DON脳寺の変 第23話

 

 夥しい数のアノーニ、そして、脳人の住人・ソノザ。そして、お供のキジブラザー・雉野つよしが目の前に対峙している。

「…ククク…!!

 たった一人のドンモモタロウ・桃井タロウを見て、雉野は低い声で笑った。

「どうですか、桃井さん。もう、あなたに勝ち目はありませんよ?」

「…フンッ!!

 その時、タロウがフンと鼻で笑ったかと思うと、

「ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!ハーッハッハッハッハッッッッ!!!!

 と高らかに笑い始めたのだ。

「ちゃんちゃらおかしいッ!!おかしすぎるぞッ、雉野オオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!

「何がだッ!?

 思わずカッとなり、雉野が怒鳴り返す。

「お前は一人では何も出来ない愚か者だ。一人では太刀打ち出来ない。だからそこの脳人の住人やアノーニ達を引き連れて来たのではないのか!?

「うるさいッ!!何人連れて来ようがッ、僕の勝手だッ!!それにッ、その方が確実にお前を仕留められるんだッ!!

「…ほう…」

 タロウがニヤリと笑う。

「ならッ、さっさとやってみろよッ!!

「言われなくてもやってやるさッ!!

 雉野がそう言った瞬間、彼を覆っていた禍々しいオーラが更に爆発する。それを合図に、夥しい数のアノーニ達が一斉に飛び出した。

 

「…ッッッッ!!!!

 その頃、サルブラザー・猿原真一、オニシスター・鬼頭はるか、そして、イヌブラザー・犬塚翼は不穏な空気を感じ取っていた。

「…こ…、…れは…!?

 猿原が呆然とする。

「…ま、…まさか…ッ!?…雉野さんッ!?

 はるかも呆然とすると、

「…本気かッ、…アイツ…ッ!?

 と翼も慌て始める。

「…とッ、…とにかくッ、早くタロウのところへ…!!

 はるかが次々に襲い来るアノーニ達を何とかして弾き飛ばす。

「…ちょ…っと…ッ!!…退きなさいよッ!!

 そう言うと、はるかは、

「猿原さんッ!!犬塚さんッ!!

 と2人を呼んだ。

「タロウの元へ行けますかッ!?

 その時だった。

『…私は行かない…』

 猿原の声だ。

「…え?」

 その声にはるかが止まる。

『…私は行かない…。…どちらに味方することも出来ない…』

『おいッ、サルッ!!お前ッ、本気で言ってんのかッ!?

 翼の怒鳴り声が聞こえて来る。

『キジを止めに行かねぇと!!

『…いや…。…私には出来ない…』

「猿原さんッ!?どうしてですかッ!?

 はるかの悲痛な声が辺りに響く。すると猿原は、

『…桃井タロウを助けると言うことは、仲間である雉野さんを攻めると言うこと。…逆に、雉野さんを助けると言うことは、主人である桃井タロウを裏切ると言うこと。…私にはどちらも選べない。…どちらも、私にとっては大事な友であり、仲間なのだから…』

 と言った。

『だからって、あいつが、タロウが殺られるのを黙って見ているつもりなのかよッ!?

 その時だった。

『…んなッ!?…おッ、…おいッ、ちょ…!!

 突然、翼が慌てた声を上げ始め、そこで通信が途絶えた。

「…ッ!?…犬塚さんッ!?…犬塚さんッ!!

 はるかが叫ぶ。だが、翼の声は二度と聞こえて来ることはなかった。

「…何とかしなきゃ…!!

 金棒・フルコンボウを振り回しながら、次々とアノーニ達を薙ぎ倒す。

「…早く…!!

 はるかは焦っていた。

「…早くしないと…。…タロウが…!!

「桃井タロウに会え。桃井タロウに忠誠を誓え。そうすれば、失ったものを取り戻せる」

 桃井陣に言われた言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る。

「…誰か…!!

 オニシスターのマスクの中で、はるかは目にいっぱい涙を浮かべていた。

「…誰か…!!…誰か…ッ、…タロウを助けて…!!

 

「…んぐ…ッ!?…ぐ…ッ、…うううう…ッッッッ!!!!

 体が言うことを聞かない。

「…な…、…何…だ…ッ、…これ…ッ!?

 イヌブラザーにアバターチェンジしている翼の体を、白い靄のようなものがグルグルと巻き付いている。それはどんなに引っ張っても、どんなにもがいても決して翼の体から外れるようなことはなかった。

「…ンフフフフ…!!

 目の前には銀色の瞳を冷酷に光らせているソノニが、冷酷な笑みを浮かべて立っていた。

「…逃がさないよ、イヌブラザー…!!

「…な…、…んだ…と…オオオオ…ッッッッ!!!?

「ンフフフフ…!!

 ソノニは笑い続ける。

「…もうすぐ、あの赤いの、…ドンモモタロウが鬼になるところだった。第六天の魔王に。そうなってしまったら最後、私達の世界の均衡が崩れるだけじゃなく、この世界も地獄と化す。そうなる前に、私達が動いた、ってわけ」

「…だッ、…だからと言って…ッ!!…雉野を使うことはなかったんじゃねえのかよオオオオッッッッ!!!?

 翼が怒鳴ると、ソノニはやや不満げな表情を浮かべ、

「…雉野…?…ああ、あのキジブラザーのことね?…知らないわよ。ソノイがやけに彼のことをお気に入りだったもの…」

 と言った。

「ソノイは言ってたわ。キジブラザーを脳人の世界へご招待したい、って」

「…脳人の世界…へ…?」

「どう言う趣味をしているのかしら…。…でも、ソノイはやけにあのキジブラザーに惚れ込んでいるようだったわ」

「…とッ、…とにかくッ、…こいつを外せエエエエエエエエッッッッッッッッ!!!!!!!!

 翼が何とかしてそれを振り解こうと懸命に体を揺する。だが、ソノニは、

「お行儀の悪いワンちゃんね!!

 と言ったかと思うと、右手をスゥッと前へ差し出し、その手のひらを徐々に握り始めたのだ。

「うぐッ!?

 その瞬間、翼の体がグインと伸び、硬直した。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 ギリギリと体を締め付けられる感覚に、体のあちこちから激痛が走り出す。

「…フフッ!!

 ソノニはニヤニヤと笑っている。

「…痛…て…え…ッ!!

 イヌブラザーのマスクの中で顔を真っ赤にし、目をギュッと閉じる。

「…痛てぇ…ッ!!…痛てエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!ぐぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 翼の悲鳴が辺りに響き渡った。

 

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