最強獣戦士誕生! 第19話
「ダイーッ!!ブンーッ!!」
バイクのエンジン音を響かせながら、一人の男性が野山を駆け巡る。
赤いヘルメットに、黒と茶色、白であしらわれた洋服を身に纏っている。その額には赤と銀のバンドのようなものが巻かれていた。
「ダイーッ!!ブンーッ!!」
やや高めの声を上げ、腕に巻かれたものに必死に呼びかける。だが、そのテクノブレスは無情にも何の反応も示さなかった。
ジン。3歳の時、エイリアンハンターによって地球から誘拐され、その20年後に、改造実験帝国メスから地球を守るために、レッドフラッシュとして帰って来た。そんな彼は、グリーンフラッシュ・ダイ、ブルーフラッシュ・ブン、イエローフラッシュ・サラ、ピンクフラッシュ・ルーの兄貴分としていつも4人を取りまとめ、リーダーシップを取っていた。
数時間前まで、ジンは心地よい眠りに就いていた。その時、夢を見た。どこかも分からない、何もない空間で歩いている自分。
コツコツ…。
すると背後から足音が聞こえ、振り向くとそこにはダイとブンが微笑んでいた。
(…ダイ…。…ブン…)
ゆっくりと2人に近付く夢の中のジン。すると突然、ダイがグリーンフラッシュに、ブンがブルーフラッシュにプリズムフラッシュし、ジンを羽交い絞めにしたのだった。
(…なッ、…何を…ッ!!)
突然のことに驚くジン。そして、目の前に現れた人物に驚愕する。
(…オレが、…もう1人…ッ!?)
もう1人の自分が目の前に立っていた。しかも、レッドフラッシュにプリズムフラッシュした状態で。
間違うはずはない。レッドフラッシュにプリズムフラッシュしているとは言え、マスクは被っていない。つまり、自分自身だと分かる顔が出ていたのだから。ただ、その視線はギラリと輝き、口元はニヤニヤと笑っていたのである。その手には真っ赤なクリスタルソード・プリズム聖剣が。
「…死ね、…ジン…!!」
もう1人のジンが、プリズム聖剣を振り上げた。
「うわああああッッッッ!!!!」
プリズム聖剣が振り下ろされた瞬間、ジンは自分の叫び声で目を覚まし、ベッドの上に跳ね起きた。
「…はぁ…、…はぁ…!!」
顔中に冷や汗を浮かべ、目を忙しなく動かすジン。
「…ま、…まさか…ッ!?」
ある種の悪い予感がジンを突き動かし、ジンはバイクに跨り、ラウンドベースを飛び出していた。
「ダイーッ!!ブンーッ!!」
やけに吐き気がする。今日は妙な胸騒ぎがしてならない。
(…変だ…!)
息苦しくなる。いつもなら、悪い夢を見ても、すぐに忘れていた。でも、今日は違う。やけに夢見が悪い。
(…本当に、…あの2人に何かあったんじゃ…!)
いつも冷静なジンが、この時ばかりは違っていた。妙な焦燥感がジンを襲う。気のせいだと思う自分もいるのも確かだ。だが、その楽天的な気持ちよりも、今日はとてつもない焦燥感に駆られている自分の方が強い。
その時だった。
「!」
そんな時でも、ジンは危険な匂いをすぐに感知する。
静かにバイクのエンジンを止めた。
(…何かがいる…!)
そっとヘルメットを外し、辺りを窺う。しんと静まり返り、風だけが吹き抜ける音がする。
「…」
神経を研ぎ澄ませるジン。と、その時だった。視界の片隅に何かが入った。
(!?)
ジンは何かが飛来して来るのを認め、咄嗟に地面に倒れ込んだ。
カラン!
乾いた音が聞こえた方を見たジンは目を大きく見開いた。
(…嘘だ…ッ!!)
そこには、真っ赤なクリスタルソード・プリズム聖剣が落ちていたのだ。
「…ど、…どうしてこれが…!?」
ゆっくりとそれに近付くジン。そして、それを手に取ろうとしたその時だった。
カチカチと時を刻む音が聞こえる。
(爆弾ッ!?)
瞬時に身を翻すジン。と同時に、プリズム聖剣が大爆発を起こした。
ドオオオン、と言う爆音と、
「うわああああッッッッ!!!!」
と言うジンの悲鳴。そして、ジンの体が宙を舞い、次の瞬間、どさりと地面に叩き付けられた。
「…う、…ぐぅ…ッ!!」
全身を激しく打ち付けた痛みで気を失いそうになる。
ザッ!
土を蹴り上げる音を聞き、何とかして神経を集中させるジン。
正面から誰かが近付いて来る。
「…なん、…だと…!?」
その者を認めた瞬間、ジンが驚きのあまり声を上げた。
「…ククク…!!」
低い笑い声をさせながら近付いて来る一人の男。腕は白、その他は真っ赤な生地で覆われている。
どこをどう見ても疑う余地はなかった。
レッドフラッシュ。プリズムフラッシュした自分が正面から静かに歩いて来たのだった。