災魔の誘惑 第4話

 

 司従の目の前でゴーグリーンに着装したショウ。光沢のある鮮やかな緑色のアンチハザードスーツが、古びたビルの一室の窓から射し込んで来る太陽の光に照らされてキラキラと輝く。

「…素晴らしいよ…、…ショウ君…!」

 真っ黒な丸いメガネを掛けている司従の、そのメガネの奥の瞳がギラリと光ったような気がした。

「…く…ッ!!

 ゴーグリーンのマスクの、扇形を模ったバイザーの奥にあるショウの瞳の奥には、どこか不安が窺えた。そんなショウの不安を読み取ったのか、司従はニッコリと微笑むと、

「緊張しているのかね、ショウ君?」

 と尋ねた。

「…あ、…当たり前…だろ…!?…ひ、…人前で、…エ、…エッチなことをするんだから…!!

 思わず顔を真っ赤にし、つっけんどんに答えていた。すると司従は、

「そんなに心配しなくてもいい」

 と言うと、コツコツとミニキッチンまで歩いて行き、そこに置かれていたポットの中の液体をカップに注いだ。

「これを飲みなさい」

「…これは…?」

 未だに司従を訝しげに見つめるショウ。司従は相変わらず静かに微笑みながら、

「ただのお茶ですよ」

 と言った。

「…」

 ショウはカップに注がれた液体を見つめていたが、やがて意を決したかのようにゴーグリーンのマスクを外すと、そのままの姿でゴクゴクとそれを一気に飲み干した。

「…じゃあ、…始めましょうか。…ショウ君、そこのベッドの上に、足を投げ出して座って下さい」

 司従の言われるがままに、撮影用のグリーンバックの前に置かれた大きな鉄のベッドに腰掛け、両足を投げ出した。するとそこへ、数人のスタッフが入って来て、機材をセットし始める。

「今日は初回と言うこともあり、いろいろな質問をさせてもらいます。もちろん、エッチな質問ばかりですがね」

 司従はショウの傍へやって来ると、段取りを話し始めた。

「目隠しは?」

 ショウが尋ねると、司従は、

「心配しなくとも、ちゃんと用意してありますよ」

 と言い、アイマスクのようなものをショウへ差し出した。

「ショウ君はこれを付けて、そのインタビューに答えてもらいます」

「…ああ…」

 頷くショウだったが、どこかぎこちなくなってしまう。

 当然だろう。いくらお金のためとは言え、自分の信念に反するようなことをしているのだから。

(…1回だ…!)

 何度も自分に言い聞かせるショウ。

(この1回が終われば、全てが終わる…!)

「…準備出来たようですね…」

 バタバタと動き回っていた数人のスタッフが、司従とショウを取り囲むように見つめている。

「…では、始めましょうか!」

 そう言うと司従はそのスタッフの間に紛れ込むように、ショウとの距離を置いた。

「よろしくお願いします」

 代わりに、進行役と思える若々しい男性がショウの目の前に現れた。

「…よろしく…、…お願いします…!」

 ショウはそう言うと、アイマスクを付けた。

「じゃあ、まずは名前を教えて下さい」

「…巽ショウです」

「年齢は?」

「21歳です」

「ゴーグリーンなんだね。この世界を守る、正義のヒーローなんだ?」

「…はい…」

 淡々と質問に答えて行くショウ。

「じゃあ、次」

 目の前の光景が見えていないショウ。だが、ショウの目の前では確実に異変が起こっていた。

 質問をして来るスタッフだけではなく、カメラを回しているスタッフ、照明を当てているスタッフ、そして司従自身も禍々しい外見に姿を変えていたのだ。

 スタッフの正体は全身が黒、そして禍々しい赤い瞳を持つインプス、そして、司従は青緑色のレンズのメガネを掛け、中世の貴族のような髭を蓄えた男・呪士ピエールだったのである。

 全ては災魔が仕組んだ罠だった。だが、アイマスクをしているショウには目の前の光景は分からない。

「この世界を守るヒーローのゴーグリーンのショウ君なんだけど、人間だから、当然、エッチなこともするよね?」

「…え、…ええ、…まぁ…」

 苦笑するショウ。

「…じゃあさ、…オナニーは週何回?」

「…え…、…え…っと…」

 一瞬、ムッとした表情を見せたショウ。握り締めた拳がギリギリと音を立てる。

(…堪えろ…!!

 自分に必死に言い聞かせるショウ。

(…全ては、…金のためだ…!!

 大きく深呼吸をし、ショウは言った。

「…最近は、…週に…3〜4回…かなぁ…」

「最近は、と言うと?」

 質問係のインプスがなおも質問をして来る。

「…ゴーゴーファイブになる前は普通の公務員だったから、ほぼ毎日やってました。…でも今は、災魔との戦いで疲れ切っちゃって、帰って来てグッタリなんて日も多いから…」

「そっかぁ。大変なんだね。でも、正義のヒーローだから、カッコいいよね!」

「や、それほどでも…」

 思わず口元が綻ぶ。

「因みに、オナニーはどうやってやってるの?」

「…え?」

 困ったように笑うショウ。だがすぐに、

「こうやって…」

 と、真っ白なグローブに包まれた右手を軽く握るようにし、上下に動かしてみせた。

「道具とかは使わないの?」

「道具?」

「例えば、電動マッサージ器とか、ローターとか」

「んなもん、使わないですよ」

「じゃあ、今日、使ってみたいと思わない?」

「…そ、…そう…ですね…ぇ…」

「因みに、オカズはどうしてるの?やっぱりエッチなビデオとか?」

「それもあるけど、…妄想…とか…」

「女の子とエッチしている?」

「そう…」

 その頃までには、ショウの体に変化が起こっていた。光沢のある鮮やかな緑色のゴーグリーンのアンチハザードスーツ。真っ直ぐに投げ出された、ショウのがっしりとした2本の足。その中心部分に息づく、ショウの男としての象徴であるペニス。それが今、体にぴったりと密着するようにしているアンチハザードスーツの中で、その存在を少しずつ大きくさせ始めていたのだ。

「あれ?ショウ君のチンポ、大きくなって来ているね!」

 インプスが声を明るくして言うと、

「アイマスクを付けているので、質問を受けている間にもいろいろ妄想しちゃって…!」

 と、ショウはポリポリと頭を掻いた。

「じゃあ、もっと大きくさせちゃおうか!」

「…」

 ショウは覚悟を決めるかのように、大きく息を飲み込んだ。

「ショウ君。実際にチンポを触ってみせてよ」

 インプスがそう言った時、カメラ係のインプスがゆっくりとショウに近付いて行く。

「…はい…」

 ショウは頷くと、真っ白なグローブに包まれた右手でペニスとその下に息づく2つの球体を包み込む。そして、そこを優しく愛撫するかのように、ゆっくりと刺激を加えて行く。

「…ん…、…んふ…ッ!!

 時折、体をピクッ、ピクッ、と反応させながら、ショウは甘い吐息を漏らした。

 

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