DON脳寺の変 第22話

 

「…うぐ…ッ!?

 低い呻き声が聞こえたその瞬間、ドサッと言う音と共に、全身を光沢のある濃紺のスーツで包んでいたソノイが膝をつき、そのスーツを解除していた。

「ソノイッ!?

 その音に驚いたソノザが慌てて駆け寄る。

「…だッ、…大丈夫かッ、ソノイッ!?

「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!

 青い瞳を呆然とさせ、肩で大きく呼吸を繰り返す。鮮やかな水色の服が光に照らされてキラキラと輝いた。

「…お…、…おい、ソノイ…!?

「…ククク…!!

「…え?」

 ソノザが驚いてソノイを見る。ソノイの口元には不気味な笑みが浮かび、その瞳に精気が宿り始めた。

「…始まった…。…この世界の…、…均衡を保つ戦いが…!!

 そう言うと、ソノイはゆっくりと立ち上がる。そして、

「…ソノザ」

 とソノザを呼んだ。

「キジブラザーの元へ行き、あの赤いの、ドンモモタロウを消去しろ…!!

 その途端、ソノザが俄かに不気味な笑みを浮かべ、目を見開いたかと思うと、

「いよいよかッ!?いよいよやるのかッ!?

 と興奮気味に声を上げた。

「…ああ…」

 ソノイは静かに不気味な笑みを浮かべ、

「…鬼にならんとする者はこの世界の均衡を乱す。消去せねばならん…!!

 と言うと、ソノザは、

「よぉしッ!!オレに任せておけッ!!

 と言うと、颯爽と飛び出して行った。

「…ククク…!!

 ソノイは不気味に笑い続けている。

「…ソノザ。…お前にも役に立ってもらうぞ…!!

 その時だった。

 ソノイの背中に、ゆらりとした靄が見え、そこに禍々しい鬼の姿をしたものが浮かび上がったのだ。

「…我が野望を叶えるために…!!

 

 パチパチパチパチ…。カタカタカタカタ…。

 どこかの街の、どこかの閑静な住宅街。その隣りの家との塀に囲まれた一角、いわゆる、どん突き。そこにある1軒の喫茶店「どんぶら」。

 パチパチパチパチ…。カタカタカタカタ…。

 古い町家をそのまま使い、その中は居抜きでモダンな作りに変えている。そこにある木目を基調としたアンティークのような椅子とテーブル。その奥にはカウンターがあり、そこにはたくさんのサイフォンが並ぶ。外はそれなりにガヤガヤと賑やかなのだが、この中だけはまるで別世界にいるように静かに時が流れて行く。

 パチパチパチパチ…。カタカタカタカタ…。

 そのカウンターの後ろには椅子とテーブルが置かれ、そこに五色田介人が腰をかけていた。

「…」

 サラサラの髪、普段から眠そうな目。その目が今、目の前にあるパソコンに集中している。

 パチパチパチパチ…。カタカタカタカタ…。

 その細くしなやかな両指はパソコンのキーボードを叩き、パチパチ、カタカタと音を立てていた。

「…」

 その瞳が左右に忙しなく動いていたその時、キーボードを叩く指がピタリと止まった。

「…うん?」

 眠そうな瞳を凝らし、じっとパソコンのモニターを覗き込む。

「…これ…、…は…?」

 そこに映し出されていたもの。ピンク、黄色、黒、青の丸い玉のようなもの・KIBI-POINT。そのうち、ピンク色のものが俄かに急激に減り始めたのだ。

「…え?」

 そして、それに釣られるかのように、今度は黄色と黒色の玉が少しずつ減り始めて行く。

「…キジと、オニと、犬のKIBI-POINTが…?」

 嫌な予感しかしない。その目が急にきょときょとと忙しなく動き始めた。

「…ま…ッ、…まさか…ッ!?

 その瞬間、彼の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!

 殺伐とした戦場の中に、一際大きく響き渡る笑い声。

「やあやあやああああッッッッ!!!!祭りだ祭りだああああッッッッ!!!!

 ドンモモタロウにアバターチェンジしたタロウはザングラソードを振り回し、襲い来るアノーニ達を、その体をくねくねとしならせながら避けて行く。

「ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!どうしたどうしたああああッッッッ!!!?それではオレは倒せんぞオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!

 ザングラソードがキラキラと輝き、そのたびにアノーニ達は悲鳴を上げて倒れて行く。

「ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!これはこれは、キリがないなああああッッッッ!!!!

 暫くすると、タロウは迫り来るアノーニ達と間合いを取るようにした。そして、

「お前達に今からスゲェものを見せてやるよッ!!

 と言ったかと思うと、ドンブラスターを構えた。そして、

「狂瀾怒桃ッ!!

 と言いながらドンブラスターの照準をアノーニ達の中心部分に合わせた。その銃口が眩く輝く。

「ブラストッ、パーティィィィィィィィィッッッッッッッッ!!!!!!!!

 そう叫んだタロウがドンブラスターの引き金を引く。

 バシュウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!!

 衝撃音が辺りに響き渡ったその瞬間、光の弾丸がアノーニ達を包み込んだ。そして、

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 と言う爆発音と共に、辺りを灼熱の炎が包み込んだ。

「ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!

 タロウの高らかな笑い声が響き渡ったその時だった。

 バシュウウウウッッッッ!!!!バシュウウウウッッッッ!!!!

 乾いた破裂音が聞こえたその時、タロウは背中に衝撃を感じた。そして、ゆっくりとその方向を振り返り、

「…ほう…」

 と声を発した。

「…キジか…」

「…ッッッッ!!!!

 キジブラザーにアバターチェンジした雉野が背後に立っている。その手にはドンブラスターが握られていた。

「…なるほどな…」

 雉野の横にソノザが目をギラギラと光らせ、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて立っている。それで全てを察したのだろう。タロウは静かにそう言った。

「…鬼は…、…要らない…」

「ふむ」

 雉野の体を禍々しいオーラが包み込んでいる。そして、そんな雉野の背後にはゆらゆらと揺らめく鬼のような形の靄が浮かび上がっていた。

「…他人に危害を加えるような、…そんな鬼は…、…要らない…ッ!!

「それがお前の答えか?」

「そうだッ!!僕にとってッ、アンタはッ、要らない存在だああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その瞬間、雉野を包み込んでいる禍々しいオーラが一気に膨れ上がった。

「…フッ!!

 タロウのドンモモタロウのマスクがフンと動く。

「…是非に及ばず…、…か…」

 その時、タロウはドンモモタロウのマスクの中でニヤリと笑っていたのだった。

 

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