災魔の誘惑 第8話
埃とカビ臭い臭いのする古びたビル。がらんとしたその一室には太陽の光が差し込み、静かに舞い散る埃をキラキラと輝かせていた。前回来た時と変わらない光景がそこにはあった。
だが今回は、部屋の中をお香のような甘い香りが漂っていた。そして、その部屋の中心部にある応接セット。その低いテーブルに出されたティーカップに注がれたお茶。それが静かに湯気を立てていた。
そんなティーカップを見つめるように、ショウはソファに腰掛け、両膝の上に両拳を握り締めて置いていた。その拳が小さく震えている。
「…取り敢えず、お茶を飲んで落ち着きなさい」
丸い黒メガネの男・司従が応接セットの前にある社長椅子に腰かけ、穏やかに笑みを浮かべてショウを見つめている。
「…ッ!!」
ショウはティーカップを取ると、ごくごくと喉を大きく鳴らしてそのお茶を飲み干した。司従は相変わらず静かな笑みを浮かべて、
「…外ではあんなことを言いましたけど、一体、何があったのです?」
とショウに尋ねた。すると、ショウは俯き加減だった顔を俄かに上げたかと思うと、半ば、司従を睨み付けるようにした。そして、
「…お前の…、…お前のせいだ…ッ!!」
と大声を上げ、おもむろに立ち上がったのだ。
「お前がッ、オレをゴーグリーンに装着させただけじゃなく、目隠しをして、オレに、…オ…、…オ…」
顔を真っ赤にするショウ。すると司従は、
「…フッ!」
と笑って、
「…ショウ君にオナニーをさせて…?」
と聞いて来たのだ。
「…そッ、…そうだよッ!!…オレにッ、…オナニーなんかさせて、オレは滅茶苦茶感じちまったんだ!!…それからは、家でオナニーをしようと思っても、チンポが全然勃たねぇんだよッ!!」
「…勃たない?」
司従が不思議そうな表情をする。
「ああ!!今までだったら普通のエッチなビデオで勃って、射精まで出来た!!けどッ、今はそれを見ても全然、勃たねぇんだよッ!!逆にこの間のことを思い出したら物凄く感じて、あっと言う間に射精するんだよッ!!」
はぁはぁと呼吸を荒くし、一気に捲くし立てるショウ。すると、それまで静かに聞いていた司従がおもむろに立ち上がると、
「それで、私にどうしろと?」
と言い、ニヤリとその口元を歪めた。
「…もしかして、…あの快楽をもう一度、味わいたいのですか?」
「…ッ!?…だッ、…誰が…ッ!!」
ショウが怒鳴る。だが、司従は静かにショウの真っ正面へ立った。
「では、どうしてショウ君はここにまた来たのですか?」
「…わッ、…分かんねえよッ!!」
その時、司従の黒いメガネが妖しく光った。
「分からない?…ククク…、…そんなはずはありませんよ…?」
「…え?」
司従が静かにショウに顔を寄せ、耳元へ口を寄せる。
「…あなたは…。…ショウ君は、もう一度、あの快楽を味わいたいのでしょう?」
ドクン。
ショウの心臓が大きく高鳴る。
「…ち…、…ちが…ッ!!」
目を大きく見開き、体が動かない。
「…違わない…。…ショウ君は、あの快楽に堕ちてしまったんですよ…!!」
「…あの…、…快…楽…?」
ドクン。ドクン。
ショウの心臓が大きく高鳴ると同時に、2本の足の付け根部分が急速に熱くなって行くのが分かる。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
気が付いた時には、ショウの下半身を包む迷彩柄のズボンの中心部分が大きく盛り上がり、前へ突き出すようにテントを張っていた。
「…そう。…君はもう抜け出せない…!」
ショウの耳元で囁くように言う司従。
「…止めろ…!!」
体が硬直して動かない。それが何故なのか、自分の意思なのか、ショウには分からなかった。
「…完全にハマってしまったんですよ…。…あの快楽に…!!」
ドクン。ドクン。
「…ち、…ちが…う…ッ!!…絶対に、…違う…!!」
ドクンドクンと心臓が大きく高鳴るたびに、ショウのペニスがビクンビクンと揺れ、迷彩柄のズボンを大きく動かす。
「…フフッ!」
司従が笑う。そして、
「…もっと感じたいでしょう?…もっともっと狂いたいでしょう?…いいんですよ、ショウ君。…ここでは何もかもを忘れて、ただひたすらによがり狂えばいいんですよ…!」
と、ショウの耳元で囁くように言い続ける。
「…あ…あ…あ…あ…!!」
ショウの目は大きく見開かれ、体がブルブルと震えている。そして、大きく勃起したペニスは何度も何度もビクビクと脈打ち、そこで体と垂直に張り出していた。
「…なんてね!」
突然、司従が素っ頓狂な声を上げたかと思うと、ショウの大きく勃起しているペニスをギュッと握ったのだ。それにはショウも、
「んああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
と声を上げ、思わず腰を引いていた。
「…んな…ッ!?…んな…ッ!?」
あまりに突然のことに口をパクパクさせるショウ。すると司従は、
「ただ単に、今までに感じたことのなかった凄まじい快楽を経験してしまったので、今は一時的にその快楽に溺れているだけですよ」
とニヤリとして言った。
「…そ、…そう…なのか…?」
肩すかしを食らったような、きょとんとした表情をするショウ。そんなショウを見て司従は、
「そうですよ!…それとも…」
と意地悪く笑うと、ショウへ顔を近付け、
「…もしかして、…アブノーマルをお好みですか?」
と尋ねた。
「んなッ、んなわけねえだろッ!!」
ショウがムキになって怒鳴り返す。すると司従は、
「ハッハッハッ!!」
と大声で笑った。
「冗談ですよ、ショウ君。あなたがノーマルな人間であることくらい、分かっていますよ」
司従はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、
「心配はいりません、ショウ君。すぐに普通に女の子のことを思って、ここを大きくさせることが出来ますよ」
と言うと、少しずつその存在感を小さくさせつつあるショウのペニスを手の甲でぽんぽんと刺激した。そして、
「今日はあなたにマッサージをして差し上げますよ」
と言った。
「…え?」
その言葉に、ショウが思わず身を引く。
「…ま、…まさか…、…司従さん…が…?」
どことなく顔を引き攣らせるショウ。それに対し、司従は、
「そんなわけないでしょう」
と言うと、ポンポンと手を叩いた。すると、部屋の奥の扉がスゥッと開いた。
「…ッ!?」
目の前に現れた人間を見た途端、ショウは目を大きく見開き、息を飲み込んだ。
「この者が、ショウ君にマッサージをして差し上げます」