最強獣戦士誕生! 第1話

 

 地底――。

 人間の想像を遥かに超越した世界がそこには存在していた。地上と同じように平地と山が存在し、分厚いガスで覆われている。その窪んだ一角、地上で言う盆地のようなところに、巨大な円盤が静かに佇んでいた。その前部中央は巨大な一つ目のような、赤い不気味な外観を備えている。

 改造実験基地ラボー。大昔から宇宙を渡り歩き、生命改造実験を繰り返してきた流浪の帝国・改造実験帝国メスの本拠地である。ラボーは、生命豊かな惑星をターゲットとし、そこに住む全ての生物を実験体として捕らえ、非人道的な改造実験を行なって来た。

 今、そのラボーから不気味な音楽が聞こえている。パイプオルガンのような音だが、そのメロディは短調で、時に激しく、時に静かに奏でられていた。まるで、死者に手向ける鎮魂歌(レクイエム)のように――。

 と、その音が幾重にも重なり、不協和音を響かせた。

「…ダメだ…」

 ラボー内。薄暗く、床にはガスが立ち込める広間のようなところに、1人の男が立ち尽くしていた。黒いローブを身に纏い、杖を付いた初老の男。リー・ケフレン。

「…また失敗か…!」

 大きく溜め息を吐く彼の目の前には、ガラスのような素材で出来た機械があった。

 遺伝子シンセサイザー。生命改造実験を繰り返す機械と言った方が早いだろうか。彼がこのシンセサイザーを奏で、様々な生命の遺伝子を操作し、彼らの下僕である獣戦士を作り出して来た。先の不協和音は、彼が苛立ちから一度に鍵盤をいくつも叩いたことによるものであった。

「ケフレン様!」

 広間の奥から、男女が1人ずつ現れた。

「いかがなされたのですか!?

 白虎のような縞模様の体、その背中には大きな翼を持っている男、レー・ワンダが声を掛ける。

「…実験は、…失敗だったのですね…?」

 半身が豹のような模様で、半身は機械に覆われている女、レー・ネフェルが心配そうに言う。

「…」

 するとケフレンは、無言のまま、ゆっくりと視線を動かす。その視線を追いかける2人。

 そこには何十人と言う男達が、放射線状に置かれたベッドの上に縛られ、ぐったりと横たわっていた。彼らは全裸で生気がない。蒼白く、時折、ピクピクと腰を跳ねらせる者がいた。そんな彼らの足元に衣服が散乱している。競泳用水着、サッカーや野球などの様々なスポーツユニフォームなど。

「…これだけの強靭な肉体を持つ人間を以ってしても、最強の獣戦士を生み出せぬとは…!!

 大きく溜め息を吐き、ケフレンはそう言うと、グッタリしている男達の横を歩き始めた。ワンダとネフェルが後を追うように歩く。

「…これでも足りぬと言うのか…ッ!?

 ケフレンが、彼らの中央に置かれたガラスの容器を静かに持ち上げる。その中には、濃白色の液体が並々と入っており、強烈な異臭を発していた。

「…な、何ですかッ、この臭いッ!?

 ワンダが思わず眉をひそめる。ネフェルも呆然としている。

「…これが、その者達から搾り取ったものだ」

「…それは…?」

 ネフェルがケフレンに尋ねる。

「動物のオスが持つ精液と言うものだ。この中には精子と言うものが存在し、メスが持つ卵子と結合することで子供が誕生する仕組みになっている。そしてこの精子の中には、個体を表すための遺伝子が存在する。本来は生殖機能として働く精子なのだが、これはオスが快楽を得た時にも出て来るものなのだ。…ここからな!」

 ケフレンはそう言うと、1人の男性に近付き、下半身の付け根にある男性としての象徴・ペニスを親指、人差し指、中指で持ち上げた。その先端には管が取り付けられており、それが中央の容器まで伸びていたのである。その管は、放射線状に置かれたベッドに横たわった全ての男達のペニスに取り付けられていた。

「屈強そうな男達をゾローに拉致させ、ペニスに管を通し、遺伝子シンセサイザーが奏でる音によって快楽を引き起こし、射精させてこれらを集めた。…だが…」

 ケフレンは全ての男達を侮蔑するかのようにグルリと見回した。白目を剥いている者、快楽に溺れ、不気味な笑みを浮かべ、涎を垂らして自我崩壊に陥っている者。

「こやつらは全て、強靭な肉体を持つとは言え、強靭な精神力は持ち合わせてはいなかった。ただの性の快楽に溺れた者達ばかりだった…」

「汚らわしいッ!!

 ワンダが大声を上げた。

「こんな下賎なやつらが、この地球上で一番偉いのですかッ!?こんな、サルのようなやつらが…ッ!!

