性獣の生贄 第6話
「…な、…何…だって…!?」
来斗が放った衝撃的な一言を聞いた瞬間、ギンガブルーにギンガ転生しているゴウキはその場で凍り付いたかのように動かなくなった。
「だぁかぁらぁ、聞いてなかったのかよぉ…!」
赤いジャケットを着た少年・来斗がうんざり気味に言った。
「勇太の体から溢れ出て来る黒い靄は、そいつ自身の生命力なんだよ。その靄が消えた時、そいつは死ぬことになるつったんだよッ!!」
来斗がそう言うと、その横で青いジャケットを着た少年・晴と、緑色のジャケットを着た少年・洸がニヤニヤと笑った。
「全く、バカだよねぇ、ゴウキは!」
晴がメガネのフレームをクイッと上げながら言う。
「そんなことも全く気付かなかったんだもの」
「いやいや、その前に俺達がバルバンの手先だったってことにも気付いていないんだし。あれだけちょっかいを出しまくっていたのにね…!」
洸が蔑んだ眼差しでゴウキを見つめる。
「…そッ、…それは…ッ!!」
よくある光景だと思っていた。
大人の、爽やかでガッシリとし、大人からも子供からも人気のある若い教職員。言ってみれば、教育実習にやって来る大学生に甘えるようにじゃれ付く子供達。その幸せな風景が、ゴウキの目の前にあるのだとばかり思っていた。まさか、この3人がゴウキ達が倒さなければならない宇宙海賊バルバンの手先だなんて、微塵にも感じなかったのである。
「まぁ、いいや」
その時、来斗がそう言った。
「どっちにしても、勇太は死ぬ運命だよ」
「…や、…止めろ…!!」
ギンガブルーのゴリラを模したマスクの中で、それまで精悍な顔付きだったゴウキの顔がみるみる崩れて行く。
「…たッ、…頼むッ!!来斗君ッ!!晴君ッ!!洸君ッ!!…勇太の、…いや、…勇太だけじゃない、…この世界中のみんなの命を奪うようなことだけはしないでくれッ!!」
「…別に止めてあげてもいいけどぉ…」
すると来斗がちょっと困ったような顔をした。
「勇太の生命力を吸い上げているの、オレ達なんだよねぇ!」
「…ど、…どう言うこと…だ…?」
更に衝撃的な言葉に、ゴウキは言葉を失う。
「あのね、僕達3人でこの術をかけているんだよ。だから、この術を止めるには誰かを倒せばいいんだけどねぇ…」
そう言った晴が悲しげな表情を浮かべる。
「…ゴウキ、…俺達を倒せるの?」
洸が意地悪くニヤリと笑う。
「ゴウキは既に若竹小学校中の人気者なわけだし、学校だけじゃなく、子供達の親にも知られている。ゴウキ自身がギンガブルーであることもね!」
「それなのに、児童に手を出しただけじゃなく、殺してしまった、なんてことが知れ渡ったらとんでもないことになるよね!」
来斗もニヤニヤと笑っている。
「…く…ッ!!」
怒りでゴウキの体中が震える。ギンガブルーの真っ白なグローブがギリギリと音を立てる。
「あ、因みに、児童に手を出して殺してしまったって言うのは、オレ達だけじゃないぜ?」
来斗が勝ち誇ったようにフンと笑う。
「てめえのせいで、勇太までもが死ぬことになるってことだッ!!」
その瞬間、来斗の瞳がギラリと光り、不気味な笑みが顔に浮かんだ。それを見たゴウキの体に熱い何かが駆け巡った。
「うおおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
次の瞬間、ゴウキが雄叫びを上げた。
「おおおおおおおおッッッッッッッッ!!!!!!!!」
そして目の前にいる3人に物凄い勢いで飛び掛って行ったのである。
「フンッ!!」
それでも来斗は余裕の笑みを浮かべると、
「行くぞ、晴ッ!!洸ッ!!」
と言い、正面に晴だけを残し、2人は左右に大きく飛び退いたのである。
「…ッ!?」
驚いたのはゴウキだった。
「うああああああッッッッッッ!!!!!!」
晴が悲鳴を上げたかと思うと、目を硬く閉じ、その場に蹲ったのである。
「…な…ッ!?」
真っ白なグローブに包まれた右拳を突き出したまま、呆然と立ち竦むゴウキ。そこにはブルブルと小刻みに震える晴。その姿は、まだまだ純真な子供を彷彿とさせた。
「…く…ッ!!」
ゴウキの右腕がブルブルと震える。
「…フフッ!!」
その時、恐る恐る目を開けた晴がニヤリと笑った。
「…ッ!?」
その時にはゴウキは遥か後方へ吹き飛んでいた。
「…な…、…な…ッ!?」
何が起こったのか、すぐには判断出来なかった。
「フフッ!!」
目の前には勝ち誇った笑みを浮かべている晴。
「これが僕の能力なんだ。いわゆる、超能力ってやつだね!」
メガネのフレームをクイクイと上下に動かしながら、得意げに言う晴。
「そしてッ!!」
ドガガガッッッッ!!!!
その時、ゴウキは体に痛みを伴う衝撃を受けていた。
「ぐはああああッッッッ!!!!」
その衝撃に耐え切れず、ゴウキが更に背後へ吹き飛ぶ。そして、ドサッと言う音を立てて地面へひっくり返っていた。
「…ぐ、…ううう…ッッッッ!!!!」
体中に痛みが走る。冷たい大地の土埃を体中に浴びて、ゴウキのギンガブルーのスーツが砂塵にまみれ、茶色く変色して行く。
「そして、オレ達の能力は格闘技だ。オレ達はもっともっと小さい頃から一流の戦士になるべく、英才教育を受けて来たんだよ」
「そう。だから、子供だからってなめてると痛い目に遭うよ?」
来斗と洸が臨戦態勢に入っている。
「…や、…止めろ…!!」
体に力を入れて、懸命に立ち上がるゴウキ。
「…頼むから、…もう、…こんなことは止めてくれ…!!…勇太を、…元に戻してくれ…ッ!!」
相変わらず、虚ろな瞳で視線定まることなく見つめ続ける勇太。その勇太の体からは、しゅうしゅうと黒い靄が出続ける。
「…止めてあげてもいいけどぉ…」
トコトコとゴウキ、来斗、洸のもとへやって来る晴。
「…止めて欲しかったら、…ゴウキが死んじゃってよッ!!」
そう言った晴がぴょんと飛び上がったかと思うと、
「えいッ!!」
と右足を振り上げた。次の瞬間、
ボゴオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!!!
と言う鈍い音が聞こえ、
「…はぐ…ッ!?」
と言うゴウキの素っ頓狂な声が辺りに響き渡ったのだった。