慟哭の毒針 第2話
その時、洋介の目の前には異様な光景が広がっていた。
「…何だ…ッ、…これ…ッ!?」
目の前で多くの人が倒れている。いや、苦しんでいた。だが、倒れて苦しんでいる人はその場にいる全員ではなかった。何人かが胸を押さえ、もがき苦しんでいたのだ。
「大丈夫ですかッ!?一体、何があったんですかッ!?」
足元に倒れていた人に声を掛けてみた。だが、その人は額に脂汗を浮かべ、痛い、痛いと叫んでいるだけだった。
「…一体、…何が起こってるんだ…!?」
その時だった。
カーンッ!!カーンッ!!
何かを打ち付けるような音が聞こえたその時、倒れて苦しんでいる人達が跳ね上がったかと思うと、更に苦しみ出したのだ。
「…どこだ…!?」
カーンッ!!カーンッ!!
「一体、この音はどこから聞こえて来るんだッ!?」
その音がする方向へ向かって、洋介は物凄い勢いで駆け出して行った。
「…ククク…!!」
その時、そんな洋介の様子をビルの屋上から見下ろしている一人の男。
「…ダイナブルー…。…罠に掛かりおったわ…!!」
ジャシンカ帝国の王子メギド。
「…ダイナブラックの次はお前だッ、ダイナブルーッ!!お前がオレの血肉となるのだッ!!」
その時、メギドはカッと目を見開くと、そこから姿を消していた。
カーンッ!!カーンッ!!
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
気が付いた時、洋介は街から離れた林の中に来ていた。
カーンッ!!カーンッ!!
「…いたッ!!」
洋介が声を上げた時、
「…ん?」
と言って振り向いたシンカ獣。
「お前かッ、街中の人を苦しめていたのはッ!!」
キッと睨み付け、右人差し指を突き出す。するとそのシンカ獣は、
「…ククク…!!」
と含み笑いを上げたかと思うと、
「そうよッ!!このシンカ獣サボテンシンカ様が街中の人間を苦しませていたのだあッ!!この藁人形を使ってなあッ!!」
と言い、右手に1体の藁人形を突き出した。その胸には大きな釘が突き刺さっている。
「…おのれ、シンカ獣ぅッ!!」
怒りにブルブルと震える右拳を握り締めたその時だった。
「たああああッッッッ!!!!」
突然、横から眩しい閃光が煌いた。
「ッ!?」
身軽さと瞬発力が持ち味の洋介はそれを物凄い勢いで避け、背後に転がる。
「…メギドぉッ!!」
「ハーッハッハッハッハ…!!」
高らかに笑い、剣を収めると、
「お前もサボテンシンカの餌食となるのだッ、ダイナブルーッ!!」
と、目を大きく見開いて叫んだ。
「何だとおッ!?」
カッと頭に血が上った洋介。
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
雄叫びを上げながら、生身のまま、サボテンシンカに突っ込んで行く。
「食らえいッ!!サボテンニードルッ!!」
その時、サボテンシンカの体が光ったかと思うと、何本もの棘のようなものが飛び出し、洋介に向かって飛んで来たのだ。
「…ク…ッ!!」
寸でのところでそれを交わす。だが、
ザシュッ!!
と言う音を立てて、1本の棘が頬を掠めた。赤い線が洋介の頬に出来る。
「どうした、ダイナブルー?変身して戦わないのか?」
メギドが洋介を蔑むように言い、それが更に洋介の癪に障った。
「言われなくても、変身してやるぜッ!!」
そう言うと、洋介は左手のひらを前へ突き出した。そして、反時計回りにゆっくりと回し、その左手を引き、同時に右手を突き出し、そして右手を引いて胸の前で留めた。
「ダイナッ、ブルーッ!!」
そう叫んだ瞬間、右腕のダイナブレスが光り、それと同時に洋介の体も光に包まれた。そして次の瞬間、洋介の身なりが変わっていた。
光沢のある鮮やかな青色のTシャツのような服。その肩から二の腕、そして胸の中心部分に黄色のラインが入っている。二の腕から手首にかけては光沢のある真っ白な素材、そして、その手を鮮やかな青色のグローブが包み込んでいた。そして、下半身は光沢のある真っ白な素材で、その両脇には黄色のラインを2本の青いラインが挟み、それが足首まで伸びていた。更に頭部には、イルカの口を模したようなバイザーがあるマスクを被っていた。
ダイナブルー。洋介のもう1つの姿。
「ジャシンカめッ!!お前達の好き勝手にはさせないッ!!」
バイザー越しにメギドとサボテンシンカを睨み付ける。だが、メギドは、
「…ククク…!!」
と肩をヒクヒクさせていたかと思うと、
「…ッ、…ッハ…ッ!!ハーッハッハッハッハ…ッッッッ!!!!」
と大声で笑い始めたのだ。
「まんまと罠に掛かったなッ、ダイナブルーッ!!我々の目的は、最初から貴様だったのだ!!」
「何ッ!?」
その時、サボテンシンカが藁人形をにゅっと突き出した。それを見たメギドが、
「この藁人形が着ている服の色は何色だ?」
と洋介に聞いて来た。洋介は一瞬、戸惑った様子を見せたが、
「…青…」
と言い、
「…ッ!?」
と、その場で体を凍り付かせた。
「し、しま…ッ!!」
瞬間的に、洋介の記憶がフラッシュバックする。
(…胸を押さえて、…苦しんでいる人が着ていた服は、…みんな、…青…だ…った…!!)
その時、メギドが勝ち誇ったように笑い、目をカッと見開いた。
「やれええええいッッッッ!!!!サボテンシンカああああッッッッ!!!!」
メギドの大声が辺りに響き渡ったその瞬間、
カーンッッッッ!!!!
と言う甲高い音が聞こえた。
その瞬間、
「うぐ…ッ!?」
と洋介が呻き声を上げ、体を仰け反らせた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
真っ赤に焼け爛れる鉄を胸に押し付けられたように熱い。そして、そこから呼吸も出来ないほどの激痛が襲って来たその瞬間、
「…ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と、洋介は絶叫し、後ろへ倒れ込んだのだった。