DON脳寺の変 第21話
(…本当…、…なのか…?)
ソノイが強烈な殺気を漂わせ、本性を現そうとしていたその頃、翼は呆然と街の中を歩いていた。逃亡犯、追われる身と言うこともすっかり忘れ、まるで、ゾンビのようにゆらゆらと歩く。
(…本当に…、…雉野…が…?)
脳人の住人・ソノニから聞かされた衝撃の言葉が、頭の中をグルグルと回っていた。
「はいッ!!」
「せいッ!!」
「でやああああッッッッ!!!!」
その時、翼はイヌブラザーにアバターチェンジし、その小さな体をちょこまかと動かし、すばしっこくアノーニ達を振り回していた。
シュパパパパッッッッ!!!!シュパパパパッッッッ!!!!
ドンブラスターの引き金を引くと、眩い弾丸が飛び出し、アノーニ達の体にぶつかって爆発する。そして、そのアノーニ達は背後へ吹き飛び、ひっくり返って行ったのだった。
「…ふぅぅ…!!」
どのくらいのアノーニ達を倒しただろう。辺りが静かになった頃、翼はようやくアバターチェンジを解除し、イヌブラザーから普通の人間の姿へと戻っていた。
その時だった。
「…フフッ!!…フフフフ…!!」
突然、クスクスと言う女性の笑い声が聞こえ、翼はぎょっとなって辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「ここよ」
「ぬわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
突然、背後からスゥッと現れたソノニに驚き、翼は素っ頓狂な声を上げて後退っていた。
「…おッ、…お前は…ッ、…ソノニ…ッ!?」
「…フフフフ…!!」
銀色の瞳をギラリと光らせ、不気味に笑うソノニ。
「かわいかったわよ、ワンちゃん」
その言葉に翼はカッとなり、
「だッ、誰がワンちゃんだッ!?俺は犬塚翼だッ!!」
と、顔を真っ赤にして怒鳴っていた。だが、ソノニは、
「…フフフフ…!!」
と、まるで翼を見下すかのように笑っている。
「…お…ま…え…ええええ…ッッッッ!!!!」
「あら?女の子に手は出さないんじゃなかったのか?」
翼の拳がブルブルと震えているのに気付いたソノニが、翼を挑発するかのようにわざとらしく尋ねる。
「…く…ッ!!」
翼の拳がギリギリと音を立てる。だがすぐに、スウウウウ、っと大きく息を吸ったかと思うと、
「…はああああ…ッッッッ!!!!」
と大きく吐いた。すると、翼はフッと笑って、
「…ああ…。…例え、お前が俺達の敵だったとしても、俺は女には手を出さんッ!!」
と言った。そして、ソノニに背を向けてゆっくりと歩き出そうとしたその時だった。
「…もし…。…あなたのお仲間から敵が出たとしたら?」
その言葉に、翼がピタリと足を止める。そして、
「…どう言う…、…ことだ…?」
と尋ねた。
「どう言うことも何も…。そのままの意味だが?」
ソノニの冷たい瞳が翼を凍り付かせる。
ドクンッ!!ドクンッ!!
翼の心臓が妙に大きく高鳴った。
「…お前の仲間…、…おや?…仲間ではないのではなかったのか?」
「…どッ、…どっちでもいいッ!!…話を、…続けろ…ッ!!」
明らかに動揺を隠せない翼。その目がきょときょとと忙しなく動き、体が小刻みに震えている。
「…フフッ!!」
ソノニは笑うと、
「…キジが動く…」
と言ったのだ。
「…キジが…。…あの赤いのを…、…討つ…!!」
その時だった。
「…プッ!!」
突然、翼が吹き出したかと思うと、大声で笑い始めたのだ。
「…きゅ、…急に…、…何を…、…言い出すかと…思えば…!!」
お腹を抱え、笑い転げる翼。そして、
「…アイツが…。…雉野が…?…タロウを…?…討つ…?…そ、…そんなこと…、…出来るようなタマじゃない…ッッッッ!!!!」
と言うと、ソノニに背を向けてスタスタと歩き始めた。
「…アイツに…、…そんなことが出来る勇気なんて、…ない…ッッッッ!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!
突然、地の底から響くような地鳴りが聞こえた瞬間、翼がぼんやりと歩いていた辺りが激しく揺れ始めた。
「…なッ、…何だ…ッ!?」
当然のことながら驚き、我に返る。そして、
「…なッ、…何だとオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!?」
と叫んでいた。
目の前には大量のアノーニ達がうようよと蠢き、ゾンビのようにゆらゆらと翼に向かって歩いて来ていたのだ。
「アバターチェンジッッッッ!!!!」
翼がドンブラスターの引き金を引いた瞬間、その体が眩い光に包まれ、体が小さくなった。
「行くぜエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
イヌブラザーにアバターチェンジし、その小さな体をちょこまかとすばしっこく動かし、アノーニ達を翻弄する。
シュパパパパッッッッ!!!!シュパパパパッッッッ!!!!
ドンブラスターの銃口から放たれる光の弾丸がアノーニ達を圧倒して行く。だが、多勢に無勢とはこのことだ。
「…キリが…ッ、…ねええええ…ッッッッ!!!!」
その時だった。
(…あれ?)
その時、翼は違和感を覚えていた。
いつもだったら、アバターチェンジしてアノーニ達や鬼と戦っていれば、ドンモモタロウのタロウや、サルブラザーの猿原、オニシスターのはるか、そして、キジブラザーの雉野が集まるはずなのに、今日は誰一人、集まって来る気配がない。
「クソッ!!」
5人が集まっていれば、こんな大量のアノーニ達だってどうってことないのに。
「…何で…ッ、…来ねえんだよ…ッ!?」
翼はブツブツと言うと、
「おいッ、お前らッ!!大量のアノーニが現れたッ!!さっさと手伝いに来いッ!!」
と他のメンバーに向かって叫んでいた。だが、
『おや…?…そっちもかい?』
と言う猿原の呑気そうな声に続き、
『こっちもアノーニ達がウジャウジャいるんですけどオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!』
と言うはるかの悲鳴混じりの声が聞こえて来た。
(…まさか…)
ドクンッ!!ドクンッ!!
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「そこに桃井はいるかああああッッッッ!!!?」
『いや、いないねぇ』
『こっちもいないわよッ!!』
その時、翼は気付いた。
タロウと雉野から応答が全くないのだ。
「…まッ、…まさかッ!?」
イヌブラザーの犬をあしらった大きなマスクの中で、翼は目を大きく見開いていた。