宇宙からの侵入者 第2話

 

「待てぇッ!!

 土と石ころだらけの荒涼とした大地を、進化獣タコシンカとダイナブラック・星川竜が物凄い勢いで走っていた。

「…しッ、…しつこいやつだ…ッ!!

 ゼエゼエと荒い呼吸をし、嘴のようににゅっと突き出した口の先端をプクプクと膨らませるタコシンカ。ゴムのように赤茶色の体が、心なしか、真っ赤になっているようにも思えた。

「お前を倒すッ!!タコシンカぁッ!!

 その時、竜の怒りは頂点に達していた。

 ちょうどこの頃、世界中で異常電波をキャッチすると言う怪現象が起きていた。竜はそれを、宇宙人が地球に飛来して来ていると確信していた。

 宇宙人との交流。それは竜にとって長年の夢でもあった。そんな竜の健気な夢をぶち壊したのが、このタコシンカ、いや、ジャシンカ帝国だったのだ。

 タコシンカは宇宙人のふりをして竜達に近付いた。最初はその存在を訝しんでいた他のメンバーだったが、竜だけは戸惑いながらも宇宙人のふりをしているタコシンカに好意的に寄り添った。だが、そんな竜達を嘲笑うかのように、疑われたことに腹を立てたふりをするタコシンカ。そして、竜が最も近付いたところでタコシビレと言う電撃で攻撃を仕掛けて来たのである。

「ハーッハッハッハッハ!!!!罠に掛かったなッ、ダイナマンッ!!

 メギド王子の高らかな笑い声が辺り一帯に響き渡った。その一件以来、世界中でキャッチされていた怪電波がぱたりと止んでしまったのである。

 夢を壊され、体にもダメージを負った竜の怒りはいかばかりか。そして、街へ出て大暴れしているタコシンカの目の前に立ちはだかり、現在に至る。

 

「食らえッ、タコミサイルッ!!

 突き出た嘴のような口から無数の弾丸が飛び出て来た。

 パパパパッッッッ!!!!パアアアアンンンンッ、パアアアアンンンンッッッッ!!!!

 ダイナブラックに変身した竜の足元でそれらが爆発し、眩しい光を放った。

「とおりゃああああッッッッ!!!!

 忍者の末裔らしく、やや古めかしい言葉を発しながら空高く飛び上がる竜。そして、

「ダイナキーックッ!!

 とがっしりとした右足をタコシンカへ向かって突き出した。

 ドゴオオオオッッッッ!!!!

 鈍い音がしたその瞬間、竜の右足がタコシンカの体に減り込んでいた。

「ぬおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 その瞬間、タコシンカが遠くへ吹き飛ぶ。

「行くぞおおおおッッッッ!!!!

 物凄い勢いでタコシンカへ向かって駆け出して行く竜。

 その時、竜は気付いてはいなかった。タコシンカの目がギラリと光ったのを。

 その瞬間、タコシンカが、まるでビデオテープを巻き戻したかのようにスックと立ち上がったかと思うと、両手で無数の吸盤が取り付いたタコ足を持ち、それをクルクルと回し始めたのだ。その瞬間、

「ふあッ!?

 と竜が素っ頓狂な声を上げた。

「ああッ!?ああッ!!ああッ!!ああああッッッッ!!!!

 竜の体から黄色のもやのようなものが出ている。そして、それはタコシンカのタコ足の吸盤を通して体内に吸収されて行っていたのだ。

「…ああッ!!…く…ッ、…ああああ…ッッッッ!!!!

 体からスゥッと何かが抜けて行くような感覚がする。いや、それだけではなく、足がガクガクと震え、力が入らなくなって行っていることに、竜は気付いていた。

「…ククク…!!

「…あ、…ああ…ッ!!

 その時、竜は地面をゴロゴロと転がっていた。

「ダイナブラック!貴様が動けば動くほど、貴様の体からエネルギーが吸い取られて行くのだ!」

 その時だった。タコシンカがタコ足をぶんぶんと振り回し、まるで鞭打つかのように竜の体にぶつけ始めたのだ。

 バシッ!!バシイッ!!

 鋭い音がして、竜の体に激痛が走る。

「ああッ!!

「うおッ!!

「…っく…ッ、ああああッッッッ!!!!

 ゴロゴロと地面を転がり、のたうち回る竜。

「動け動けッ!!もっと動けえいッ!!

 タコシンカの血走った目。だがこの状況を切り抜けなければ、タコシンカに勝てない。

 ゴロゴロと地面を転がり、何とかタコシンカとの間合いを取る。そして、力を振り絞って起きると、

「とおりゃッ!!

