希望と絶望 第1話
「うおおおおりゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
目の前にうようよと群がる全身迷彩柄のスーツを身に纏っている戦闘兵達。
「ああっ、ったくもうッ、後から後からうじゃうじゃと…!」
そう言うとその男は、
「イエロー二段投げええええッッッッ!!!!」
と叫んだかと思うと、2体の戦闘兵を軽々と担ぎ、
「うおおおおりゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と物凄い勢いで投げ飛ばした。すると、その巨体な男に担がれた彼らはあっと言う間に前方へ投げ飛ばされ、うようよと群がっていたその他の戦闘兵の群れにぶつかり、あっと言う間に倒れて行く。
「これでも食らええええッッッッ!!!!」
今度は地面に座り込んだかと思うと、
「イエロー風車投げええええッッッッ!!!!」
と叫び、その迷彩柄の戦闘兵達を柔道の巴投げの要領で次々と投げ飛ばして行く。その男の近くにいた彼らはあっと言う間に体を掴まれ、次の瞬間には地面に体を強打していた。
「へへん!どんなもんだい!」
パンパンと白いグローブに包まれた手を叩くその男。
巨体を揺らし、どすどすと歩く。黄色と白を基調にしたゴーグルスーツ。頭にはキラキラと輝くオパールの付いたマスクを被っていた。そのバイザーから覗き見える目はとても優しい目をしていて、ニッコリと笑うとその目がなくなるほどだった。
ゴーグルイエロー・黄島太。
この物語は、そんな心優しい戦士である黄島と、戦いを好まない一人の戦闘兵・マダラマンの悲しい物語である。
暗黒科学帝国デスダークの侵攻。大昔から科学技術を悪用した「悪魔の科学」を用いて人類に多くの災いをもたらし、過去にいくつもの文明を滅ぼしたと言われる暗黒科学者の集団。その歴史は5000年に及ぶと言われ、総統タブーと呼ばれる謎の支配者の下、暗黒科学の技術を結集して造られた浮遊要塞「暗黒巨大城デストピア」を本拠地とし、モズーと呼ばれる合成怪獣やコングと呼ばれる巨大ロボット、戦闘機デスファイターを繰り出していた。
総統タブーを頂点とし、その下にはピラミッド状の組織があった。指揮官がいて、モズーと呼ばれる合成怪獣がいる。そして、更にその下にはマダラマンと呼ばれる、全身迷彩柄の戦闘兵達が凌ぎを削っていた。
マダラマン。名前の通りマダラ模様の服で身を覆っているデスダークの戦闘員。基本的には無言だが、高知能を身に付けた者は会話をしたり、人質として捕らえた人間に命令することがある。その最たるは白衣を着て合成怪獣・巨大ロボの製造や各種実験に携わる者もいた。
そのデスダークの侵攻を止めるために立ち上がったのが、この黄島を始めとした5人の戦士、大戦隊ゴーグルファイブだった。リーダーの赤間健一はゴーグルレッドに、将棋が得意な黒田官平はゴーグルブラックに、アイスホッケー選手の青山三郎はゴーグルブルーに、黄島がゴーグルイエローに、そして、新体操の選手の桃園ミキがゴーグルピンクに変身するのだった。
「…全く、…キリがないよなぁ…!」
目の前でぐったりと横たわる夥しい量のマダラマンを見下ろしながら、黄島は大きく溜め息を吐いた。
今までどれだけの量のマダラマンを倒して来ただろう。合成怪獣モズーが1回の戦いに1体だとしたら、このマダラマンは1回に何体だ、と吐き気を催す。
「いくらオレが巨漢で力自慢と言っても、疲れるものは物凄く疲れるんですけど…」
そう言いながら黄島は首を左右に振る。すると、バキバキと言う音を立てて首が鳴った。
「…あぁぁ…」
何とも間抜けな声を上げて、右腕をぶんぶんと振り回す。
「…疲れてるなぁ、…オレぇ…」
と、その時だった。
「…ん?」
黄島の耳に、不穏な動きを表す音が聞こえて来た。その瞬間、黄島はその場に棒のように立ち尽くし、じっと神経を研ぎ澄ませた。
「…どこだ…?」
