慟哭の毒針 第8話
コツ、コツ…。
ぼんやりとする意識の中、ダイナブルー・島洋介は高らかに響く足音を背後で聞いていた。その足音はまるで、勝者の凱旋のように高らかに聞こえて来る。
「どうだ、ダイナブルー!懐かしきダイナブラックとの再会をセッティングしてやったのだ!」
ジャシンカ帝国王子メギド。相変わらず下衆な笑みを浮かべ、ニタニタと洋介を見つめている。洋介はゆっくりと背後を振り返ると、
「…メ…ギド…おおおお…ッッッッ!!!!」
と、低く唸るように言った。ゆっくりと振り向いた時、洋介の体に密着するように纏わり付いている光沢のある鮮やかな青色のスーツがキラキラと輝いた。
「…よくも…!…よくも…ブラック…を…!!…竜さんをおおおおッッッッ!!!!」
拳が怒りでブルブルと震える。だがメギドは、相変わらず下衆な笑みを浮かべているだけだ。
「…この…オオオオ…ッッッッ!!!!」
その瞬間、洋介の頭にカッと血が上った。そして、無謀にも牢獄の鉄格子を掴んだその時だった。
ビキビキビキビキッッッッ!!!!
物凄い音が聞こえた瞬間、洋介の体に激痛が走った。
「ぐぅわああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
体中を駆け巡る激痛と電撃に思わず叫び声を上げ、体を激しく震わせる。そして、
「ぐわッ!!」
と、衝撃で背後へ吹き飛んだ。
ドサッ!!
だが、吹き飛んだ後ろには、意識を失い、目を開けないダイナブラック・星川竜の体があり、それがクッションとなって洋介が床に体を叩き付けるのを防いだ。
「…りゅ、…竜…さん…ッ!?」
驚いて振り返る。
(…竜さんが…、…意識を失っていてもオレを守ってくれた…!)
まともな思考能力を持ち合わせていない洋介が、ぼんやりとそんなことを考えていた時だった、
「ハーッハッハッハッハ!!!!良かったなぁ、ダイナブルーッ!!ダイナブラックが貴様を守ってくれたじゃないか!!意識のない、無様な姿のダイナブラックが、意識を失っても貴様を助けたのだ!!ありがたく思うのだなッ!!」
その時、メギドの横にいた進化獣サボテンシンカが、
「だが、オレ様の攻撃はダイナブラックが守ってはくれんぞッ!!」
と言い、手にしていたものを高く掲げた。それを見た途端、
「…ッ!?」
と、洋介の目が見開かれる。
青い服を着た藁人形。その胸の部分には太い釘が突き刺さっている。
「…クックック…!!…今からお前はまた地獄を味わうのだ…!!」
そう言いながら、サボテンシンカはその藁人形を牢獄の鉄格子の前に突き刺した。
「…止めろ…!!」
俄かに洋介の声が震える。
「行くぞオッ!!」
気合いを入れるかのように威勢良く言うと、サボテンシンカはハンマーを振り下ろした。その瞬間、
カ――――ンンンンッッッッ!!!!
と言う金属音が鳴り響き、
「うぐわああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、洋介が胸を押さえ、再び背後へひっくり返った。
「そぉれッ!!それそれええええッッッッ!!!!もっとだッ!!もっと苦しめええええッッッッ!!!!」
カ――――ンンンンッッッッ!!!!カ――――ンンンンッッッッ!!!!
サボテンシンカがハンマーを振り下ろし、藁人形に突き刺さった太い釘を打ち付けるたび、洋介の胸に呼吸出来ないほどの激痛が走る。灼熱のものが突き刺さったようなそんな感覚を覚え、
「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と悲鳴を上げながらゴロゴロと牢獄の中を転げ回る。その間も、
カ――――ンンンンッッッッ!!!!カ――――ンンンンッッッッ!!!!
と言うサボテンシンカのハンマー音が鳴り響き、
「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と、
「…も、…もうッ!!…止めてくれええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と言う洋介の悲鳴が響き渡った。
「…はぁ…ッ、…はぁ…ッ!!」
どのくらい叫び続け、床の上を転げ回っただろう。
今、洋介はぐったりと床の上に蹲っていた。目は虚ろになり、大量の汗をかいている。
「…あ…、…うううう…ッッッッ!!!!」
サボテンシンカの呪いの藁人形のせいで、未だに体に激痛が残っている。そのせいで、体が思うように動かない。
「…ククク…!!」
そんな洋介の様子を見て、メギドが低い笑い声を上げた。
「おいッ、ダイナブルーッ!!」
「…」
洋介は辛うじて視線だけを動かす。
「まだ終わったわけではないぞ?」
「…も、…もう…、…止めて…くれ…!!」
ヨロヨロと立ち上がる洋介を見て、メギドはフンと鼻で笑った。そして、
「これからが本当の地獄なのだ!!」
と言った。
「…ク…ッ!!」
それでも何とか身構える洋介。その時だった。
「…なッ、何だッ、それはッ!?」
洋介が驚いて声を上げるのも無理はない。サボテンシンカの天頂部。そこに毒々しいほど真っ赤な棘が1本突き出ていたのだ。
「…クックック…!!」
サボテンシンカが静かに笑う。
「これを使って、貴様を本能の赴くままにしてやろうと思ってな!!」
「…何を、…言って…?」
嫌な予感がした。
「ダイナブルーッ!!貴様、ダイナブラックに惚れていたようだな!!」
「!!!!」
嫌な予感と言うものは当たるもので、その瞬間、洋介の心臓がドクンと高鳴った。
「…ま、…ま…さ…か…!!」
顔が火照るように熱い。真っ赤になっているのが分かった。そして、その顔からたらたらと汗が流れるのも感じ取っていた。
「見ていないとでも思っていたのか!!貴様がこの薄暗い牢獄の中で、意識のないダイナブラックとまさかあのようなことをするとはな!!それを見てこの作戦を思い付いたのだッ!!」
そう言った瞬間、
「やれええええいッ!!サボテンシンカああああッッッッ!!!!」
と叫んだ。
「食らえいッ!!」
サボテンシンカの天頂部の毒々しいほど真っ赤な棘が輝きを増す。そして、
バシュウウウウッッッッ!!!!
と言う音と共にそこから放たれた。
異変はその時、起こった。なんと、洋介の視界から消えたのだ。
「…え?」
と思ったのも束の間、
ドシュッッッッ!!!!
と言う音と共に、洋介は左胸に激痛を感じていた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
サボテンシンカの天頂部から放たれたあの真っ赤な棘が突き刺さっている。そして、シュッと言う音と共に、洋介の胸の中へ吸い込まれて行ったのだ。
「…ひぃぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、洋介は左胸を押さえて体を大きく仰け反らせ、バタアアアアンと言う大きな音を立てたのだった。