希望と絶望 第2話

 

「ああああッッッッ!!!!ああああッッッッ!!!!ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 キラキラと輝く太陽。荒涼とした大地。そこに一人の男の声が響いている。

「…やッ、…止めてくれええええッッッッ!!!!

 迷彩柄の服に身を包み、大股を開いている。その両足は持ち上げられ、両足首を掴まれ、その中心部には黄色いスーツに覆われ、白いブーツを穿いた太く逞しい足がめり込んでいた。

「フフフフッッッッ!!さぁ、これで終わりだああああッッッッ!!!!

 小刻みに右足を振動させる巨体な男。黄色いゴーグルスーツに身を包んだゴーグルイエロー・黄島太だった。

「ああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!

 迷彩柄の男・マダラマンは相変わらず悲鳴を上げ続けている。

「さぁ、そろそろお前の回路がショートして、お前はどっか〜ん、だッ!!

 マダラマンが機械で出来ていると言うことは知っている。小刻みな振動を回路に与え続ければ、その部分がショートし、回路全体がストップして動かなくなることも。下手をすれば、その場で爆発すると言うこともある。

「…さぁ、…もうすぐ…」

 その時だった。

「…もう…、…すぐ…?」

 目の前で悲鳴を上げ続けるマダラマン。そのマダラマンの2本の足の付け根の部分に大きな膨らみが出来始めたのが分かった。と同時に、そのマダラマンは抵抗するのを止め、ぐったりと地面に横たわっている。そして、はぁはぁと言う荒い呼吸音も聞こえて来た。

(…この形、…どこかで…)

 いや、どこかで、も何も、はっきりと見覚えがあった。黄島自身も知っている、と言うより、身近にあるものだったのだから。その瞬間、ゴーグルイエローのマスクの中で、黄島の顔が真っ青になった。

「…んまッ、…まさか…ッ!?

 黄島は急いでマダラマンの足を放すと、マダラマンに跨るようにしてしゃがみ込んだ。そして、はぁはぁと言う荒い呼吸音を立てている迷彩柄のマスクを一気に剥ぎ取った。

「…ッ!!??

 その瞬間、黄島は目を大きく見開いて絶句した。

「…よ、…洋…介…?」

 まだまだ幼さを残す顔付き。真っ赤になり虚ろな瞳をしているその男の顔に、見覚えがあった。

「…洋介…。…洋介じゃないか!!

 その瞬間、体中から力が抜け、黄島はヨロヨロと後ずさったかと思うと、ドスンと言う音を立ててその場に尻餅をついた。

「…どうして、…俺の名を…?」

 ゆっくりと起き上がった洋介と呼ばれた男は、不思議そうに黄島を見つめる。

「オレだよッ、オレえッ!!

 その瞬間、黄島の体が光り、ゴーグルイエローの変身を解いていた。

「…黄島…?…黄島なのかいッ!?

 一方の洋介も黄島の姿を確認し、目を大きく見開いて絶句した。

 黄島と島洋介。同じ「島」繋がりで出会った時から親しくなり、いつも一緒にいた幼馴染み。昔から巨体だった黄島の後ろをくっついて歩いていた島。お互いにケンカもしたこともなければ、苛められるようなこともなかった。もちろん、クラスの中にはいじめっ子は存在した。だが、誰も黄島と洋介を構う者はいなかったのである。ある意味、いじめっ子には黄島の存在が恐怖だったと言うのもあるだろう。

「…おッ、…おま…ッ、…何で…ッ!?

 マダラマンは全員、機械で作られているはず。すると洋介は、

「…そうか…。…お前、…ゴーグルファイブになったんだな…?」

 と寂しそうに笑った。そして、

「…俺は、…デスダークに改造されてしまったんだ…」

 と言った。

「…やつらは、機械仕掛けのマダラマンの生産だけで物足りなくなったんだ。そのプロジェクトの手始めに、適当な人間を攫い、洗脳し、身も心もデスダークに捧げる、そんなマダラマンを生産しようとしているんだ」

「…ま、…まさ…か…!?

