慟哭の毒針 第1話
深い、深い地底のその奥深く――。
ゴボゴボと低い唸り音を上げて煮え滾るマグマ。その片隅に冷えて固まったマグマの岩石群があった。そしてそれは、まるで何かを守るかのように円を描くようにして固まっており、その中心部には巨大な要塞が、それでも灼熱の熱風と炎を迸らせるマグマから身を守るかのように、真っ白な冷気を出しながら静かに座っていた。
グランギズモ――。
ギラギラと真っ赤に光る目、鋭い牙と歯を持つ大きく開かれた口を持つ機械仕掛けの巨大な海獣は、他のものを一切寄せ付けないような雰囲気を醸し出していた。
そんなグランギズモの内部、黒と白の正方形のタイルが一面に張り巡らされた玉座に、1人の青年が深く腰掛けていた。その目はギラギラと野望に満ち、その手には毒々しいほどの赤色で、そこからもくもくと白いガスのようなものが溢れ出すグラスを手にしている。そして、その液体の上にはやや白みを帯びた、粘着質な液体の塊が浮かんでいた。
1人の青年・ジャシンカ帝国の若き王子・メギドがグイッとそのグラスを傾け、ゴクゴクと喉を鳴らしながらその液体を飲み干した。
「…ふぅぅ…!!」
口元に零れたそれをグイッと手で拭うと、
「…そろそろこの液体も味が薄くなって来たな…!!」
と言い、視線を遠くへ投げた。
メギドが視線を投げ掛けた先。黒と白の正方形のタイルが延々と延びているその先に、1人の男が横たわっている。
光沢のある鮮やかな黒色のTシャツのような服。その肩から二の腕、そして胸の中心部分に赤いラインが入っている。二の腕から手首にかけては光沢のある真っ白な素材、そして、その手を真っ黒なグローブが包み込んでいた。だが、それは既に服としての機能を失ったかのようにボロボロに引き裂かれ、そこからその男の筋肉質な肉体が見え隠れしていた。
そして、下半身は光沢のある真っ白な素材で、その両脇には赤いラインを2本の黒いラインが挟み、それが足首まで伸びていた。だが、それも砂埃と煤のようなもので茶色に変色していた。
そんな彼の、2本の足の付け根部分。彼の男としての象徴であるペニスが息づく場所。そこは無残なほどにビリビリに引き裂かれ、そこから彼の男としての象徴であるペニスと、その下に息づく2つの球体が露出していた。そのペニスの先端は真っ赤に腫れ上がり、そこから透明な淫猥な液体がトロトロと溢れ出していた。
ダイナブラック・星川竜。その顔を本来は覆っているはずのマスクが取り去られ、うっ血した、げっそりと痩せ細った顔があった。
「…」
煤汚れと鬱血で見るも無惨な顔。その精悍な、甘いマスクから放たれる、どこを見ているのか分からないほどに虚ろになった瞳。その瞳からは希望の光が消え、時折、体がピクッ、ピクッ、と痙攣を続けていた。
「…フンッ!!」
メギドはそんな竜を鼻で嘲笑いながら、
「そろそろお役御免か?もう、新たなるエネルギーを作るだけの力も残されていないと言うことか…?」
と言い、
「ならば、次の作戦を考えるとしよう!!」
と言った。そして、暫く考え込んでいたが、
「…もっと若いエネルギーが必要だな…!」
と言うと、飲み干して空になったグラスをしげしげと眺めた。
「ダイナブラックのエネルギーも相当美味であり、それはオレの糧となってくれた。だが、最早、そのエネルギーも残されていないようだ。…となれば…」
メギドの目がギラリと光る。そして、
「ダイナマンの中で最も若いのは、ダイナブルーか…」
と言い、ニヤリと口元を歪ませた。
「…ダイナブラックよりも若く、みずみずしい肉体を持つダイナブルーを次のターゲットとしようか…!!」
そう言うと、メギドは手にしていたグラスをいつものように床に投げ捨てた。そして、そのグラスは派手な音を立てて粉々に砕け散った。
「ぐぎゃああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
眩い閃光が煌めき、大地を轟かすような爆発音と共に、巨大なタコの生命体・タコシンカが真っ二つに切り裂かれた。その目の前には、青色を基調とした巨大なロボット・ダイナロボが右手に大きな剣・科学剣を持ち、悠然と立っている。ダイナブラック・星川竜を散々甚振ったタコシンカも、最終的にはメギドの野望を叶えるための捨て駒として扱われ、ダイナロボの科学剣・稲妻重力落としの錆となって消えたのだった。