辺りを窺う。カサカサと草木が風に揺れる音に混じって、別のものがカサカサと動く音が聞こえる。
「…オレ様の聴力を、…バカにするなよ…?」
父親譲りの、鉱山師として鉱脈を探すのに耳は長けていた。どんなに小さな音でも聞き逃さないのが黄島の長所でもあった。
「…そぉこぉかああああッッッッ!!!!」
その瞬間、黄島はどすどすと巨体を揺らしながら草むらの中へズカズカと入り込んで行った。
「ひゃああああッッッッ!!!!」
引っ張り出されて来たのは、1体のマダラマンだった。
「まだまだいやがったか、このおッ!!」
黄島がそのマダラマンを軽々と持ち上げる。するとそのマダラマンは、
「…ちょッ、…ちょっと、…待ってくれええええッッッッ!!!!」
と悲鳴を上げ、黄島の頭上でバタバタと暴れ始めた。
「何がッ!!ちょっと待てくれ、だッ!!」
問答無用の状態で黄島はそう叫ぶと、
「うおおおおりゃああああッッッッ!!!!」
とそのマダラマンを投げ飛ばしたのである。
「うわああああッッッッ!!!!」
背中をしたたかに打ち付け、マダラマンは悲鳴を上げる。だが、すぐに起き上がると、
「…たッ、…頼むから…ッ、…待ってくれええええッッッッ!!!!」
とブルブルと体を震わせてそう言った。
「いいやッ、待たないッ!!」
黄島はそう言うと、そのマダラマンを背後から羽交い絞めにし、その太い腕でマダラマンの首を絞め上げ始めたのである。
「…う…、…うぐ…ッ!!」
マダラマンが自分の首を絞め上げている黄島の腕を叩く。足が宙に浮く。
「フッフッフ…。…どうだぁ、オレ様の腕はぁ!」
「…た、…助けて…くれ…!!」
その時、意識をしているのか、していないのかは分からないが、そのマダラマンの右手が何か柔らかいものを掴んだ。そして、無我夢中でそれを強く握り締めたのである。その途端、
「んぎゃああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
と言う素っ頓狂な悲鳴が聞こえた。と同時に、マダラマンを締め上げている黄島の腕の力が弱まり、マダラマンはその場にドスンと転げ落ちた。
「…え?」
マダラマンが驚くのも無理はない。
「…んん…ッ、…んぐぐぐ…ッ!!」
黄島が股間を両手で覆い隠しながら、腰をくの字に折り曲げていた。
「…きッ、…貴様ああああッッッッ!!!!」
「…え?…え?」
マダラマンが呆然とするのも無理はない。彼が無我夢中で握ったその柔らかいものこそ、黄島の太く逞しい2本の足の付け根に息づく、黄島の男としての象徴とその下に息づく2つの球体だったのである。
「…ぐ、…ぐ…おぉ…!!」
黄島は呻き声を上げながらぴょんぴょん飛び上がったり、腰をトントンと叩いたりする。
「…よっくも、…オレの大事なところを…!!」
ゴーグルイエローのマスクの中の瞳が怒りに血走っていた。
「…貴様ああああッッッッ!!!!…覚悟は出来てるんだろうなああああッッッッ!!!!」
黄島が指をバキバキと鳴らしながらマダラマンに近付いて行く。
「…え…?…あ…!」
我に返ったマダラマンは尻で後退りしながら、
「…た、…助けて…くれ…!…待ってくれええええッッッッ!!!!」
と悲鳴を上げた。すると黄島は、
「うるさいッ!!お前なんか、こうしてやるうッ!!」
と言ったかと思うと、じりじりと尻で後退りしているマダラマンの両足を持ち上げたかと思うと、その間に右足を捻じ込ませた。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
マダラマンがフルフルと顔を左右に振る。黄島はゴーグルイエローのマスクの中でニヤニヤと笑いながら、
「…ニヒヒ…!…覚悟しろよぉ?」
と言ったかと思うと、その右足を小刻みに動かし始めたのだ。その途端、
「ああッ!?ああッ!!ああッ!!ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!」
と言うマダラマンの悲鳴が辺りに響き渡ったのだった。