災魔の誘惑 第3話
「…ったく、…冗談じゃないぜ…ッ!!」
家に戻ったショウはベッドの上に体を投げ出し、腕枕をしてぶつぶつと呟いていた。
「オレがアダルトビデオに出演するだと!?エッチなことをするだと!?…オレは…ッ、…オレはああああッッッッ!!!!」
次の瞬間、ショウは物凄い音を立ててベッドの上に立ち上がっていた。
「オレはッ、ゴーゴーファイブなんだッ!!地球を守るヒーローなんだぞオオオオッッッッ!!!!」
グレーのスウェットズボンを穿いた腰をグッと落とし、大声で叫ぶショウ。
その時、ドドドドッ、と言う音が聞こえ、
「どッ、どうしたッ、ショウッ!?」
と、兄のマトイがショウの部屋へ駆け込んで来た。
「あ゛あ゛んッ!?」
もとはと言えば、マトイが父・モンドに向かってガツンと言わないせいだ。そう思ったショウは、
「何でもねぇよッ!!ちょっと大声を上げたくらいで駆け込んで来んなッ!!」
と言うとズカズカとマトイのもとへ歩み寄り、グイグイと部屋の外へ押し出した。
「んなッ!?…ちょ、…お、おいッ、ショウッ!?」
いきなり乱暴に扱われ、マトイが悲鳴に近い声を上げる。だがすぐに部屋の外へ押し出されたかと思うと、ショウの部屋の扉がバンッ、と言う物凄い音を立てて閉められていた。
「…ったく…!!」
ショウは再びベッドの上にゴロンと横になる。そして、
「…はぁぁあああ…」
と大きな溜め息を吐いた。
「…オレ、…何のために今まで働いて来たんだろう…!」
首都消防局の航空隊ヘリコプター部隊員として空から街を守って来たショウ。その能力は他の誰よりもずば抜けており、将来を有望視されていた。だが、父・モンドの鶴の一声でゴーゴーファイブの一員・ゴーグリーンになったばかりか、首都消防局の航空隊ヘリコプター部に勝手に退職願を出され、更には退職金まで引き出された。
「…あれもこれも、欲しいものがいっぱいあったのに…」
その時に現れた司従栄。金をやる代わりにアダルトビデオに出演しろと言う。
「んなこと出来るかッ!!」
ショウはれっきとした公務員でもあり、更に、地球を守り、人命を守るゴーグリーンでもあった。その裏で、いかがわしいアダルトビデオに出演し、見ず知らずの者と体を絡めるなど、考えることが出来なかった。
「…それにしても…」
ゴロンと天井を見上げながら、ショウは呟いた。
「…あの司従ってやつ、…どこかで見たことがあるような気がするんだけどなぁ…」
黒い丸メガネに、中世の貴族のように長く伸びた髭。
「…怪しさ100%、…いや、200%…か…?」
ゴロゴロとベッドの上を転がるショウ。
「…だけど…」
何をやるにしてもお金がいる。ましてや、ショウのように死と隣り合わせで生きているような者には相当なストレスが溜まる。そのストレスを解消するために、買い物をしたり、美味しいものを食べたりする。そのためのお金が全くないのだ。
「…うぅぅ…ッ!!」
心臓がドキドキと高鳴っている。
「…そう言えば、あいつ…」
ショウは司従のことを再び思い浮かべた。
「あなたがもし協力をしてくれる、としたら…。1本につき、このくらいの報酬はいかがでしょう?」
銀色の錆びたデスクの引き出しから出した札束。
「…札束って、1束100枚だろ?…てぇことは、…100万円ッ!?」
1本出演しただけで100万円もくれると言うのだ。怪しいと言えば怪しい。
「…だけど…。…だけど…ッ!!」
ドクン、ドクン。
ショウの心臓が高鳴る。
「…1本…、…1本だけなら…」
1本出演するくらいなら、そう容易くバレることはないだろうと考える自分。
「…だけど…ッ!!」
たかが1本、されど1本だ。もし、何らかの拍子でバレたとしたら、それこそ、職を失うことになる。それどころか、ゴーゴーファイブでいることも出来なくなり、兄弟にも迷惑を掛けることになる。
「…だけど…ッ!!」
背に腹は代えられない。今のショウは、自分の欲望が限界を超えていた。
「また来てくれると思っていましたよ」
1時間もしないうちに、ショウは再び、司従のもとを訪れていた。
「…じゃあ、始めましょうか!」
ニコニコして準備に取り掛かる司従。その時だった。
「ちょっと待ってくれ!」
ショウが大声を上げる。
「…1本だけだ…!」
「…え?」
ショウの言葉に、司従は思わず聞き返した。
「…オレは、…ゴーゴーファイブなんだ。…いくら裏ルートで販売されるアダルトビデオとは言え、バレたら大変なことになる。…でも、今のオレには金が必要なんだ…!」
その言葉を聞いた司従は、
「…フッ!」
と笑うと、
「いいでしょう。無理にとは言いませんよ」
と言った。
「それから、もう1つ」
「今度は何でしょう?」
相変わらずニコニコとしている司従に、多少の不気味さを感じたが、ショウはキッと司従を見つめると、
「もし、顔を出すようなことがあるのなら、目隠しをさせてくれないか?」
と尋ねる。すると司従は、一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐにニッコリとして、
「いいでしょう」
と言った。
「よし!」
ショウが大きく頷く。すると司従は、
「では、早速始めましょうか!」
と言い、
「ショウ君。ゴーグリーンに変身して下さい」
と言ったのだ。
「…え?」
これには、今度はショウが聞き返す番だった。すると司従は、
「このビデオのテーマは、『ヒーローのオナニーショー』なのです」
とさらっと言ってのけたのだ。
「はああああああああッッッッッッッッ!!!!!!??」
あまりに突然のことに、ショウは大声を上げた。その時、司従が初めてムッとした表情を見せた。
「…ショウ君。…いいですか?…これはビジネスなんです。あなたのようなヒーローが淫らに悶え、喘ぐ姿を心待ちにしている人がいるんです。お金をもらうと言うのは、そう言う責任ある仕事をしなければならないと言うことなんですよ?」
それまでの穏やかな司従とは違っていた。それに圧倒されたショウだったが、
「…わ、…分かった…」
と、渋々頷いた。そして、左手に装着されているゴーゴーブレスを取り出すと、
「着装ッ!!」
と叫んだ。
その瞬間、ショウの体が光を帯び、次の瞬間、ショウの体は光沢のある鮮やかな緑色のアンチハザードスーツに包まれ、ゴーグリーンに着装していたのだった。