慟哭の毒針 第5話
ダイナブラック・星川竜とダイナブルー・島洋介。
2人の関係は戦友だけに留まらないでいた。他のメンバーに知られることなく、2人は既に一線を越えていたのだ。
きっかけはほんの些細なことだった。
伊賀忍者の末裔で常に体と精神を鍛え、世間一般と言うものに全く縁のなかった竜がダイナブラックとなり、年下の海洋学者の卵であるダイナブルーとなる洋介と出逢う。最初は一匹狼を貫こうと思っていた。だが、少年と大人の挟間を行き来するその仕草や、目をキラキラと輝かせ、犬のように懐いて来る洋介に最初は戸惑うも、友情を越えた感情を持つのは時間の問題だった。
洋介も、まだまだ遊びたい盛りの未成年なのにダイナブルーとなり、心細さもあったのだろう。そんな時、誰よりも自分のことを気にかけてくれ、ダイナロボでは隣りに座り、常に緊張を解いてくれる竜に、こちらも普通ではない感情を抱くのは時間の問題だった。ダイナイエローに変身する南郷耕作の方が年が近いのに、一緒にいる時間を考えると圧倒的に竜と一緒にいる時間の方が長かった。
「…ど、…どうしたでござるかぁ、島ちゃあん?」
伊賀忍者の末裔と言う肩書はどこへやら、普段からひょうきんにおどける竜が驚いた表情で洋介のもとへやって来た。
「…うう〜ん…!」
鼻の穴にティッシュの紙縒りを詰め、額には冷たいタオルを載せてベッドに横になっている洋介。
「…あ〜♪」
竜はニヤリとすると、
「…さては島ちゃん。さっき、街ですれ違ったボディコンなお姉さんにノックアウトされちゃったでござるかぁ?いやぁ、若いなぁ!若いよッ、島ちゃんッ!!」
と、どこかのエロ親父のようなセリフを吐いたのだ。その途端、
「…んな…ッ!!…そッ、…そんなことないよッ!!」
と、洋介は顔を真っ赤にし、ムキになって起き上がった。だがすぐに、
「…あ…、…あぁぁ…!」
と言ったかと思うと白目を剥き、ベッドへ再び倒れ込もうとしたのだ。
「だッ、大丈夫でござるかッ、島ちゃんッ!?」
さすがの竜も慌てたのか、洋介を背後から抱えるようにしてゆっくりとベッドの上に横たえた。すると洋介は、
「…すみません…」
と謝って来た。
「…オレ…、…女の子への免疫が全くないんです…。…ずっと、…海洋学者になることだけを夢見て生きて来たから…」
その時、竜がニッコリと微笑んだ。そして、
「拙者と同じでござるな!」
と、優しい眼差しを洋介に向けた。
「拙者も、伊賀忍者の末裔として心と体ばかりを鍛えておったでござるよ。当然、女子と言うものには全く縁がなかったでござる!!」
カラカラと笑う竜。だがすぐに、相変わらずな悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「レイ殿はいかがでござるかな?」
と洋介に聞いた。
ダイナピンク・立花レイ。どことなくお嬢様育ちのコミュニケーション研究の専門家。だが、ジャシンカ帝国との戦いには男勝りに戦う。
洋介はニヤリと笑うと、
「そんなの、決まってるじゃないですか!」
と言った。そして、
「「無理ッ!!」」
と、竜と声を揃えて言ったのだ。
「「…プッ!!」」
2人同時に同じ声を上げたことがそんなに可笑しかったのか、竜と洋介は思わず吹き出していた。
「…考えていることは一緒でござるな!」
竜が笑えば、
「だって、レイは女の子には見えないでしょ。あれだけ強いわけだし、オレなんてすぐに投げ飛ばされるし…!!」
と、洋介も顔をくしゃくしゃにして笑った。
「言うねぇ、島ちゃんも!」
そう言った竜が突然、洋介が横になっているベッドに飛び乗り、洋介を抱き締めるようにして横になったのだ。
「…え?」
ドクンッ!!