 ブルブルと怒りに体を震わせるワンダ。ネフェルは驚きのあまり、声が出ない。

「…フフ…ッ…!!

 不意にケフレンが笑い始めた。

「…ケフレン…様…?」

 ようやくネフェルが声を上げた。

「…ワンダよ。…お前は私に似ておるな…」

「え?」

「…私と同じく、人間を毛嫌いしておる…」

「…あ、…当たり前でございます!…人間など、…人間など…ッ!!

 ワンダはそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた。

「ケフレン様。これからどうなさるおつもりですか?」

 ネフェルが尋ねる。するとケフレンの表情が曇った。

「…屈強な肉体を持つ男達でも、最強の獣戦士を作り出すことが出来ぬとなると…。…やはり、あやつらでなければ、ならぬと言うことか…」

「…あやつら?」

 ワンダが尋ねる。するとケフレンの眼差しが鋭くなり、

「フラッシュマンだ」

 と言った。

「レッドフラッシュ、グリーンフラッシュ、ブルーフラッシュ。地球から誘拐され、フラッシュ星で育った彼らは地球の男性に比べれば、遥かに超越した存在。精神力、体力、知力、どれを取っても見劣りしないであろう。あの3人から搾り出される精液を使えば、この世で最強の獣戦士を作ることが出来るかもしれぬが…」

「しかし、どうやって!?

 ネフェルが慌てて言う。

「大帝ラー・デウス様から頂いたデウス遺伝子を使って生み出したデウス獣戦士でさえも、やつらにやられてしまったのですよ?」

 するとケフレンは、

「…1人ずつ倒して行けば良いだけのこと…」

 とニヤリと笑った。

「やつらは5人揃うと強大な力を発揮する。だが1人ずつだと弱い。それぞれに弱点があるからだ。そこを突いて行けば良いだけのこと」

「しかし、1人ずつ、どのように誘き寄せるのですか?」

 ネフェルがそれでも不安そうに言う。

「これは、やつらの関係者に変装して誘き寄せるしか方法はありませんな?」

 ワンダがあっけらかんと言う。

「…変装…?」

 ケフレンがギロリとワンダを睨む。するとワンダは、はっとした表情になって、

「…こ…ッ、…これは…ッ、…ご無礼を…ッ!!

 と言った。真っ白い顔が更に白くなったように見える。

「…ククク…!!

 不意にケフレンが笑い始めた。

「…ケフレン様?」

 ネフェルが訝る。

「…ワンダよ。…力自慢だけで、頭脳はそんなに賢くないかと思っていたが、意外と思考能力があるのだな…!」

 その目は自信に満ち溢れている。

「…イメージが出来たぞ!…私が作り出す、渾身のデウス獣戦士のな!!

 するとケフレンは、ツカツカと遺伝子シンセサイザーの元へ歩いて行く。

「…は、…はぁ…」

 ワンダは、自分がバカにされていることすら分からないまま、目をパチクリさせた。

 それから数分。ケフレンは遺伝子シンセサイザーを奏でていた。その音色は今までにないほど力強く響いていた。

「誕生ォッ!!デウス獣戦士ザ・モシャァスッ!!

 遺伝子シンセサイザーの横に置かれている特殊な装置の中に、おぞましい姿の獣戦士が佇んでいた。

「獣戦士ザ・モシャスは、様々な擬態をする生命体の遺伝子を取り込んでいる。姿かたちだけを真似るだけではない。その者の性格や癖、行動パターンなども全て読み取るのだ!まさにコピーとしての役割を果たすのだ!」

 するとケフレンは、フラッシュマンと様々な獣戦士が戦っている過去の記録をモニターに映し出した。

「…これは…?」

 暫くするとケフレンがポツリと呟いた。

「ケフレン様?いかがなされたのです?」

 ネフェルが問い掛ける。

「…第1のターゲットは、グリーンフラッシュだ…!!

 ニヤリとして言うケフレン。

「獣戦士ザ・モシャスよッ!まずはこの少年に擬態するのだ!」

 ケフレンがモニターに映った少年を杖で指した。

 モニターの中には、獣戦士に襲われそうになった少年をグリーンフラッシュ・ダイが助け出し、彼の目の前でプリズムフラッシュをし、グリーンフラッシュに変身するところも映っていた。その少年は小学校高学年から中学生くらいだろうか。ザ・モシャスは暫くじっとその少年を見つめていたが、次の瞬間、全身が光り、映像の中の少年と瓜二つの少年が現れた。

「ザ・モシャスよッ!!大人の男を存分に甚振って来るがいいッ!!そして、グリーンフラッシュの遺伝子を吸い尽くして来るのだッ!!

 ケフレンがそう言うと、少年に擬態したザ・モシャスがニヤリと笑って頷いた。

 

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