さん…?」
雉野が尋ねるも、
「…オレに…、…鬼…?」
と言うだけだ。だがすぐに、
「いや」
と翼が尋ねたことを否定するように言った。
「だからッ、お前には鬼が取り憑いてるって言ってんだッ!!」
「…何故?」
「はぁ!?」
呆然としているタロウに対し、翼は更に苛立ったのか、タロウに今にも殴り掛かりそうな勢いになって来た。そんな状況を見かねたのか、
「まぁまぁまぁ」
と、猿原が立ち上がると翼の肩をぽんと叩き、
「雉野さんと翼君が脳人から聞いたと言うんだ」
と言った。
「しかも、雉野さんは君の背中にいる鬼を見たとまで言うのだよ」
すると、タロウはゆっくりと雉野を見つめる。
「…え…、…ええ…」
雉野はオドオドしながらそう言った。
「…この間…、…アノーニと戦っている時、アバターチェンジした桃井さんの背中に禍々しく揺れる気があるのが分かって…。…目を凝らして見てみたら、鬼っぽいものが見えて…。…それを、ソノイさんも見たって言ってて…」
「俺はソノニから聞いた。それに、ソノニは俺にも鬼が見えるって言ってたんだ!!」
翼はそう言うと、タロウをじっと見つめる。
「お前、前に言っていたよな?人間が欲望を大きくさせる限り、鬼が取り憑き、暴走した者はヒトツ鬼になる、って。それってつまり、お前の、鬼になった人間を救いたいと言う願いが大きくなって行って欲望となり、その欲望に対して鬼が取り憑き、最悪の場合はお前自身が鬼になるってことじゃないのかッ!?」
「それはないッ!!」
「うおッ!?」
突然、タロウが大声を上げて立ち上がり、翼は驚いて思わず仰け反った。
「オレはッ!!純粋に鬼が取り憑いた人達を救いたいッ!!ただ、それだけだ!!」
「だが、その思いが強くなり過ぎると言うこともあるのではないのかい?」
猿原が静かに言う。
「君にとっては鬼が取り憑いた人を救いたいと言う満足になるかもしれない。でもそれが時として、自己満足になり得ることもある。つまり、鬼が取り憑いた人からしてみたら、それは余計なこと、つまり、余計なお節介、と言うこともあり得る話だ」
その時だった。
「…貴様…」
「…え!?」
突然、タロウがカッと目を見開いたかと思うと、猿原の胸倉を掴んでいた。
「もッ、桃井さんッ!?」
雉野が慌ててタロウと猿原の間に入り込む。
「オレがやっていることが、お節介だと言うのかッ!?」
「…ちょッ、…ちょっとッ!!…桃井さんッ!!落ち着いてッ!!」
だがタロウは、猿原から懸命に引き離そうとしている雉野を思い切り突き飛ばしていた。
「うわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
「雉野ッ!?」
引っ繰り返った雉野のもとへ慌てて駆け寄る翼。
「…オレの…。…人を助けたいと言う思いは、お節介なんかじゃないッ!!そのまま放っておくと、その人自身が鬼に乗っ取られてしまうからだッ!!鬼に意識を乗っ取られた人は手が付けられない。それはお前達も知っているはずだッ!!そうなる前に、オレは鬼になった人間を救いたいんだッッッッ!!!!」
「…ふむ…」
その時、胸倉を掴まれていた猿原が声を上げると、タロウの腕を掴んだ。
「…猿…、…原…?」
タロウの腕の力が緩んだのを見計らい、猿原はゆっくりとタロウのもとから離れる。
「…私は思うのだが…」
そう言うと、
「…そのままにしておいても良い鬼もいるように思うのだが…」
と言った。
「あなたのように、純粋に人を助けたい、何かの役に立ちたいと言う思いが強くなり過ぎて鬼が取り憑いた人も、もしかしたらいるかもしれない。そう言う人達は、もしかすると、自身を律し、制御出来るかもしれない。要は、他の人達に危害を加えなければいいだけではないのだろうか?」
「…あの…」
雉野がおずおずと声を上げる。
「…自らの意思で鬼になった、と言う人もいるのではないでしょうか…?」
「…何?」
「…自分の正義や、自分が正しいと思って行動をしている人が鬼になったとした場合、それを僕達が元に戻す必要があるのかな、って…。…逆に、鬼に意識を乗っ取られて暴走して、他人に危害を加えた全ての鬼を救う必要があるのかな、って…」
バキイイイイイイイイッッッッッッッッ!!!!!!!!
ぶぅん、と言う音が聞こえた時、雉野は左頬に強烈な痛みを感じていた。そして、気が付いた時には派手な音と共に、背後に吹き飛んでいたのだった。
「おいッ、てめえッ!?」
翼が雉野を抱き起こすようにし、目の前で仁王立ちになっているタロウを睨み付けて怒鳴った。
「…も…、…も…い…、…さん…!?」
「…貴様ぁぁぁぁ…ッッッッ!!!!」
「「「ッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」
その時、猿原、翼、雉野は見た。タロウの背後でゆらゆらと揺らめいている禍々しい気=鬼を。
「お前らッ!!何にも分かってないッ!!分からなさ過ぎるぞオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、タロウの体が光り、ドンモモタロウへとアバターチェンジしていたのだ。
「拙いッ!!」
猿原がサルブラザーへとアバターチェンジする。そして、タロウを羽交い絞めする。
「離せッ!!サルウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
怒りに我を忘れ、暴れるタロウ。
「離しませんッ!!」
決死の思いでタロウを抱える猿原。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
「雉野ッ!!こっちだッ!!」
その隙を狙って、雉野はキジブラザーへ、翼はイヌブラザーへとアバターチェンジし、その場を脱出したのだった。