 黄島の顔から血の気が引いて行く。最悪なことが頭を過ぎっていた。すると洋介は静かに笑って、

「心配するなよ、黄島。俺が、改造人間第一号だ。それに、俺以外の人間出身のマダラマンはまだ生産されていないって聞いたこともある」

 と、まるで黄島の心が分かるかのように言った。

「…どう言う、…こと…なんだ…?」

 そうは言われても、事の始まりが理解出来ない。

「…あれは…」

 遠い目をして何かを思い出すように、洋介は語り始めた。

「海洋学者になったばかりの俺は、研究所で海の生物の生態系の研究をしていた。その時、暗黒科学帝国デスダークが襲って来たんだ。彼らは研究所で飼育されていた海の生物を略奪しただけじゃなく、その研究所の中で一番若かった俺までもデストピアと呼ばれる要塞へ連行したんだ。そして、彼らは生体実験と称して、俺をこんな姿に改造したんだ」

 全身、迷彩柄で顔だけが人間の顔。傍から見れば、何だか奇妙な姿に見えてしまう。

「…洗脳シャワーを浴びせられながら、薄れて行く意識の中で総統タブーの声を聞いたような気がしたよ。…でも、俺は必死に耐えたんだ。その証拠に、身はマダラマンになってしまったとしても、心は人間としての心が残った。…お前との、…黄島との、…約束があったから…」

 

 数年前のことだった。お互いに高校を卒業し、別々の道を歩むことになったその時、

「お互いに別々になっても、お互いの夢を叶えような!!

 と2人で固い握手を交わした。そして、黄島は鉱山師として、洋介は海洋学者としての第一歩を踏み出したはずだった。

 

「…何で、…こんなことに…!?

 デスダークの卑劣な行いに、黄島の拳がブルブルと震える。そして、俄かに立ち上がったかと思うと、

「許せええええんんんんッッッッ!!!!洋介をこんなにしたデスダークを、オレは絶対に許さああああんんんんッッッッ!!!!

 と咆えた。

「待てよッ、黄島ッ!!

 その時、洋介が、黄島とは正反対の華奢な体で黄島にしがみ付いて来た。

「お前一人で何が出来るって言うんだいッ!?相手はとてつもない暗黒科学の力を持つ連中なんだぜッ!?いくらお前がその正義感で立ち向かって行ったって、お前一人じゃ、敵わないよッ!!

「…洋介…」

 その時、黄島は洋介の悲しげな瞳を見つめた。

「…俺は、…もう、誰も失いたくない…」

 洋介の目から涙がぽろぽろと伝う。

「…俺は、…もう、戻れない。…こんな姿にされてしまって、…父さんや母さんにも会えない。…人間としての意識だけが辛うじて残っているようなもんだ…。…かと言って、…俺はもう、どこにも居場所はない。…奴らは今、血眼になって俺を探しているはずだ。…生体実験の被験者第一号が、…敵対するゴーグルファイブと一緒にいるなんて分かったら、とんでもないことになるさ…!」

 その時だった。黄島が物凄い勢いで洋介を抱き締めたのだ。

「…黄島…?」

 あまりに唐突なことに、洋介は泣くのも忘れてきょとんとする。

「…失うもんか…!」

 黄島の太い腕がブルブルと震えているのが分かった。

「…お前を、…絶対に失うもんかッ!!

 そう言うと、黄島は洋介の細い両肩をガシッと掴んだ。そして、

「お前のことは、オレが必ず守ってやらあッ!!

 と鼻息荒く言った。

「お前は、オレの幼馴染みだけじゃない。大事な親友だ!」

「…黄…島…ぁ…!!

 洋介の目から溢れる。

「それにオレは一人じゃねえ!今はゴーグルファイブって言う仲間がいる!みんなに話せば、きっと、分かってくれるはずさ!」

「どうやってだよッ!?マダラマンと一緒にいるって知られたら、黄島こそ、気が狂ったと思われてしまうんじゃないのかいッ!?

「ああッ、もうッ!!そんなの、言ってみなきゃ、分からないだろうがッ!!

 すると黄島はキョロキョロと辺りを見回し、

「取り敢えず、ここから逃げよう!お前を匿わなきゃならないな!」

 と言うと、洋介と一緒に立ち上がった。そして、

「大丈夫だッ!!オレに任せとけ!!

 と言うと、洋介に向かってニッと笑ってみせたのだった。

 

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