そんなダイナロボの胴体部分のコックピットに、1人の少年が座っていた。
「…竜…さん…」
光沢のある鮮やかな青色のTシャツのような服。その肩から二の腕、そして胸の中心部分に黄色のラインが入っている。二の腕から手首にかけては光沢のある真っ白な素材、そして、その手を鮮やかな青色のグローブが包み込んでいた。そして、下半身は光沢のある真っ白な素材で、その両脇には黄色のラインを2本の青いラインが挟み、それが足首まで伸びていた。
ダイナブルー・島洋介。18歳。イルカの口を模したようなバイザー越しに見える洋介の表情は曇り、まだまだ少年のあどけなさを残していた。良く見ると、その大きなクリクリとした目が潤んでいるようにも見える。
「…竜さん…。…今、どこに…?」
ダイナロボの胴体部分のコックピット。そこには、本来であれば、隣りにはダイナブラック・星川竜がいたはずだった。
「島ちゃん!もっと肩の力を抜くでござるよ!」
操縦桿を握るその手に自然と力が入る洋介を、22歳の竜は何度となくいたわってくれた。
「ちょ、ちょっと竜さんッ!!今、戦いの真っ最中…」
「だぁいじょうぶでござるよお!島ちゃんがちゃんと操縦すれば!」
「そ、そんなこと言ったってッ!!竜さんがオレの肩を揉んで来るから…!!…ちょ、…ちょっとおッ!!くすぐったいってばッ!!」
巨大シンカ獣と戦っている最中でも、竜は洋介の背後に回り、肩をガシガシと揉んでくれた。背が高く、体がガッシリとしている竜と、小柄な洋介。まるで背後から洋介を抱き締めるようにする竜に、洋介は不思議と心地良さと安心感を得ていた。
「…竜…さん…!」
洋介だけに見せる、穏やかな笑み。それとは反対に、ジャシンカ一族との戦いになれば一転、悪を憎むような凛々しい表情へと変化する。そんな竜に、洋介は兄弟とも、戦友とも違う、何とも言えない不思議な感覚を抱いていた。
「…オレは…。…オレは…!!」
離れてみて気付くこともある。
独りきりで過ごす夜。いつもなら隣りのベッドで休んでいる竜がいない。
「…竜…さん…!!」
竜の匂いがするベッドに顔を埋める。
ドクンッ!!
突然、心臓が大きく高鳴り、
「…う…、…うああ…ッ!!」
と、洋介は思わず呻いていた。そして、自身の体にも変化が起こっていることに気付いていた。
「…ど、…どうして…!?」
チェックの柄のパジャマ。その2本の足の付け根に息づく、洋介の男としての象徴・ペニス。それが今、彼の下着の中で大きく勃起し、臍へ向かって真っすぐに伸びていた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
恐る恐るそれに手を伸ばし、下着の上からそっと触れてみる。
「…ん…!!」
竜のベッドに顔を埋め、匂いを嗅ぐ。同時に、竜の優しい笑みを思い浮かべる。
「…竜…さん…ッ!!」
いつの間にか、洋介の右手は自身の大きく勃起したペニスを握り締め、上下に激しく動かしていた。
「…オレは…。…オレは…ッ!!…竜さんのことを…ッ!!」
ドクンッ!!ドクンッ!!
心臓の脈動が、いつもよりも早く、大きく聞こえる。
「…竜さん…ッ!!…竜さんッ!!!!」
自身の大きく勃起したペニスを刺激する右手の動きが早さを増したその時。
ドビュッ!!ドビュッ!!ドビュドビュドビュドビュッッッッ!!!!ビュクビュクビュクビュクッッッッ!!!!
洋介の手の中で、自身のペニスが大きく脈打ち、その先端部分から強烈な異臭を放つ、熱い白濁の液体が溢れ出したのが分かった瞬間だった。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
洋介は竜のベッドの下で大の字に横たわり、大きく胸を上下に動かしていた。
「…竜さん…ッ!!…オレ、…どうすれば…ッ!!」
自身が狂ってしまうのではないかと思うほどの感情に囚われ、いても立ってもいられなくなっていた。
「オレッ、竜さんを探して来ますッ!!」
ダイナステーションでそう叫ぶと、洋介は仲間が止めるのも聞かず、そこを飛び出して行った。
それが、洋介の破滅への序曲とも知らずに…。