逆襲のゴルリン 第1話
「ガロアッ!!…ガロアッ!!」
人の目に付きにくい、険しい岩山の陰に潜んだところ。そこには巨大な虫のさなぎのような要塞が、2本のサーベル状のものを支えにして静かに鎮座していた。
銀河戦艦バルガイヤー。銀帝軍ゾーンの本拠地。
場所は地球。彼らは宇宙の荒くれもので、今まで999個の星を滅ぼしており、地球を1000個目の標的に選んだ。そして、オーロラと共に聞こえて来るヒステリックな女性の叫び声。そのガスの塊のようなところに恐ろしい女性の顔が浮かび上がる。
銀河皇帝メドー。銀帝軍ゾーンの支配者。
「ははーッ!ガロア、こちらにッ!!」
真っ白な髭面の顔、顔に似つかわしくないほど大きな赤い兜を抱えたがっしりとした体格の男が恭しく跪いた。
「貴様ッ!!いつになったらファイブマンを倒せるのだッ!?」
「お任せ下さい、準備は着々と…」
「その言葉は聞き飽きたわッ!!」
その瞬間、凄まじい轟音と共に突風が吹き荒れ、
「ぬおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
とガロアがゴロゴロと転がる。
「…いつもいつも同じ答えを…!!一体、いつになったらファイブマンを倒せるのだッ!?」
ぎょろっとしたメドーの目がいつも以上に大きく見開かれている。
「…おッ、…落ち着かれませッ、メドー様ッ!!」
「誰のせいでこのように苛立っていると思っているッ!?」
ゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
再び突風が吹き荒れ、
「ぐはああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
とガロアが再びゴロゴロと転がる。
「…メッ、…メドー様ッ!!…今度は、…今度こそは、…本当でございますッ!!」
近くにあったものに掴まり立ちをしながら、ガロアがヨロヨロと起き上がる。
「…憎っくきファイブマンを、誰か1人でも倒せば良いのです!彼らの中の誰かが我らによって倒されれば、彼らの絆や、我々に立ち向かう様々な武器は皆、宝の持ち腐れとなりましょう!」
「…どうするのだ…?」
それでも半信半疑なのか、メドーが低い声でガロアに尋ねる。するとガロアは、
「ゴルリンッ!!ゴルリーンッ!!」
と大声を上げた。
ドスッ!!ドスッ、ドスッ!!
その時、バルガイヤー内部に大きな地響きが伝わった。
「…ゴルリン…だと…?」
某ホラー映画に出て来るような、全身まるまる太った真っ白な生命体がガロアの背後にいる。
「…ガロア…。…ゴルリンは本来はもっと巨大なエイリアンのはず…」
メドーが不審げに尋ねると、ガロアは、
「仰る通りでございます、メドー様。本来、ゴルリンは白い体をした巨大な改造エイリアン。本来は、ファイブマンの必殺技で倒された銀河闘士の体を吸収して再生、巨大化させる役割を持つ、言わば、銀河闘士の魂の憑代。その憑代を更に改造し、より凶暴に、より知能を持ったゴルリンType Bを作り出しましてございます」
と言った。
「…それで、…どうするのだ…?」
メドーはまだ半信半疑だ。無理もない。今までのガロアのツケがそうさせているのだから。だがガロアはフフンと笑って、
「既に手を打ってあります。ファイブマンの中で一番体力があり、パワーファイター系であるファイブブルー・星川健をターゲットにし、暗黒武術会へ誘い出すのです!」
と言った。
「…暗黒…武術会…?」
メドーの表情がピクリと動く。
「はい。この地球の侵攻にはたくさんの銀河闘士を投入しております。その中にファイブブルーも誘き寄せるのです。誰が一番強いかを競わせるために…!!日頃から力自慢のファイブブルーのことです、あっと言う間に我々が仕組んだ罠に引っ掛かってくれることでしょう!」
「…上手く出来るのだろうな…?」
メドーが尋ねると、
「お任せを!今度こそ、必ずや、ファイブマンを破滅に追い込んでご覧に入れます!」
と自信満々と言った表情で体を踏ん反り返らせて言った。
「…良かろう…!」
メドーの顔に笑みが浮かぶ。
「ゴルリンType Bでファイブブルーを倒すのだ!」
そう言うと、メドーはガスの塊に紛れるようにスゥッと姿を消した。
「…やれやれ…、…口喧しいババアだ…!」
突然、ゴルリンType Bが言葉を発し、ガロアはぎょっとした表情を浮かべる。
「…きッ、きッ、貴様ッ!!メドー様へ向かって何たる口の利き方を…!!」
「…フン!」
だがゴルリンType Bは鼻で笑ったかと思うと、
「どの道、ファイブブルーを倒せばいいんだろ?」
と言った。
「…あ?…あ、…ああ…」
ガロアが言葉を失うと、
「後は俺がやりたいようにやる。任せておくんだな!」
と言い、ゴルリンType Bはドスッ、ドスッ、と音を立てながらバルガイヤーを出て行った。
「バツラー兵ッ!?」
街の中に突如として現れた全身黒ずくめの大群。ゾーンの戦闘兵で胸にゾーンの紋章が描かれた黒いタイツに、甲殻類のような肩当て、×の字のような模様が刻まれた顔と言う姿をしている。
バイクを飛ばし、街の中のパトロールに当たっていた星川健は慌ててバイクを下り、
「行くぞオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!」
とバツラー兵の大群の中へ飛び込んで行った。
星川健、25歳。表向きは小学校の教師をしているが、実のところ、銀帝軍ゾーンの地球侵略に立ち向かう戦士でもあった。
更に、健には1人の兄と3人の弟妹がいる。つまり、健は次男で、長男の学は27歳、三男の文矢は20歳、長女の数美は23歳、次女のレミは文矢と二卵性双生児で20歳だった。この兄弟で銀帝軍ゾーンの侵攻を食い止めるべく、5人で地球戦隊ファイブマンと言う組織を結成していた。学はファイブレッド、健はファイブブルー、文矢はファイブブラック、数美はファイブピンク、そして、レミはファイブイエロー。
「行くぞぉッ!!」
健はそう叫ぶと左手に装着しているVチェンジャーブレスを腰に引くと、
「ファーイブッ、ブルーッ!!」
とそれを天高く突き上げた。その瞬間、健の体が眩しく輝き、次の瞬間、健の体は光沢のある鮮やかな青色のスーツに包まれていた。
全身を覆うそれはキラキラと輝き、体にぴったりと密着している。両肩から臍へ向かって白と黄色のVラインが伸び、その中心部分には銀色のプロテクターが存在する。マスクの額部分には運動をしている人間の形がモチーフにされ、パワーディバイダーシステムと呼ばれるパワーを調整して30秒だけ3倍の力を発揮できる装置を有していた。
「行くぞおおおおッッッッ!!!!」
そんな健だからこそ、武器を使わずとも生身で突進し、敵を薙ぎ倒すことなど、容易いことだった。
だが、それが仇となることを、この時の健は知らないでいた。