 と右拳を繰り出した。だが、そんな竜の反撃を見こしていたかのように、タコシンカは竜に向けて、再びタコ足を振り回し始めたのだ。その途端、竜の体からスゥッと再び力が吸い取られ、その反動で竜の体が背後へ思い切り弾き飛ばされた。

「うわああああッッッッ!!!!

 背後で崩れ落ちる竜。ダイナブラックの光沢のある鮮やかな白色のズボンの部分が土埃で汚れて行く。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 体に力が入らない。そのせいか、体中がガクガクと震える。そんな竜の背後へタコシンカがドスドスと足音を立てて近付いた。そして、思うように身動きが取れない竜をしっかりと抱き上げたのだ。

「…ッ!?

 忍者の勘が働くのか、身の危険を感じる竜。タコシンカのタコ足がたらりと自身の体の上に垂れ下がる。そして、ダイナブラックの光沢のある鮮やかな黒色のスーツに吸盤が密着したのが分かった。

「タァコォシィビィレエエエエッッッッ!!!!

 タコシンカの目がギラリと光った瞬間、今までに感じたことのなかったほどの強烈な電撃が竜の体を襲った。

「うぐわああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 左手を天高く突き上げ、その強烈な電撃にブルブルと体を震わせ、絶叫する竜。体中の力が抜けてしまっているせいか、普段は耐えられる電撃もこの時ばかりは耐えることが出来ないでいた。

「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 やがて、天高く突き上げていた竜の左腕が、だらんと太腿の横に垂れた。

「ふんッ!!

 バシッ、と言う乾いた音と同時に、

「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!

 と言う悲鳴を上げて吹き飛ぶ竜。そして、遠く離れた場所で頭から崩れ落ち、だらしないほどに両足を天高く突き上げて倒れた。

「…全て吸い取ってやる…!」

 勝ち誇ったような不気味な笑みを浮かべてゆっくりと竜のもとへ歩いて行くタコシンカ。

「…何かをすれば、…全てこいつのエネルギーになってしまう…!」

 ブルブルと体が震え、思うように体が動かせない。体中が痺れ、激痛で意識が遠退きそうになる。その時だった。

「とどめだッ、タコシンカぁッ!!

 メギド王子の甲高い叫び声が聞こえた。そして、しゅるしゅると言う音と共に、タコシンカの吸盤のついたタコ足が、竜の体にぐるぐると巻き付き始めたのだ。

「…うう…ッ、…あああ…ッッッッ!!!!

 腕ごとタコ足に絡め取られ、おまけにギリギリと物凄い力で締め付けられる。

「…く…ッ、…苦し…い…ッ!!

 強烈な痛みで意識が再び遠退きそうになる。その時だった。

 ガコンッ!!

 その時、竜は見た。にゅっと突き出したタコシンカの口の中に硬質な真っ黒なものがあるのが見えた。それは人間の口のように上顎と下顎とに別れ、ガチガチと音を鳴らしている。

「…や、…止めろ…!!

 竜の声がブルブルと震える。

「…ククク…!!…覚悟しろ、ダイナブラック!!…貴様の全てを吸い取ってやる!!

 タコシンカがそう言った途端、その口の中の硬質・カラストンビが牙を剥いた。

 ドシュッ!!

 鋭い音が聞こえたその瞬間、竜の体がビクンと跳ねた。

 竜の首。ダイナブラックのマスクの下にある、真っ白なスーツの首もとに、カラストンビが噛み付いていた。と同時に、タコシンカがポウと真っ赤に輝き、その妖しい光は竜をも包み込んだ。

「…あ…、…あ…、…あ…あぁぁ…!!

 竜の弱々しい悲鳴と同時に、

 ドクン!ドクン!

 と言う大きな脈同音。その脈動に合わせるかのような赤い光が波打つようにタコシンカのカラストンビに吸収されて行く。そして、竜の体の痙攣が小刻みに、激しくなって行った。

「…ぁぁぁぁ…!!

 竜の頭部を守っているダイナブラックのマスクがいつの間にか消え、中から目を大きく見開いて口から涎を垂らす竜の顔が現れた。

「…ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 体を仰け反らせ、絶叫する竜。

「…もッ、…もう…ッ!!…止めて…くれ…ええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 だが、体の中身が全て吸い取られそうな感覚に陥って行く。スゥッと何かが抜けて行く、その感覚。

「…あ…あ…あ…あ…!!

 竜の体がビクンッ、ビクンッと間隔を置いて痙攣をした時、タコシンカのタコ足がスルッと解けた。

「…う…ああ…!!

 そして、竜はその場に崩れ落ちるように倒れ込んだのだった。

 

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