刹那の夢 第1話
その日、世界中のテレビ会社の映像がジャシンカ帝国によってジャックされていた。ありとあらゆるモニターに映し出された卑猥な映像。
足を肩幅よりやや広めに広げ、ボロボロになったスーツからは自身のペニスを突き出させているダイナブラック・星川竜と、そんな竜のペニスを口に含み、恍惚な表情を見せているように見えるダイナブルー・島洋介。そんな洋介の頭の上に、竜は静かに手を置いている。
そして、竜の筋肉質な双丘が時折、ビクッ、ビクッ、と伸縮運動を繰り返し、同時に、腰が前後に痙攣するように動く。洋介はと言うと右手で自身のスーツから飛び出したペニスを握り、その先端からはトロトロとした淫猥な液体が糸を引いていた。
お互いに目を閉じ、そうしている姿は、ジャシンカ帝国に捕らわれているのを忘れさせるほど美しく、まるで2人が無意識の世界の中で愛し合っているかのようにも見えた。
それに対して非難や罵声を浴びせる民衆。ジャシンカ帝国から自分達を守るべきヒーローが淫乱な姿を曝け出し、逃げ腰とも取れる姿でモニターに映っているのだ。戸惑いと、絶望とが入り乱れる、まさに混沌とした状態に彼らはいた。
その時だった。
パッとモニターの映像が変わったかと思うと、1人の男が映し出された。
「愚かなる地球の者共よッ!!」
その目はギラギラと野望に満ち、その手には毒々しいほどの赤色で、そこからもくもくと白いガスのようなものが溢れ出すグラスを手にしている。そして、その液体の上にはやや白みを帯びた、粘着質な液体の塊が浮かんでいた。
ジャシンカ帝国の若き王子・メギド。その体付きは心なしかふっくらとし、ギラギラと光る目にもどこか精気が漲っているようにも見えた。
「見たかッ!!これがジャシンカ帝国の力ッ!!お前達を守るはずのダイナマンでさえ、我々の前ではこのような無様な姿になるのだッ!!」
その時、モニターが遠くへ引いて行き、竜と洋介が再び映し出された。どうやら2人は透明なガラスのケースの中に入れられ、完全なるオブジェと化していた。
「今ならまだ許してやる!許しを請え!」
ニタニタと相変わらず下衆な笑みを浮かべるメギド。
「お前達が住む地球は既にジャシンカ帝国の支配下に置かれているのだ!!ダイナマンなど、最早、敵ではないッ!!お前達が生き残る道はただ1つ!!惨たらしく死にたくはないだろう?だとしたら、お前達が生き残る道はただ1つ!!我々ジャシンカ帝国に忠誠を誓い、死ぬまで我々ジャシンカ帝国の手となり足となり、働くことだッ!!ハーッハッハッハッハ…!!」
メギドの勝ち誇ったような高笑いが聞こえ、やがてモニターの映像はぷつんと途切れた。
東京近郊のダムにカモフラージュされたダイナステーション――。
その司令室は今、重苦しい雰囲気に包まれていた。どこを見ているのかも分からないかのように、視線を落としている夢野総司令。イライラを隠し切れず、司令室内を行ったり来たりしているダイナレッド・弾北斗、22歳。椅子に腰掛け、ぼんやりと佇むダイナピンク・立花レイ、18歳。その目には涙が光っていた。
だが。
この男だけは、苦虫を潰したような苦悶の表情を浮かべていた。
(…オレが…!)
唇をギュッと噛み締め、握り締めた拳をブルブルと震わせ、今にも泣き出しそうな表情をしている。ダイナイエロー・南郷耕作、20歳。
(…オレが…、…あの2人にあんなことを教えなければ…!)
思い当たる節がある南郷は、まさかそのようなことを他の面々に告げることが出来ず、独りで苦しんでいた。
(…オレが…、…竜さんと島の恋のキューピッドをしてしまったから…!)
そうなのだ。
竜と洋介の永遠の恋は、南郷によって結び付けられたものだったのだ。
ドカアアアアアアアアンンンンンンンンッッッッッッッッ!!!!!!!!
