DON脳寺の変 第16話

 

「…うう…ッ!!…うううううううう…ッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その日、雉野は怒りを隠せないでいた。

(…だから…ッ!!…だから言ったんだッ!!鬼に意識を乗っ取られて暴走して、他人に危害を加えた全ての鬼を救う必要があるのか、って!!

 同じ場所を行ったり来たりを繰り返している。

「だからッ、みほちゃんが襲われたんだッ!!

 

「あなたの髪、切らせてもらえないかな?」

 薄暗く冷たい場所。1人の不気味な男が目の前で鉛筆を動かしている。

「私、美容師で…」

 声を上げた女性・雉野みほ。キジブラザー・雉野つよしの妻であり、美容師である。

 そんな彼女は今、体をロープで拘束され、目の前の不気味な男と対峙していた。

「…きっと、あなたは有名な画家になるわ。今から、身だしなみに気を付けないと…」

 みほのそんな言葉に、その男は鉛筆を動かしていた手を止め、自身の長く伸びた髪に触れた。

「…それに…」

 みほは続ける。

「…どうせ、モデルになるのなら、美容師としての私を描いてほしいな…」

 そして、その男の隙を突き、みほはそこから脱出したのだった。

 

「…おっかしいなぁ…」

 その頃、雉野はみほの帰りが遅いことに不安を募らせていた。

「途中で、何かあったんじゃ…」

 みほが勤めている美容室の付近まで走って来た時だった。

「つよし君ッ!!

 背後から懐かしい声が聞こえ、雉野は驚いて思わず振り返った。だが、目の前から現れた人物は、今まで自分が見て来た愛する妻かと言うほどに恐怖で顔が引き攣り、今にも泣きそうな表情でフラフラになっていた。

「…みッ、みほちゃん!?どうしたのッ!?

 まるで雉野の胸に飛び込んで来るようにして崩れ落ちるみほ。息を切らしながら、

「…それが…。…変な男に襲われて…」

 と言ったきり、意識を失い、その場に崩れ落ちてしまった。

「みほちゃんッ!?

 雉野はそんなみほを慌てて抱きかかえる。だが、みほは苦悶の表情を浮かべたまま、目を覚まそうとしない。

「みほちゃんッ!!

 その時だった。

 …ザッ…!!…ザ…ッ!!

 みほの後を追い掛けて来た不気味な風体の男。

(…だッ、…誰…ッ!?

 その姿に、雉野は思わず呆然となった。

「…返せ…」

「…え?」

 その男の目がギラリと光ったその瞬間、

「俺のモデルを返せええええッッッッ!!!!

 と怒鳴って来た。

(…あいつが…ぁ…ッ!!

 雉野の体がかあっと熱くなる。ぶるぶると怒りに手が震える。

「…アンタが…、…アンタがみほちゃんを…ッ!?

 だが、そんな雉野の言葉を無視するかのように、

「返せエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と、その男が絶叫した瞬間、禍々しい気が辺りを包み込んだ。

「…こッ、…これは…ッ!?

 何度も経験して来た、感じて来たそのオーラ。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 その瞬間、その男の姿が禍々しい鬼・魔進鬼へと変貌を遂げていたのだった。

「…許せない…ッ!!

 雉野はドンブラスターを構えると、

「アバターチェェェェェンジッッッッ!!!!

 と叫び、そのトリガーを引いた。その瞬間、雉野の体が輝き、光沢のある鮮やかなピンク色のスーツを身に纏ったキジブラザーにアバターチェンジしていた。

「…許せない…ッ!!

 怒りでピンク色のグローブに包み込まれた拳がギリギリと音を立てる。

「許せない許せない許せない許せないッッッッ!!!!許せなああああいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

「オオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 魔進鬼は狂ったように突進して来る。その時、キジブラザーのマスクの中で雉野の目がカッと見開かれ、

「絶対にイイイイッッッッ!!!!許さないイイイイッッッッ!!!!

 と叫んだかと思うと、

「うわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と言う雄叫びを上げ、その魔進鬼に突進して行ったのだった。

「うわああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!

 今までこんなに怒り狂った雉野を見たことがあっただろうかと言うほどに、狂ったように魔進鬼を攻撃する。

 その時だった。

 ブオオオオオオオオンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!

 けたたましいエンジン音が聞こえ、バイクを大きくウィリーさせた男がその中に割って入って来た。

「…ッ!?

 それに気付いた雉野ははっとなり、

「あの人はッ!?

 と言った。

 全身を明るい水色の服に包み、青い瞳を持つ男性・ソノイがバイクを止め、静かにヘルメットを取った。そして、目の前で繰り広げられている光景に目をやると、眉をひそめ、

「…私は、人間の欲望が嫌いだ…!!

 と言いながら、雉野と交戦している魔進鬼を睨み付けた。そして、

「…欲深き人間は…、…消去する…!!

 と言った時、左手の手首に付けている腕輪を翳し、光沢のある鮮やかな青色のスーツを身に纏った姿に変身していた。

「ハーッハッハッハッハ…!!

 その時、ドンモモタロウ・桃井タロウの高らかな笑い声が響き、

「今からスゲェものを見せてやるよッ!!

 と言ったかと思うと、ドンブラスターを構える。そして、

「狂瀾怒桃ッ!!

 と言いながらドンブラスターの照準を魔進鬼に合わせた。その銃口が眩く輝いている。

「ブラストッ、パーティィィィィィィィィッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その眩い光の弾丸が今にも放たれようとしたその時だった。

「うわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 突然、雉野がタロウに向かって突進して来たのだ。

「うわああああッッッッ!!!!

 その衝撃でドンブラスターの照準が逸れ、ブラストパーティーの光の弾丸は空高く上って行った。

「何をするッ!?

 タロウがドンモモタロウのマスクの中で目を大きく見開き、雉野に詰め寄った時だった。

「ひぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と言う魔進鬼の断末魔の悲鳴が響き渡った。

「…欲深き人間を…、…消去する…!!

 そう言ったソノイの手には、一級剣バロンソードが握られていた。

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 雉野は大きく呼吸を繰り返し、

「…お前…」

 と、タロウはそんな雉野を信じられないと言う表情で睨み付けていた。

 

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