自分の右横にいる竜の体の温もりに、ふわっと竜の体の匂いが鼻をくすぐったその時、洋介の心臓がドクンと音を立てた。
「…洋介?」
その異変にいち早く気付いたのか、竜が洋介に声を掛けた。
「え?」
「え?」
洋介が声を上げると、竜も同じように声を上げる。
「…い、…今、竜さん。オレのことを名前で呼んでくれた…」
「…ああ」
竜の優しい笑顔がそこにはあった。
「…何故かは分からないのでござるが、…拙者はどうやら、洋介に惚れてしまったようでござる…!」
「…竜…さん…?」
ジャシンカと戦う時の、あの悪を憎むその怒りに満ちた凛々しい顔とは全く違う、他のメンバーの前でこんな優しい顔を見せたことがあっただろうかと思うほどの竜の表情。
「…オレも…」
「うん?」
「…オレも…、…竜さんがいい…!」
「…洋…介…?」
屈託のない、純粋な眼差しで竜を見上げる洋介。心なしか、その顔が赤らんでいる。
普段の穏やかな笑みの竜も、ひょうきんな竜も、そして、ジャシンカと戦う時の怒りに満ちた表情も。そして、ダイナブラックに変身し、その筋肉質な肉体を見せ付けるようにするその動き。そして。そんなダイナブラックの光沢のある鮮やかな白いズボンに包まれた、竜の逞しい2本の足とその間に息づく竜の男としての象徴であるペニス。そのどれもが洋介を惚れさせていた。
「…オレも、…竜さんが好き…!」
その時、竜が物凄い力で洋介を抱き締めて来た。
「…くッ、苦しいよッ、竜さあんッ!!」
「…そうでござったかぁ!…まさか、両想いだったとは…!!」
照れ隠しなのか、洋介を強く抱き締めながらグイグイと体を揺する。だがすぐに、竜は洋介と向かい合った。そして、
「…本当に、…拙者でいいのでござるか?」
と聞いて来たのだ。すると洋介は、顔を赤らめながら、
「…竜さんがいい。…竜さんが傍にいてくれると、本当に気持ちが落ち着くんだ。…こんな、いつ死ぬかも分からないようなところだから…、…オレ、…自分の気持ちに素直になりたいんだ…!」
と言った。その途端、竜は再び洋介を強く抱き締め、
「死なせないでござるよ!洋介は、拙者が命に代えても守るでござる!!」
と言った。
「…うん…!」
トクン、トクンと言う竜の穏やかな心臓の音を聞きながら、洋介は竜の顔を見つめる。
「…洋介…」
「…竜さん…」
お互いの顔が自然に近付いて行き、
…チュッ!!…チュッ!!
と言うくすぐったい音を立てる。
「…ねぇ、…竜さん…」
「何でござるか?」
やはり顔が赤らんでいる洋介。そんな洋介の心を見透かしたかのように、
「…お互いに、…変身するでござるか?」
と、竜が悪戯っぽく笑った。すると洋介は、
「…うん…!」
と頷く。
「…では…」
竜はムクリと起き上がると、左腕を突き出し、反時計回りに腕を回し、
「ダイナッ、ブラックッ!!」
と叫び、左腕を引き、右腕を前へ突き出した。そして、その右腕もすぐに引いた途端、竜の体が眩しい光に包まれ、上半身は光沢のある鮮やかな黒色の、下半身は光沢のある鮮やかな白色のスーツに包まれた、ダイナブラックへと変身していた。
「オレもッ!!」
今度は洋介が起き上がると、竜と同じように左腕を突き出し、反時計回りに腕を回し、
「ダイナッ、ブルーッ!!」
と叫び、左腕を引き、右腕を前へ突き出した。そして、その右腕もすぐに引いた途端、洋介の体は眩しい光に包まれ、上半身は光沢のある鮮やかな青色の、下半身は光沢のある鮮やかな白色のスーツに包まれた、ダイナブルーへと変身していた。