激しい衝撃と共に、けたたましい爆発音が響き渡った。
「…うう…ッ!!…ゲホッ!!…ゲホ…ッ!!」
もくもくと湧き上がる煙の中から、顔中を煤で汚した男が姿を現した。少年と大人の間のあどけなさを残す顔。その目にいっぱい涙が溜まっている。島洋介、18歳。
「…も、…もう…ッ!!…何やってるんですかあッ、竜さああああんんんんッッッッ!!!!」
煙が目に沁みるのか、目をしょぼしょぼさせ、顔を真っ赤にして言う洋介。
「ゲホッ!!ゲホッ!!」
もくもくと湧き上がる煙の中から、もう1人、男が姿を現した。メッシュ生地の真っ黒な生地の洋服を身に纏い、微笑むと目がなくなるほどの大人な男性。星川竜、22歳。
「いやあ、失敗失敗。どこの回路の配線を間違えたでござるかなぁ?」
独特の言葉遣いで、照れ笑いをする竜。その顔も洋介と同じように煤で汚れている。
「しかし、島ちゃんッ!!失敗は次への成功の近道でござるぞッ!!こんなことで拙者は諦めないでござるッ!!」
「…って言うかさぁ、竜さあん…」
ややうんざり気味に、呆れたような声を上げる洋介。
「本当に宇宙人さんとの交信を夢見てるんですかあ?まだまだ今の科学では解明されていないことが多いって言うのに、そんな、いるかいないかも分からないような宇宙人さんを探したって仕方がないでしょう?」
「島ちゃんッ!!」
その時だった。竜が真剣な眼差しで洋介と向かい合ったかと思うと、バンッ、と言う音を立てて洋介の両肩を叩いた。
「痛ったッ!!」
そのあまりの衝撃に、洋介は悲鳴に近い声を上げる。
「…島ちゃん…。…拙者よりも若いのに、夢がないでござるなぁ…」
いかにも残念そうな表情を見せる竜。
「…これは男のロマンでござるよ。いるかいないか分からない相手だからこそ、一生懸命に探すのでござる。何万光年、いや、何億光年と離れた、地球と同じような生態系を持った宇宙人さんとお話が出来たら、それはそれで素敵なことではござらぬか?まるで、運命の恋人を探すかのように…!!」
少年のように目をキラキラと輝かせ、力説をする竜。
「…そう…、…かもしれないですけど…。…こんなに毎回毎回、爆発を繰り返していたら、宇宙人さんだってびっくりして寄って来てもくれないですよ?…それに、僕と竜さん、4つしか離れていないんですよ?竜さんだってまだまだ若いじゃないですか」
「いやいやいやいや。4つも離れていたら、拙者は十分、じじいでござるよ!!」
カラカラと笑う竜。
「…爆発の煙で、そのまま白ひげのじじいになっちゃえば良かったのに…」
ぼそっと呟く洋介に対して、
「え?何か言ったでござるか?」
と、耳に手を当てて尋ねる竜。
「いえいえ、何も!!」
洋介が誤魔化し笑いをしたその時だった。
「ありゃりゃりゃ!!また派手にやったねぇ、竜さあん!!」
1人の男性が2人がいる部屋へ駆け込んで来た。黄色のトレーナーを着て、その上にジージャンを羽織り、ぴっちりとしたジーパンを穿いている。南郷耕作だ。
「今度はどこを間違えたんだい?」
湧き上がる煙を手で払う仕草をしながら、目をしょぼしょぼさせて耕作は竜に尋ねた。南郷の言い草からすると、爆発は今回が初めてではないようだ。
「いやあ、拙者も分からないんでござるよぉ…。一体、何を間違えたでござるかねぇ…?」
「とにかくッ!!」
突然、洋介が大声を上げ、スクッと立ち上がった。
「僕はこれ以上は付き合いきれませんッ!!毎回毎回爆発を繰り返していたんじゃ、そのうち、僕までもが爆発しちゃいそうですからッ!!」
「え!?ちょ、ちょっとッ、島ちゃんッ!?」
あまりに突然の宣言に、竜の素っ頓狂な声が聞こえた。
「ま、待ってッ!!島ちゃんッ!!拙者を独りにしないで下されッ!!」
煙と埃が舞い上がる中で慌てて駆け出したものだから、竜は足元の障害物に躓き、
「え!?…あ、…うあッ!?ああああッッッッ!!!!」
と、派手な音を立ててひっくり返った。そんな竜を、洋介はちらりと見たが、
「…ふん…ッ!!」
とそっぽを向き、スタスタと出て行ってしまった。
「…そんなぁ…。…島ちゃあん…!」
泣きべそをかく竜が、そこにはいた。